属人化の解消方法とは?
原因やリスク、組織を強くする仕組み作りを解説

 2026.01.19  クラウドERP実践ポータル

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特定の担当者が不在だと業務が止まってしまう、退職によるノウハウ喪失が懸念されるといった属人化の課題に頭を悩ませていませんか?業務の属人化は、品質のばらつきや不正のリスクを招き、組織の持続的な成長を阻害する重大な経営課題です。本記事では、属人化が発生する根本的な原因やリスクを整理し、マニュアル作成などの即効性のある手順から、ERPなどのシステムを活用して「人」に依存せず「仕組み」で解決する本質的なアプローチまでを網羅的に解説します。

属人化の解消方法とは?原因やリスク、組織を強くする仕組み作りを解説

【この記事でわかること】

  • 属人化が発生する原因と放置することで生じる具体的な経営リスク
  • 業務の棚卸しからマニュアル化まで、属人化解消に向けた5つのステップ
  • 属人化を根本から防ぎ、経営変革(MX)を実現する仕組み作りの方法

属人化とはどのような状態か

「この仕事はあの人にしか任せられない」「その案件に関してはあの人に聞かないと全然わからない」といった状況を職場で経験したことはないでしょうか。もし身に覚えがあるのなら、それは組織内で属人化が生じている兆候です。

属人化は、特定の担当者がいなければ業務が回らないというリスクの高い状態であり、多くの企業が抱える経営課題の一つです。ここでは、属人化の具体的な定義や、対義語である「標準化」との違い、そしてなぜ企業にとってリスクとなるのかについて詳しく解説します。

属人化の意味と定義

属人化とは、業務の手順や進捗状況、あるいはその業務に必要なノウハウが、特定の社員個人にしか把握されていない状態を指します。要するに、「その人がいないと業務が遂行できない」「どう処理されているのか誰も分からない」というように、業務の成否が個人へ極端に依存してしまっている状態のことです。

この状態に陥ると、業務プロセスが周囲から見えなくなるため、いわゆる業務のブラックボックス化を引き起こします。担当者が独自のやり方で進めていても誰も指摘できず、効率的なのか非効率なのかさえ判断できなくなるのが特徴です。

標準化された状態との違い

属人化の対義語として使われるのが「業務の標準化」です。標準化とは、特定の個人に依存せず、誰が担当しても同じ手順で、一定の品質を保ちながら業務遂行ができる状態のことを指します。

属人化している状態と標準化された状態には、以下のような明確な違いがあります。

比較項目 属人化した状態 標準化された状態
業務の依存先 特定の個人(担当者) 組織・仕組み(マニュアル等)
業務品質 担当者のスキルや体調によりバラつく 誰が担当しても一定の品質が保たれる
トラブル対応 担当者不在だと対応不能になる 代理の担当者が即座に対応できる
業務の透明性 ブラックボックス化し、実態が見えない プロセスが可視化され、管理可能
引き継ぎ・教育 口頭伝承や「見て覚える」が必要で困難 マニュアル等により短期間で完了する

このように、属人化は「人」に依存するのに対し、標準化は「仕組み」に依存させるアプローチと言えます。組織として持続的な成長を目指すのであれば、属人化を解消し、標準化を進めることが不可欠です。

なぜ属人化は「悪」とされるのか

ビジネスの現場において、特定の社員が高い専門性を発揮すること自体は悪いことではありません。しかし、業務プロセスそのものが属人化してしまうことは、企業にとって「悪」であり、非常に不健全な状態とされます。その理由は、経営に直結する重大なリスクを孕んでいるからです。

まず、担当者が急に休んだり退職したりした際、業務が完全にストップしてしまうリスクがあります。その担当者しか知らないパスワードや手順があれば、顧客からの問い合わせに誰も答えられず、企業の信用を損なう事態になりかねません。

