M&AやIPO、海外展開を目指す企業のための人事労務管理とは

 2016.04.08  ひので監査法人 羽入 敏祐 氏

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企業は異なるバックグラウンドをもつヒトが一同に集い、相互に役割を定め、その遂行を行なうことで事業実現を目指す組織体。製造業、サービス業など業種に応じて濃淡はありますが、事業運営においてヒトの果たす役割は、これまでも、そしてこれからも最重要事項であり続けます。

企業にとっての最大の投資であるヒトを管理する人事労務の役割も極めて重要な役割を果たすところですが、人事労務の管理体制は、従業員それぞれの働きに対する評価を決定付ける部門であり、また、従業員の生活に直結することもあり、なかなかその業務がどのように行われているかは外からは見えにくい業務といえましょう。

実際のところ、その運営方法は各社各様です。人事と労務を一括管理するケースもあれば、分離運用するケースもありますし、各部門長に権限委譲されるパターンもあれば、社長がそのほとんどを掌握するパターンもあるなど、運営の際の管理環境も様々です。ヒトにかかわる業務も、入退社管理から、日常の勤怠管理、残業に伴う健康管理、福利厚生、そして賞与査定、昇格・降格等の人事評価、人事制度の設計などきわめて多岐に渡るものの、情報の秘匿性が求められることもあり、これが「あるべき人事労務管理」といった「解」を見出すのはなかなか難しい部門のひとつといえましょう。

人事労務部門の業務内容とは

人事労務部門で行なわれる業務内容を整理してみると、おおよそ次のような事項が挙げられます。

  • 人事企画(人員配置計画・採用計画)
  • 採用管理(書類選考・面談セッティング・結果情報管理)
  • 社内教育・目標管理
  • 健康管理
  • 入退社管理(雇用契約・ID登録・PC等手配依頼・退職手続)
  • 勤怠管理・給与計算、社会保険/労働保険手続
  • 人事制度・福利厚生の設計・変更、運用
  • 人事考課(職位・等級クラス・賞与査定)
  • 労働争議対応

業態によっては、正社員にかかる人事労務管理に加え、パート・アルバイト雇用もありますので、規模の大きな事業体であれば、採用、退社手続をほぼ一年中行なっているご担当者も少なくないことでしょう。

人材採用の意思確認さえ終われば、あとの作業はさしたることではないだろうと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、以上のようにヒトにまつわる業務でもあり多岐に及んでいます。

入社時だけでも、入社時の雇用条件確認、職位・等級・所属部署等の社内決定事項から社会保険手続等公的手続に係る人事関連文書の入手、社員番号および社内システム等への登録・権限設定、貸与PCセッティング手配などなど、人一人が仕事を始めるに際し、準備すべきことは広範です。

また、人事労務部門は一人一人にとって大きな人生のターニングポイントとなる入社(あるいは退社)時の企業側の窓口としての役割を果たすことにもなるため、その対応のでき不出来が、企業の人事労務に対する印象を大きく左右することにもなります。下手に対応を誤れば、企業に対する不信感を招くことにもなりかねないセンシティブな職域といえるでしょう。

加えて、人事労務業務には、制度上求められる細かなルールの定めがあり、そうしたルールに則った運用が求められるだけでなく、入社当日から勤怠管理が始まるなど常に待ったなしで正確な手続きの遂行を求められるため、人事労務管理を誰にでも任せるわけにはいかない点が特異なところです。

管理の厳格化がすすむ人事労務

多様な働き方が世の中から受け入れられるようになった反面、そうした働き方が労働法上どのように取り扱われるか慎重な検討を重ねた上で運用開始しないと、企業と従業員相互にとって残念な結果をもたらすこともあります。

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とりわけ多くの従業員を抱える企業においては、現存する労働法のルールのもとで、従業員をどう処遇していくのかについての大方針と、それを実現する運用ルールの整備運用は経営管理における重要なテーマの一つです。

すでにご存知の方も少なくないとは思いますが、上場準備作業においても、労働問題は最重要課題のひとつとしてあげられており、公開企業として遜色ない勤務体制の構築と運用に向けた取り組みが、株式公開の準備段階から求められています。

加えて、近年の過剰労働問題がニュースを賑わすたび、これに対する法制度の変更そして当該制度変更に伴う行政チェックは増える一方です。マイナンバー対応といったような人事情報管理についてIT技術を利用しない限り対応しがたい制度的要請も順次進行しています。

こうした社会的背景の変化もあり、労働法制度への対応を、その場限りで取り繕い、しのぐことは、極めて難しくなったということでしょう。

人事労務は、企業各々が培ってきた働き方の風土もあり、そう簡単に変えられるものではないだけに、今後の事業の方向性をふまえた働き方、人事評価ならびに報酬体系について時間と手間をかけて検討を重ね、社内のコンセンサスをじっくり形成して頂きたいところです。

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就労形態の変化と人事労務

スピード感が求められるビジネス環境ですので、人事制度もビジネス環境の変化に併せてすぐさま変更できれば良いのですが、労働法等の枠組みとの整合性の兼ね合いもあり、経営陣が思うような枠組みにはならないこともたびたびでしょう。

