IPOを目指す企業の会計とは? 上場準備のための基礎知識 をご紹介

 2016.02.25  ひので監査法人 羽入 敏祐 氏

2015年の株式市場は、様々な問題点をはらみながらも、数字的に見れば好調な1年であったように思います。IPO件数についても新規公開会社数は95社でした。
今回は、企業が株式公開を果たす際の重要なテーマのひとつ、「会計」について取り上げてみたいと思います。

IPOに必須の「公認会計士監査」

IPOのためには必ずパスしなければいけないのは、「公認会計士監査」です。監査の対象となる企業の決算書は、企業のおかれた財政状態と事業活動の結果が定量的に凝縮されたレポートですが、その作成プロセスは、毎日発生する販売・購買・その他事業取引を、経理その他関係者による何らかの形で形成された処理ルール、あるいはプロセスを通じて積み重ねられるものです。

会計仕訳は、事業規模に応じて様々ながら、少ないところでも年間数万から数十万、おおければ何百万という処理の積み重ねとなりますので、公認会計士に指摘されたからといって直ちに訂正できるものでもありません。IPO準備作業では会計以外にも重要なテーマは目白押しですが、企業活動を正確に示す義務が上場企業にある以上、その精度向上が求められるのは当然です。それゆえ、上場を目指す企業が上場前の決算情報作成能力の有無を慎重に判断されるという事前調査という観点から、適切かつスピーディな決算情報開示を上場前2事業年度を求められることになります。

IPO/上場前に会計で指摘される3つのこと

このような公認会計士監査の事前調査手続き、俗に「ショートレビュー」といいますが、こうした手続において、「会計」面で指摘されることは大きく、下記の3つが挙げられます。

  1. 明文化された社内経理処理ルールの不存在、
  2. 税法ベースと金商法ベースとの経理処理の乖離、
  3. 税務決算では不要な金商法固有の会計処理未実施、

があげられます。

非上場企業において決算情報は、納税額を決めるため、あるいは借入等をしている金融機関などへの報告のために作成されますが、金商法ベースの決算情報の提供を求められることはまれであり、通常、税務決算のみがおこなわれるものです。そこでは、正確な決算情報の提供よりも(程度の差はありますが)「節税」が優先されがちです。企業運営上、税金をルールの枠内で低く抑え、浮いた資金を新たな投資あるいは他の運転費用に生かそうとするのは合理的な判断といえます。こうした考えに立てば、社内ルールを厳格にするというより、税制動向を勘案しながら経理担当者と顧問税理士相互の協力のもと、より節税効果の高い経理処理の選択、社内運用されますので、必ずしも具体的な処理ルールを定めずとも経理実務は以外にスムーズに行なわれています。

しかし、上場企業を目指すとその方向性は大きな転換が求められることになります。
まずは勘定科目にどのような取引を取り扱うのか、処理ルールの明文化、統一化ならびに当該ルールの変更手続そのもののルール作りとその運用が求められます。

科目選定についても、経理担当が都度、その場の自己判断で自由に決定できない、そんな運営体制が必要というわけです。

経理処理ルールの文書化・統一化およびその運用は、管理体制が小規模であればあるほど、担当者の資質・技能によるところが大きく、企業によっては決して簡単なことではないかもしれません。しかし、こうした要請はひとえに規模拡大が見込まれる上場準備企業ゆえ、処理要員が増加しても処理の均一性が保たれる必要がある以上、科目設定とその利用ルールについて一定の枠組みを設けることは効果的といえましょう。

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2つめのポイント、税法ベースと金商法ベースの経理処理の差についても論点は少なくないものです。税法ではどちらの処理も選択しうるが、上場を目指す場合、税務決算とは異なる視点で処理ルールを選択しなければならないことがあるものです。

「地代家賃」を例にあげれば、税務決算上では、従来、一括損金処理してきた前払家賃ですが、IPO準備のためのショートレビューでは、あろうことか月次ベースで対象期間にわたり費用計上が求められ、税金をみすみす早く支払うことになる、あるいはせっかく交渉の末に獲得したフリーレントを賃借期間にわたり按分処理をさせられるなど、税務決算の視点に立てば随分と無駄な処理が求められているように見えるかもしれません。

でも残念ながら企業の決算情報の精度向上の視点に立てば合理的とされています。このような処理変更を求められる取引は、家賃だけに限りません。税金の早期納付を意図した様々な工夫は、会計で言うところの「発生ベース」のスクリーニングにかけられ、会計処理の是非が経済実態を如何に正確に表しているか否かの判断基準で決定されていくことになるわけです。

「発生主義の厳格化」とでも、いえば言えばいいでしょうか。売上取引については、上記に加え、取引が本当に実現したかどうかがポイントとなります。事業の最重要取引である売上高については、保守的に「実現主義」をもって売上を認識します。