また、属人化はガバナンス(企業統治)の欠如にもつながります。業務がブラックボックス化しているため、組織的な管理やチェック機能が働きません。仮に担当者がミスを隠蔽したり、不正を行ったりしていても、周囲がそれに気づくことができず、発見が遅れて大きな損害を生む温床となります。

さらに、特定の個人に業務負荷が集中することで、長時間労働が常態化しやすい点も問題です。「あの人は忙しいのに他の社員は手が空いている」という状況が生まれ、組織全体の生産性を低下させるだけでなく、過重労働による離職を招くという悪循環に陥る可能性があります。

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経験や勘からの脱却、データ主導の意思決定が企業成長には不可欠

属人化が発生してしまう根本的な原因

属人化を解消し、組織としての強さを取り戻すためには、まず「なぜ属人化が起きてしまうのか」という根本的な原因を深く理解する必要があります。表面的な現象に対処するだけでは、一時的に解消したとしても、時間が経てば再び特定の個人に依存する体制に戻ってしまうからです。

属人化が発生する背景には、個人の資質だけでなく、組織の構造や風土、使用しているツールなど、複合的な要因が絡み合っています。ここでは主な4つの原因について詳しく解説します。

多忙による情報共有の不足

最も一般的かつ深刻な原因の一つが、日々の業務に追われ、情報共有やマニュアル作成に割く時間的・精神的な余裕がないことです。多くの現場では、目の前の納期や顧客対応が最優先され、将来のための「仕組み化」や「教育」は後回しにされがちです。

特に、プレイングマネージャーが多い組織や、少人数で回しているスタートアップ、中小企業においては、一人の担当者が抱える業務量が膨大になります。その結果、業務プロセスをドキュメント化したり、同僚に教えたりする時間が取れず、「自分でやったほうが早い」という判断が繰り返されます。

この状況は、「特定の担当者が忙しいから共有できない」→「共有されないから他の人が手伝えずにさらに仕事が集中する」という悪循環を生み出します。この負のループを断ち切るには、個人の努力に頼るのではなく、業務量の調整やリソースの再配分といった組織的な介入が不可欠です。

専門性の高さと職人肌の意識

業務自体の専門性が高く、習得に長い年月を要する場合も属人化しやすくなります。例えば、高度なプログラミングスキルを要する開発業務、法規制が複雑な経理・税務、独創性が求められるデザイン業務などが該当します。これらは「誰でもできる仕事」ではないため、自然と特定のスペシャリストに依存する構造になりがちです。

さらに、心理的な側面として「職人肌の意識」も影響します。自身のスキルやノウハウを「自分だけの価値」として捉え、無意識のうちに他者への共有を拒んだり、自分の聖域を守ろうとしたりする心理が働くことがあります。「この仕事は自分にしかできない」という自負はプロフェッショナルとして重要ですが、それが組織としてのリスク管理や業務継続性を阻害する場合、属人化という経営課題になります。

また、専門的な業務には「暗黙知(経験則や勘)」が多く含まれるため、本人が教えようとしても言葉で説明するのが難しいという側面もあります。こうした暗黙知をいかに形式知(マニュアルやデータ)に変換できるかが、解消のカギとなります。

マニュアルやナレッジ共有の仕組み欠如

たとえ担当者に共有の意思があったとしても、組織として情報を蓄積・共有する「仕組み」や「場所」が整備されていなければ、属人化は防げません。業務マニュアルが存在しない、あるいは存在しても数年前の情報で更新されていない、格納場所がバラバラで誰も見つけられないといった状況は多くの企業で見られます。

ナレッジ共有の仕組みがない組織では、業務の引き継ぎが「口頭」や「OJT(実地訓練)」のみで行われる傾向があります。これでは教える側の記憶や教え方に依存してしまい、教わる側も断片的な情報しか得られません。結果として、担当者が退職や異動をするたびにノウハウが失われ、残された社員がゼロから手探りで業務を再構築するという非効率が発生します。

