事業承継で課される贈与税について

 2019.07.18  クラウドERP編集部

[E-Book]データ主導の意思決定に勇気を持ち続ける

中小企業経営者の平均年齢は年々引き上げられており、高齢化が進んでいます。その中で多くの経営者が“事業承継”という大きな課題に直面しており、事業を何らかの形で承継するか、廃業するかという選択に迫られています。現時点でいずれの選択肢を選んでいるにせよ、経営者ならば事業承継についての知識を身に付けておかなければいけません。

事業承継における経営権の委譲、不動産などさまざまな資産の贈与、たくさんの知識が必要です。中でも重要なのは「事業承継を実行する際に後継者に課税義務が生じる贈与税について」でしょう。事業を承継するということは、会社が持つ資産を贈与することになるので、当然ながらそこには課税が発生します。

どういった場合に贈与税が発生するのか?節税する方法はないのか?など、事業承継で課せられる贈与税についてご紹介します。

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事業承継と贈与税についておさらい

1.事業承継とは

事業承継とは、会社の株式を後継者に贈与または相続し、会社の経営を後継者が引き継ぐことを意味します。中小企業では経営者自身の経験・知識・技術などが会社としての強みになっているケースが多く、経営基盤そのものとなっています。

事業承継では「誰を後継者として選ぶか?」というのが重要な課題であり、多くの中小企業経営者にとって悩ましい問題の1つです。

事業承継の方法は大きく分けて3つあります。①親族に承継する、②親族外に承継する、③M&A(合併&吸収)によって承継する、の3つです。中小企業庁の調査では、20年以上前は全体の85.4%を占めていた親族内承継も、昨今では34.3%まで低下しており、その反対に親族外承継の件数が増えています。

引用:中小企業庁委託「中小企業の資金調達に関する調査」(2015年12月、みずほ総合研究所株式会社)

2.贈与税とは

贈与税は誰からから財産を受け取った時に課せられる税金です。事業承継においては、経営を引き継いだ後継者に課せられることになります。先代経営者が健全のまま事業を紹介すれば贈与税が、そうでなければ相続税が課せられます。

贈与税の課税方法は①暦年課税と②相続時精算課税の2つがあり、事業承継を実施する際はどちらかの課税方法を選択します。

①半円間110万円以内ならば贈与税は課せられず、110万円以上の財産を贈与すると贈与税が発生します。一定金額を上回るごとに税率が上がるのも①の特徴です。課税財産が3,300万円以上にのぼると、贈与税率は55%に達します。

一方、②では年間2,500万円までの贈与税が課税されません。それ以上の金額になると一律で20%の贈与税が課税されます。①を選択するよりも事業承継による負担を軽減できます。ただじ、生前贈与の金額分が相続時の課税分に加えられる点に注意が必要です。相続税率は1億円までなら30%の税率です。

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事業承継の贈与税を削減する方法

贈与税の金額は、贈与される株式の価値によって変化します。事業所掲示の贈与税負担を軽減するために、株価の引き下げが有効でしょう。株価を引き下げる方法はいくつかあります。ここでは贈与税対策としてポピュラーな対策手法をご紹介します。

1.役員退職金の支払い

役員退職金は経営層が退職する際に支払う退職金であり、これを活用することが株価を引き下げ、贈与税の負担額を経られます。退職金を支払うことで会社の利益は減少し、利益の減少に伴い株価も下がります。

非上場企業の株価は配当金などに基づいて決定されるため、株価が下がったタイミングで贈与することで、贈与税の負担金額を減少できます。さらに支払われる役員退職金を、贈与税等などの事業承継費用に回すことも可能です。

2.生命保険への加入

生命保険に加入することも贈与税対策として有効な方法です。生命保険の資産価値は解約返戻金の金額とイコールになります。解約仮戻金とは、長く加入するほど解約返戻り金が多くある仕組みになっています。初年度の解釈・返戻金は0円が大半であり、承継にかかわる費用を削減できます。

3.相続時精算課税の活用

相続時精算課税を利用することで、年間2,500万円までの資産に対して贈与税が非課税となります。非課税の範囲内で生前贈与を行えば、贈与税を支払わらずに事業承継が行えます。しかし、相続時に贈与税の代わりに相続税が課税されるため、その点に注意が必要です。とはいっても贈与税率と相続税率の違いから、相続時精算課税の活用は有利に働く可能性が多いでしょう。

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事業承継税制の活用

事業承継では贈与税か相続税か、いずれかの課税が必ず発生します。ただし、2018年に大幅改正された“事業承継税制”では、一定の条件のもと贈与税および相続税の課税が猶予されることになります。

事業継承税制、改正前・改正後の違い

 

改正前

改正後

対象となる株式

猶予される税額

対象となる株式数

猶予される税額

贈与税

発行済み株式総数の2/3まで

全額

取得したすべての株式

全額

相続性

発行済み株式総数の2/3まで

80%

取得したすべての株式

全額

事業承継税制とは、「円滑化法(中小企業における経営の継承の円滑化に関する法律)による都道府県知事認定を受けている非上場会社の株式等を、会社の後継者が贈与税または相続等により取得した場合において、その非上場株式等にかかわる贈与税・相続税について、一定の要件のもとその納税を猶予し、後継者の死亡等により納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される」、という制度です。

後継者が非上場株式を先代の経営者より取得し、その会社の経営を引き続き行っていく場合には、承継する非上場株式の贈与税・相続税の納税が100%猶予されることになります。事業承継にて発生する贈与税および相続税が0円になるのですから、節税インパクトは非常に大きいでしょう。

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事業承継税制についてより詳しく理解する

1.後継者が複数人存在していても適用が可能に

従来の事業継承税制は、先代の経営者と後継者1名の1対1の関係の場合のみ適用されるものでした。改正後は、先代の経営者以外からの贈与・遺贈、または複数の後継者への贈与・相続も納税猶予の対象になります。

税制の適用対象が広がることにより、さまざまなパターンで事業継承税制が活用されるようになります。たとえば、複数の株主から1人の後継者の自社株を集約した場合、後継者を1人に絞り切れない場合においても、事業継承税制が活用できるようになっています。

ただし注意点もあります。先代経営者以外からの自社株の贈与・遺贈においては、特例承継機関(5年)内に、贈与税・相続税の申告期限を迎える場合に限り納税猶予の対象になります。もう1つの注意点は、自社株を引き継ぐ後継者が最大3人まで納税猶予の対象になることです。ただし、それぞれが議決権数の10%以上を保有し、議決権数の上位2名または上位3名であることが条件となります。

2.雇用確保要件が緩和された

従来の事業継承税制は、5年間の平均で雇用の80%以上を確保することが求められていました。雇用が確保できなければ猶予が打ち切られ、贈与税・相続税に利子税を加えて納税しなければいけない、という条件があったのです。

平成30年の改正後は、たとえ雇用が確保できなくても都道府県に理由書を提出すれば猶予が継続されます。理由書は、認定経営革新等支援機関の意見を記載し、場合によっては支援機関の指導・助言を受ける必要があります。

3.業績悪化による自社株の譲渡等は納税が一部免除される

業績悪化などの理由により、特例承継機関の経過後に自社株を譲渡する場合、または会社の合併・解散をする場合には、一定の条件のもとに納税が一部免除されます。

事業承継において贈与税・相続税は避けられない道です。事業承継税制の適用条件に当てはまるか等を確認して上で、節税について考えてみましょう。

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