柔軟性の高い人事制度といえば聞こえはいいですが、あまりに制度変更を重ねてしまうと、変更過程の思わぬところで(意図せざる)公正性に欠ける制度設計となってしまい、結果、制度そのものへの不信感をもたらすことにもなりかねません。

企業運営の多くの分野では、スピーディな対応が求められる時代ではありますが、こと人事労務についてばかりは「とりあえず、やってみましょう」とはいい難い業務分野のひとつです。

昨今、事業成長の有効な手段のひとつとしてM&Aは盛んですが、人事制度のすり合わせは、管理担当者の悩みのタネでしょう。別法人のままであればまだ良いのですが、合併、営業譲受などを通じて同一法人格に統合されてしまう場合などは、相当頭を悩ますことでしょう。異なる人事制度をどのようなステップを踏みながら構築していくのか、場合によっては、よほどの力技が必要かもしれません。

M&Aには、様々なメリット・デメリットを考察した上で、投資スキームについての選択が最終的にはなされますが、ヒトの集合体である企業組織において人事制度の相違点が再編以降の事業運営におよぼす影響を勘案しながら、相違点の現状把握、再編直後の対応策ならびに中期的視点での対応方針について方向性の確認を行なっておくことが望まれるところです。

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人事管理のあり方

良くも悪くも人件費のコストコントロールが企業運営の要諦となる今、グループ全体で人事制度をどう構築し、外部環境の変化が人事制度に及ぼす影響を、長期的視点で把握しておくことは重要です。海外展開を図るとなれば、なおのことです。

近年、幾分変化の兆しもありますが、それでも尚、日本では、報酬体系、昇格、降格ルールについてコト細かく質問を受けるケースはまだ少ないものですが、海外の場合はルールの明示を面接当初から求められることも。

外資で働く以上、雇用条件はもちろんその後のキャリアパスをクリアにしておきたいというのは至極当然の成り行きではありますが、海外進出に直面して初めて、これまでの人事ルールの不明確な点に気づかされることも多いのではないでしょうか。

フェアでわかりやすい分配ルールづくりは、国境を越えた企業と社員との信頼関係を築くうえで重要であり、海外展開を想定されている企業の皆様におきましては、海外の方に説明できる人事制度になっているかの視点で一度制度の見直しをしてみるのも一案でしょう。

海外進出するしないにかかわらず、ヒトが企業にとってもっとも重要な投資のひとつである以上、人件費の発生状況ならびに、その支給ルールのベースとなる人事制度の現状把握が必要となりますが、そのためには、足元の人員構成、平均賃金、部門別人数に加え、各従業員の勤務年数、入社後の等級推移、その際の評価情報あるいは入退社数の月次推移など多面的な切り口から時系列で人事データを捉え、人事企画に有用な情報提供を実現する情報管理体制作りが求められます。

その一方で、人事情報の秘匿性から極めて限られた人員だけが企業の人事情報を管理するという手法をとるケースも少なくなく、秘匿性を重視するあまり、グループ全体の人事情報を俯瞰する、あるいはグループ内人材再発掘のデータベースとして活用されないケースが散見されます。

たしかに情報の秘匿性を担保するうえで、特定の人員だけに情報集約する手法は一案かもしれませんが、人事考課・目標設定あるいは経営分析など他部門からの提供依頼は少なくなく、都度提供となることから、他部門における人事情報のバージョンがいくつも生まれるだけでなく、情報が最新であるかどうかの確認作業に余分な時間を費やすことに陥りがちです。マスタ情報について厳格な情報管理をしていたものの頻発する提供依頼に対応するあまり、誤って他部門に提供してしまったという笑えない話も生まれます。

担当者の注意不足といってしまえばそれまでですが、エクセルデータなどによる情報管理・提供力は管理者の資質に大きく依拠しがちで、また、人事にまつわる経営情報は常に断片的な情報提供に陥ってしまいます。

事業規模と人件費・配置人数のバランス、 入退社数の推移あるいは勤続年数の変遷、営業実績と人件費の相関分析など人事にまつわる経営分析は、適切な人事評価、労働分配、新たな働き方の模索など多くの示唆を与えてくれる情報の宝庫です。

そうした視点に立てば、例えば、人材データベースを一箇所に集約し、入退社・所属部門といった時点情報だけでなく、社内職歴・報酬履歴など履歴情報などをリアルタイムに把握し、その用途に応じて必要な部分を必要な人だけに情報共有していく、 いわば人事情報と活動実績とを捕捉するそんな経営管理体制の構築を目指すべきなのかもしれません。そんな人事DBの整備運用がこれからのあるべき方向性ではないでしょうか。

著者紹介

hanyu-samaひので監査法人 羽入 敏祐 氏

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所、上場企業等監査業務に従事。会計事務所にて会計・税務全般およびM&A関連各種業務事業会社では経営管理実務、IPO準備全般に従事。
監査・経営実務経験を踏まえたITインフラ提案力に強み

ひので監査法人について

ひので監査法人は、2009年5月 設立、大手監査法人の監査経験者と事業会社のマネジメント経験者から構成され、上場準備、中堅国内上場企業向けの効率的監査サービス、バックオフィス支援サービスの提供をしております。信頼される会計プロフェッショナルとしていかに成長し続けていくかを日々模索し、監査ならびにバックオフィス構築サービスの品質維持・向上に取り組んで参ります。

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