重要なのは、「個人の記憶」に頼るのではなく、「組織の記録」として業務プロセスを残す文化とシステムを定着させることです。

古いシステムやExcel管理の限界

業務ツールの選定や運用方法も、属人化の大きな要因です。特に多くの日本企業で課題となっているのが、複雑なマクロや計算式が組まれた「Excelファイル」による業務管理です。

Excelは手軽で柔軟性が高い反面、作成者独自のロジックで構築されやすく、第三者が解読困難なブラックボックスになりがちです。作成者が不在になると、修正はおろかデータの入力方法すらわからなくなるリスクがあります。また、長年使い続けられている古い基幹システム(レガシーシステム)も同様に、当時の開発担当者や保守担当者にしか仕様がわからない状態になりやすく、DX(デジタルトランスフォーメーション)を阻む壁となります。

以下に、属人化しやすい管理方法と、推奨される標準化された管理方法の違いを整理しました。

比較項目 属人化しやすい管理(Excel・個人管理) 標準化された管理(ERP・クラウドツール)
情報の所在 個人のPCやローカルフォルダに散在 クラウド上の一元管理されたデータベース
プロセスの透明性 作成者独自のルール(ブラックボックス化) システムで定義された標準ワークフロー
更新とメンテナンス 作成者本人しか修正・メンテできない ベンダーによる保守やチームでの設定変更が可能
データ共有の即時性 ファイルを送付・共有しないと伝わらない 権限を持つメンバーならいつでもリアルタイムに参照可

このように、個人のスキルに依存するツールを使い続けること自体が、属人化を助長する原因となります。根本的な解決には、人の意識を変えるだけでなく、誰が操作しても同じ結果が出せるようなシステム基盤への移行が必要です。

属人化を放置することで生じる経営リスク

属人化とは、特定の業務の手順や進捗状況、ナレッジが特定の担当者個人に依存し、他のメンバーには把握できていない状態を指します。現場レベルでは「あの人に聞かないとわからない」という不便さとして認識されがちですが、経営的な視点で見ると、これは企業の成長を阻害し、存続さえも危うくしかねない重大なリスク要因です。

属人化を単なる「現場の課題」として放置せず、「経営課題」として捉えるべき理由は、主に以下の4つのリスクに集約されます。

担当者不在時の業務停滞と品質低下

最も即時的に発生するリスクは、担当者が不在の際に業務が完全にストップしてしまうことです。担当者が病欠、有給休暇、あるいは出張などで不在の場合、その業務を代行できる人間がいないため、顧客への回答遅延や納期遅れが発生します。

また、無理に他のメンバーが対応しようとすると、正規の手順が不明確であるためミスを誘発しやすくなります。これは顧客からの信頼失墜に直結するだけでなく、特定の個人がボトルネックとなり、組織全体のスピード感を著しく低下させる原因となります。本来であれば組織として標準化された品質を提供すべきところが、担当者のコンディションや在籍状況によってサービスレベルが変動してしまうことは、企業としての競争力を削ぐ結果となります。

退職・休職によるノウハウの喪失

属人化された業務における最大の資産は、担当者の頭の中にしか存在しない「暗黙知(経験則やコツ)」です。マニュアルやドキュメントとして形式知化されていないため、その担当者が退職や長期休職をした瞬間、企業はその業務に関する重要なノウハウを失うことになります。

後任者はゼロから業務を習得しなければならず、教育コストが膨大になるほか、前任者が長年かけて培った効率的な手法やトラブル対応術が継承されません。これは「企業の記録」として資産化されるべき情報が「個人の記憶」に留まってしまっている状態であり、人材の流動性が高まる現代において、事業継続計画(BCP)の観点からも極めて脆弱な状態と言えます。

不正のリスクとガバナンスの欠如

業務プロセスがブラックボックス化することは、内部不正の温床となり得ます。特定の担当者しかその業務の詳細を知らない場合、第三者によるチェック機能(相互牽制)が働かなくなるためです。