「実現主義」の要件は、「①財貨又は用益の移転(商品引渡し・役務提供等)」および、「②現金又は現金等価物(現預金、売掛金、手形等)の取得」という2つの要件をもって販売取引の実現があったと考えるものです。つまりは、売上取引の成立は、商品等の引渡し、役務提供をしたからといって「実現」とは判断せず、相手方からその事実関係の認識があってはじめて成立するという考えです。

会計監査上も、取引成立を確認するため、取引の相手方に直接確認状を送付し、その事実関係の検証がなされます。仮に、この手続きで大きな差がたびたび発生するようでは、IPOは困難を極めることでしょう。

社内での売上計上ルールはもう既に確立されており、いまさらと思われるかもしれませんが、取引先とのスムーズな残高確認ができるかどうかはIPOにおいてはきわめて重要なテーマです。売上請求書など社内作成資料以外で売上高の根拠資料が提示できないようでは会計士の立場から言えば心もとないです。

上場準備会社がパブリックになるには、自らが公表する売上が実現し、それに見合う原価を発生時に適切に費用計上していることを立証することが必要です。

いずれの処理基準を選択するかは、これまでの商慣行の経緯を踏まえ、そのうえで、相手方との取引実態を正確に把握する、つまりは文書等で取引の相手方と確認しあえるような文書あるいはこれに類する情報入手を可能とする処理ルールと効率的処理プロセス、できれば、それを実現するシンプルなものを選択して欲しいところです。

最後に、金商法ベース固有の会計処理については、広範囲に及びますが、おおよその企業で対応が必要であろうと思われるテーマをあげるとすれば、以下のような項目が挙げられるでしょう。

  • 人件費関係(従業員賞与、役員賞与、退職給付等人件費関連引当金など)
  • 固定資産関係(リース会計、減損会計、資産除去債務、有価証券評価差額など)
  • 引当金関係(製品保証・損失補償など)
  • 税金関係(税効果会計、課税所得見通しの正確性)
  • グループ会計関係(連結、M&A、のれんなど)

企業の財政状態は各社各様ですので、金商法ベースへの移行が及ぼす影響をひとくくりに整理するのは難しいところですが、ざっくりと整理すると以下のようになるでしょうか。

  純資産への影響
損益への影響 税金関係 人件費関係
引当金関係
税金関係
有価証券関係 固定資産関係
有価証券関係

金商法固有の処理を導入するのは、会計処理についての知識を高め、その制度趣旨に則した会計処理能力が企業側に求められることに加え、決算書とりわけ、純資産への影響はプラス面はわずかであり、その一方でマイナス面ばかりが目立つことを、改めてご理解いただけるのではないでしょうか。

個々の会計処理の論点を挙げれば、どこから手をつければよいのか途方にくれることかもしれませんが、迷ったときに着手すべきは、いずれの論点でも何らか関係している「年次予算編成の精度向上」ではないでしょうか。

上場企業には将来見通しの確からしさを求められるからなのか、金商法固有の会計処理においても、「将来見通し」を基礎に会計処理の積算根拠は作成されるもの、それゆえ、企業運営の将来見通しの基盤たる年次予算の「正確性」の有無が、会計処理の精度、信頼性に大きな影響を及ぼすことになるのです。

金商法ベースの決算を行なうとなれば、不正確あるいは根拠の乏しい販売・損益見通しは単なる予算修正に留まらず、時に決算修正もたらしかねないものです。度重なる予算修正を頻発させれば、その信頼を取り戻すのはそう簡単なことではありません。

とりわけ上場企業のこうむる損失は大きく、その信頼回復には大きな苦労を伴います。

裏を返せば、根拠のしっかりした実現可能性の高い予算編成ができている限り、多少の障害があろうとも金商法ベースの決算対応は何とか乗り越えられるはずです。あとは、予実管理を踏まえた会計処理の明確なルール作りとその遵守、そして、第三者でも事後的に確認できる決算情報が整備保管体制作りを順次手がけていくといったところでしょうか。

会計ルールも世の中の流れに併せて順次変化していくもの、IPO準備の過程が金商法の会計基準の習熟期間として利用することは重要ですが、まずもって集中すべきは、日常取引の集積たる販売・購買その他主要取引を、持続的かつ安定的に処理できる経理体制作りを目指すことが結果的にはIPOの実現に向けた近道であり、成長の礎になりうるのではないでしょうか。

著者紹介

hanyu-samaひので監査法人 羽入 敏祐 氏

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所、上場企業等監査業務に従事。会計事務所にて会計・税務全般およびM&A関連各種業務事業会社では経営管理実務、IPO準備全般に従事。
監査・経営実務経験を踏まえたITインフラ提案力に強み

ひので監査法人について

ひので監査法人は、2009年5月 設立、大手監査法人の監査経験者と事業会社のマネジメント経験者から構成され、上場準備、中堅国内上場企業向けの効率的監査サービス、バックオフィス支援サービスの提供をしております。信頼される会計プロフェッショナルとしていかに成長し続けていくかを日々模索し、監査ならびにバックオフィス構築サービスの品質維持・向上に取り組んで参ります。

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