例えば、経理業務や購買業務において、発注から支払いまでのプロセスを一人の担当者が独占的に行っている場合、架空発注や横領などの不正が行われても発見が遅れる、あるいは発覚しない恐れがあります。情報処理推進機構(IPA)が発行するガイドラインなどでも指摘されている通り、業務の透明性を確保し、特定の個人に権限や情報が集中しない仕組みを作ることは、ガバナンス(企業統治)強化の観点から必須の要件です。

長時間労働の常態化と人材定着率の低下

属人化は、特定の「できる社員」への過度な業務集中を招きます。「この仕事は〇〇さんしかできない」という状況は、その担当者の長時間労働や休日出勤を常態化させ、精神的・肉体的な負担を増大させます。

その結果、優秀な社員ほど疲弊してしまい、バーンアウト(燃え尽き症候群)による休職や退職に追い込まれるリスクが高まります。一方で、周囲の社員も「手伝いたくても手が出せない」という無力感を感じたり、適切なスキルアップの機会を奪われたりするため、組織全体のモチベーション低下につながります。結果として、組織全体のエンゲージメントが下がり、離職率の上昇という悪循環を招くことになります。

以下の表は、属人化が引き起こすリスクとその経営へのインパクトを整理したものです。

リスク項目 具体的な弊害 経営へのインパクト
業務停滞・品質低下 担当者不在で判断・処理が止まる
代行時のミス多発
顧客満足度の低下
機会損失の発生
ノウハウの喪失 退職と共に技術・知識が失われる
引き継ぎコストの増大
事業競争力の低下
教育コストの増加
不正・ガバナンス不全 ブラックボックス化による監視不能
データの改ざんや横領
社会的信用の失墜
法的リスクの増大
人材定着率の低下 特定社員への負荷集中
組織の疲弊とモチベーション低下
採用コストの増加
組織力の弱体化

属人化を解消する具体的な手順と施策

属人化の解消は、思いつきで進めても根本的な解決には至りません。特定の担当者に依存した状態から脱却し、組織全体で業務を遂行できる体制を整えるためには、正しい順序で段階的に施策を実行することが重要です。ここでは、現状の把握から標準化、そして定着に至るまでの具体的なステップを解説します。

現状の業務フローの棚卸しと可視化

最初に取り組むべきことは、現在の業務が「誰が」「いつ」「何を」「どのように」行っているかを正確に把握することです。属人化している現場では、担当者以外が業務の詳細を知らない「ブラックボックス化」が進んでいることが多いため、まずは業務の棚卸しを行い、実態を可視化する必要があります。

業務の棚卸しでは、管理者側の視点だけで進めるのではなく、現場の担当者へのヒアリングを丁寧に行うことが不可欠です。本人が無意識に行っている「コツ」や「暗黙知」こそが属人化の核となっているケースが多いためです。業務フロー図などを作成し、業務の開始から終了までのプロセスを可視化することで、どこにボトルネックがあり、どの作業が特定の個人に依存しているかを明らかにします。

解消すべき業務の優先順位付け

すべての業務を一度に標準化しようとすると、現場の負担が大きくなりすぎて挫折するリスクがあります。棚卸しした業務の中から、属人化を解消すべき業務に優先順位を付け、段階的に取り組むことが成功の鍵です。

優先順位を決定する際は、「業務の重要度」「属人化のリスク」「標準化の難易度」などの観点から総合的に判断します。例えば、担当者が不在になると事業停止のリスクがある業務や、頻繁に発生する定型業務は優先度を高く設定すべきです。

解消すべき業務の優先順位判断基準

優先度 対象業務の特徴 具体的なアクション
担当者不在時のリスクが甚大
発生頻度が高く、ミスが許されない業務
(例:給与計算、請求書発行、顧客トラブル対応)
最優先でマニュアル化し、代替要員を育成する。
専門性が高いが、一部はパターン化可能
発生頻度は中程度
(例:営業提案資料の作成、定期レポート作成)
共通部分をテンプレート化し、ナレッジを共有する。
発生頻度が極めて低い
完全な創造性が求められる業務
(例:新規事業の企画立案、突発的な特殊対応)
無理に標準化せず、個人の裁量を残しつつログだけは残す。

業務マニュアル・手順書の作成と運用

優先順位が決まったら、業務を誰でも再現できるようにするためのマニュアルや手順書を作成します。ここで重要なのは、「その業務を知らない人が読んでも理解し、実行できるか」という視点です。専門用語の多用は避け、具体的かつ平易な言葉で記述します。

また、文字だけのマニュアルは作成に時間がかかるうえに、読み手にとっても理解しづらい場合があります。スクリーンショットや図解を多用したり、実際の作業風景を動画で撮影して共有したりするなど、デジタルツールを活用して視覚的に伝える工夫も有効です。作成のハードルを下げることで、現場の負担を軽減し、継続的なアウトプットを促すことができます。

マニュアルは「作って終わり」ではありません。業務プロセスやツールは日々変化するため、情報が古くなるとマニュアル自体が使われなくなってしまいます。定期的に見直しを行い、変更があれば即座に更新する運用ルールを定めることが、属人化の再発を防ぐためには不可欠です。

スキルマップの作成と多能工化の推進

業務の標準化と並行して進めたいのが、組織としての対応力を高めるための「多能工化(マルチスキル化)」です。特定の業務を複数の社員がこなせる状態を作ることで、担当者の不在や退職によるリスクを回避できます。

多能工化を推進するための有効なツールが「スキルマップ(力量管理表)」です。これは、各社員がどの業務をどの程度のレベルで遂行できるかを一覧化したものです。スキルマップを作成することで、組織内のスキルの偏りが可視化され、「誰に教育が必要か」「どの業務のバックアップ体制が薄いか」が一目瞭然となります。

スキルマップの評価レベル例

レベル 定義 状態
4 指導可能 他者に業務を教えることができ、改善提案もできる。
3 自立 マニュアルを見ずに一人で完遂できる。
2 習熟中 マニュアルを見ながら、あるいはサポートがあればできる。
1 未経験 業務を行ったことがない、または研修中。

このマップに基づき、OJT(On-the-Job Training)やジョブローテーションを計画的に実施します。主担当以外のメンバーが定期的にその業務に触れる機会を作ることで、組織全体でノウハウを共有・維持する仕組みを構築しましょう。

本質的な解決には「人」ではなく「仕組み」を変える

属人化の解消を目指す際、多くの企業が最初に直面する壁は、対策が一時的なものに終わってしまうことです。「情報を共有しよう」「マニュアルを作ろう」といった掛け声や、担当者の意識改革だけに頼るアプローチでは、時間の経過とともに元の状態に戻ってしまうリスクが高くなります。

根本的な解決を図るためには、個人の努力や記憶に依存するのではなく、業務プロセスそのものをシステムに乗せ、誰もが同じ手順で遂行せざるを得ない「仕組み」を構築することが不可欠です。本章では、なぜ人の意識だけでは限界があるのか、そしてITツールを活用した仕組み化がなぜ属人化解消の切り札となるのかを解説します。

マニュアル化だけでは解決しない理由

属人化解消の第一歩として、業務マニュアルや手順書の作成は非常に有効です。しかし、それだけでは「作成して満足してしまう」という陥りやすい罠があります。紙やドキュメントファイルベースのマニュアルには、運用の継続性を阻害するいくつかの構造的な弱点が存在するためです。

最大の課題は情報の鮮度維持です。業務内容は市場の変化や社内ルールの改定に伴い日々変化しますが、静的なマニュアルは更新作業に手間がかかります。その結果、現場では「マニュアルは古くて使えないから、担当者に聞いたほうが早い」という状況が生まれ、再び属人化が進行してしまいます。

また、マニュアルがあることと、それが遵守されることは別問題です。多忙な現場において、マニュアルを参照するかどうかは個人の判断に委ねられてしまいます。これらを克服するためには、単なる文書化を超えたアプローチが必要です。

  • 更新の遅延:業務変更のスピードにドキュメントの修正が追いつかず、形骸化する。
  • 検索性の欠如:必要な情報がどこにあるか分からず、結局詳しい人に聞いてしまう。
  • 強制力の欠如:マニュアルを見なくても業務が進められるため、独自のやり方が発生する。

ITツール活用による業務プロセスの強制力

人の意識に頼らず属人化を解消する最も確実な方法は、ITツールを活用して業務プロセスに「強制力」を持たせることです。ここで言う強制力とは、ネガティブな意味ではなく、システム上の手順通りに入力・操作を行わなければ、次の工程に進めない仕組みを指します。

例えば、ワークフローシステムやERP(統合基幹業務システム)を導入した場合、必須項目の入力や承認プロセスがシステム側で制御されます。これにより、「あの人の頭の中にしかない手順」や「独自の判断基準」が入り込む余地がなくなり、誰が担当してもシステムが求める要件を満たすことで、一定の品質と成果が担保されるようになります。

また、ITツール上での業務遂行は、そのログ自体が活動の記録となります。わざわざ「日報を書く」「引き継ぎ資料を作る」という追加の作業を行わなくても、システムを利用すること自体がナレッジの蓄積につながるのです。以下に、人の意識による管理とシステムによる管理の違いを整理しました。

表:人の意識による管理とシステムによる管理の比較

比較項目 人による管理(ルール・マニュアル) システムによる管理(ITツール・ERP)
業務の標準化 個人の解釈や記憶に依存し、バラつきが出やすい システムが入力を制御するため、強制的に標準化される
情報の記録 業務とは別に「記録する」という意思と時間が必要 業務プロセスの一環として自動的にデータが蓄積される
情報の鮮度 更新が滞りやすく、陳腐化しやすい 常に最新のトランザクションデータが参照される
引き継ぎ 口頭伝承や膨大な資料の読み込みが必要 システムの使い方と過去ログの参照で完結しやすい

部分最適から全体最適へのシフト

属人化の温床となりやすいのが、部門ごとや個人ごとに最適化された「閉じたツール」の利用です。例えば、営業部門は顧客管理ソフト、経理部門は会計ソフト、そして現場の細かい集計は各担当者のExcelファイルで行われているようなケースです。これはいわゆる「部分最適」の状態であり、データが分断されているため、そのつなぎ合わせを行っている特定の担当者に業務が依存してしまいます。

この問題を解決するには、組織全体でデータを一元管理する「全体最適」へのシフトが必要です。具体的には、販売・購買・会計・人事などのデータを連携させ、一つのデータベースで管理できる環境を整えることです。

データが組織全体で共有され、可視化されていれば、特定の担当者が不在でも、システムにアクセスするだけで進捗状況や過去の経緯を把握できます。「個人のPCにあるExcel」から「全社共通のシステム」へ情報を移行することこそが、属人化というリスクを組織の資産へと変える本質的な解決策となるのです。

ERPが属人化解消と経営変革(MX)を実現する理由

前章までは、マニュアル作成や業務フローの可視化といった、現場レベルでの改善施策を中心にお伝えしました。しかし、属人化の根本的な解決と、さらにその先にある企業の成長を目指すのであれば、より抜本的な仕組みの導入が不可欠です。そこで有効な手段となるのが、ERP(Enterprise Resource Planning:統合基幹業務システム)の導入です。

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の文脈において、単なるデジタル化にとどまらず、経営そのものを変革する「MX(Management Transformation:経営変革)」の重要性が叫ばれています。ERPは、組織全体の情報を一元管理し、業務プロセスを標準化することで、属人化を排除すると同時にこのMXを強力に推進する基盤となります。なぜERPが属人化解消の切り札となり得るのか、その理由を詳しく解説します。

業務プロセスをシステムで標準化する

属人化が発生する最大の要因の一つは、担当者が独自のやり方で業務を進めてしまう「自己流」のプロセスにあります。Excelや紙の帳票を用いた管理では、計算式の設定やファイル構成、保管場所などが個人の裁量に委ねられやすく、第三者が介入しにくい状況が生まれます。これに対し、ERPを導入することは、システムにあらかじめ組み込まれた「標準的な業務プロセス(ベストプラクティス)」に自社の業務を合わせることを意味します。

ERPシステム上では、受注から請求、発注から支払いといった一連の業務フローが確立されており、システムが要求する入力項目や承認ルートに従って業務を進める必要があります。これにより、担当者のスキルや経験に依存することなく、誰が操作しても同じ手順、同じ品質で業務を遂行できる環境が強制的に構築されます。これを「Fit to Standard(標準への適合)」と呼び、属人化を物理的に防ぐための最も効果的なアプローチの一つとされています。

ERPによる標準化と、従来の手法(マニュアル化など)による標準化の違いを整理すると、以下のようになります。

比較項目 マニュアル作成・教育による標準化 ERP導入によるシステム的な標準化
強制力 低い(個人の意識や記憶に依存する) 高い(システムが手順を強制する)
維持管理 マニュアルの更新や再教育の手間が大きい システムのアップデートや設定変更で一括管理
柔軟性 現場判断で例外処理を行いやすい(属人化のリスク) 原則として標準フローに従う(例外を排除)
データの整合性 転記ミスや入力漏れが起きやすい データ連携が自動化され、整合性が保たれる

このように、人の意識を変えるのではなく、「業務を行う環境(システム)」を変えることで、結果的に属人化が解消されるのがERP導入の大きなメリットです。

データの一元管理による経営の見える化

属人化の弊害として、特定の担当者しか最新の数字や状況を把握していない「情報のブラックボックス化」が挙げられます。各部署が個別のシステムやExcelでデータを管理していると、経営層が全社の状況を把握するために、各担当者からの報告を待たなければなりません。このタイムラグや情報の分断が、特定個人への依存度を高めてしまいます。

ERPは、会計、人事、販売、在庫、生産など、企業活動に関わるすべてのデータを一つのデータベースで統合管理します。これにより、部署間の壁を越えてリアルタイムに情報が共有されます。例えば、営業部門が受注を入力した瞬間に、在庫データが更新され、経理部門の売掛金データにも反映されるといった連携が自動で行われます。

データが一元管理され、誰もが(権限に応じて)必要な情報にアクセスできる状態になれば、「あの人に聞かないとわからない」という状況は消滅します。経営層や管理職は、担当者の報告を待つことなく、ダッシュボード上で最新の経営数値をモニタリングできるようになり、迅速かつ的確な意思決定が可能になります。情報の透明性が高まることは、属人化の解消だけでなく、組織全体のガバナンス強化にも直結します。

「個人の記憶」から「企業の記録」への転換

ベテラン社員や専門職の退職によって業務が回らなくなるリスクは、業務ノウハウが「個人の記憶(暗黙知)」として蓄積されていることに起因します。「過去のトラブル対応履歴」や「特定の顧客に対する特記事項」、「複雑な原価計算のロジック」などが担当者の頭の中にしかない状態は、企業にとって大きな損失リスクです。

ERPを活用することで、これらの業務活動はすべてシステム上のログ(履歴)として記録されます。いつ、誰が、どのような処理を行ったかが明確にデータとして残るため、業務プロセスは「個人の記憶」から「企業の記録(形式知)」へと転換されます。

具体的には以下のようなメリットが生まれます。

  • 引き継ぎコストの削減:
    過去の取引履歴や対応状況がシステムに残っているため、後任者はデータを参照するだけで業務の背景を理解できます。
  • 不正の抑止と発見:
    すべての操作ログが残るため、特定の担当者による不正操作やデータの改ざんを防ぐ牽制効果が働きます。
  • ナレッジの共有:
    優秀な担当者の業務パターンや判断基準がデータとして蓄積されることで、それを分析・共有し、組織全体のレベルアップにつなげることができます。

このように、ERPは単なる業務処理ツールではなく、企業の知的資産を守り、継承していくためのプラットフォームとしての役割も果たします。

単なるデジタル化を超えたマネジメントの型化

ERP導入による属人化解消は、最終的に「マネジメントの型化」へとつながります。これは、経営管理(マネジメント)の手法そのものを標準化し、属人的な経営判断から脱却することを意味します。これを実現することが、現代の企業に求められる経営変革(MX)の本質です。

従来、日本企業では現場の調整能力や個人の頑張りに依存した「現場力」が強みとされてきました。しかし、労働人口の減少やビジネスサイクルの短期化が進む現代においては、現場の負担を減らし、組織としてシステマチックに利益を生み出す構造への転換が急務です。ERPを導入することは、グローバルスタンダードな経営管理手法(型)を自社に取り入れることと同義です。

「システムに合わせて業務を変える」という過程では、社内の抵抗や一時的な混乱が生じることもあります。しかし、それを乗り越えて業務と経営の基盤をデジタル化・標準化することで、特定のスタープレイヤーに依存せずとも、組織全体が高いパフォーマンスを発揮し続ける「強い企業体質」を作り上げることができるのです。

よくある質問

属人化を解消することのメリットとデメリットは何ですか?

最大のメリットは、担当者が不在でも業務が滞らず、組織全体の安定性と生産性が向上することです。また、人材の流動化に対応しやすくなります。一方、デメリットとしては、標準化の過程で一時的に業務負担が増えることや、過度なマニュアル化によりベテラン社員のモチベーションが低下するリスクが挙げられます。専門性が高い業務については、標準化できる部分と個人のスキルに頼る部分を適切に切り分けることが重要です。

マニュアルを作成しても活用されないのですが、どうすればよいですか?

マニュアルが活用されない主な原因は、情報の鮮度が落ちているか、参照する手間がかかるためです。解決策として、紙や静的なファイルではなく、検索性の高い社内Wikiやナレッジ共有ツールを活用することをお勧めします。また、業務システム(ERPなど)のワークフローの中に手順を組み込み、システムを使えば自然とルール通りに業務が進む仕組みを作ることが最も効果的です。

属人化が起きやすい職種や業務の特徴はありますか?

経理や人事労務などのバックオフィス業務、エンジニアによる開発業務、職人技術を要する製造現場などで起きやすい傾向があります。これらは「専門知識が必要」「長年の経験がモノを言う」「担当者が固定化されやすい」という特徴を持つため、意識的に情報をオープンにする仕組みを導入しない限り、ブラックボックス化が進みやすくなります。

社員が自分のノウハウを共有したがらない場合、どう対処すべきですか?

「自分の仕事が奪われる」という不安を取り除くことが先決です。ノウハウを共有し、業務を標準化した社員を高く評価する人事評価制度へと見直す必要があります。ナレッジ共有が個人の不利益ではなく、組織への貢献として正当に評価される文化を醸成することで、協力的な体制が築かれます。

中小企業でもERPのようなシステム導入は必要ですか?

はい、人員が限られている中小企業こそ、システムによる標準化の恩恵は大きくなります。一人の退職が経営に与えるインパクトが大きいため、早期に「人」に依存しない体制を作ることがリスク管理となります。近年ではクラウド型で安価に導入できるサービスも増えているため、自社の規模に合ったツール選定から始めることを推奨します。

まとめ

属人化は、担当者不在時の業務停滞や退職によるノウハウ喪失など、企業にとって看過できない経営リスクです。根本的な解決には、個人の意識改革や紙のマニュアル作成だけに頼らず、ITツールやERPを活用した「仕組みによる標準化」が不可欠となります。

業務プロセスをシステムに乗せ、「個人の記憶」を「企業の記録」へと転換することで、誰が担当しても一定の品質を保てる強固な体制が整います。組織の持続的な成長と経営変革(MX)を実現するために、まずは業務の可視化とシステム化から着手しましょう。

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