RFP(提案依頼書)の書き方完全ガイド|
経営変革を実現するシステム選定の第一歩

 2025.12.02 

RFP(提案依頼書)サンプル新統合基幹システム導入プロジェクト提案依頼書

「システム導入を成功させたいが、ベンダーに何をどう伝えればいいのか分からない」―そんな悩みを抱える経営者や情報システム担当者は少なくありません。RFP(提案依頼書)は、自社の課題や目指す姿をベンダーに正確に伝え、最適な提案を引き出すための重要な文書です。

本記事では、単なるシステム導入ではなく、経営基盤の構築につながるRFPの書き方を、構成から具体的な記載内容まで徹底解説します。中堅・中小企業の経営変革を支えるシステム選定の第一歩として、ぜひご活用ください。

この記事でわかること

  • RFPの定義と、要件定義書との違い
  • RFP作成前に整理すべき経営課題と目指す姿
  • RFPの基本構成と各セクションの具体的な書き方
  • ベンダーから質の高い提案を引き出すための実践ポイント
  • 経営変革を実現するクラウドERP選定におけるRFPの役割

RFP(提案依頼書)の書き方完全ガイド|経営変革を実現するシステム選定の第一歩

RFPとは?システム導入成功の鍵となる提案依頼書の役割

RFP(Request for Proposal)は「提案依頼書」を意味し、システム開発や情報システムの導入を求める企業が、SIerやシステムベンダーに向けて作成する書類です。自社の課題や要望、システムに求める具体的な要件を明示することで、最適な提案を引き出すための重要なドキュメントとなります。

RFPの定義と目的

RFPは、発注側企業のIT担当者や情報システム部門の担当者が、SIerやシステムベンダーに対してシステム構築・リプレイスを依頼する際に、自社システムに必要な要件や実現したい業務などを示す書類です。単にシステムの仕様を伝えるだけでなく、解決すべき経営課題やプロジェクトの背景を共有し、ベンダーとの共通認識を形成するための重要なコミュニケーションツールとして機能します。

RFPを作成する目的は、大きく以下の3つに集約されます。第一に、自社が本当に必要としている機能や解決したい課題を整理し、プロジェクトの目的を明確にすることです。第二に、複数のベンダーに対して同じ条件で提案を依頼することで、各社の技術力、提案内容、費用、実績などを客観的かつ公平に比較・検討できます。第三に、プロジェクト開始前にベンダーとクライアントが共通の認識を持つための基盤となり、認識のズレやトラブルを未然に防ぐことができます。

要件定義書との違い

RFPと混同されがちな書類に「要件定義書」があります。しかし、この2つは作成されるタイミングと目的が大きく異なります

項目 RFP(提案依頼書) 要件定義書
作成タイミング ベンダー選定前 ベンダー選定後
目的 複数ベンダーから提案を受けるため システムの詳細仕様を固めるため
記載内容 プロジェクトの背景、課題、概要レベルの要件 具体的な機能仕様、画面設計、データ定義など
作成者 主に発注側企業 発注側とベンダーが協力して作成

RFPは「ベンダーから提案をもらう」ための依頼書、要件定義書は「受託後に仕様を固める」ための詳細文書です。多くの場合、RFP作成→ベンダー選定→要件定義書作成の順で進みます。つまり、RFPはベンダー選定のための書類であり、要件定義書はシステム開発を具体化するための書類という位置づけになります。

なぜ中堅・中小企業にこそRFPが必要なのか

大手企業では一般的にIT専門部門が存在し、RFPの作成も体系化されています。一方、中堅・中小企業こそRFPが必要とされる理由があります。

第一に、限られた予算と人的リソースの中で、システム導入の失敗は致命的なダメージとなるため、事前の認識合わせが極めて重要です。RFPがないと要件に抜け漏れが発生したり、開発会社側で伝言ゲームが始まって正しい内容が伝わりにくかったりします。中堅・中小企業では専任のIT担当者が不在のケースも多く、口頭でのやり取りだけでは認識のズレが生じやすいのです。

第二に、発注者がRFPを作成することで自社の課題や目的を明確に提示でき、受注側であるシステム会社に対して要件や要望を正確に伝えられます。IT知識が少ない担当者でも、RFPという形式に沿って整理することで、自社の真のニーズを明確化し、ベンダーに的確に伝えることが可能になります。

第三に、RFPを複数社に提供すれば、同じ要件の提案書を受領できます。比較検討して自社の要望に合う開発会社を選べるのがメリットです。中堅・中小企業にとって、限られた選択肢の中から最適なベンダーを見極めるために、公平な比較基準を持つことは経営判断の質を高める上で不可欠です。

また、RFP作成プロセス自体が、自社の業務プロセスや経営課題を可視化する機会となります。システム導入を単なるIT化ではなく、経営変革の一環として位置づけ、MX(マネジメント・トランスフォーメーション)の視点から取り組むことが、中堅・中小企業の持続的成長につながるのです。

New call-to-action
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RFP作成前に明確にすべき経営課題と目指す姿

RFP作成において最も重要なのは、システム導入の目的と解決すべき経営課題を明確にすることです。この段階を疎かにすると、ベンダーから的外れな提案を受けたり、プロジェクトの途中で目的が曖昧になったりするリスクがあります。

単なる「老朽化したシステムの入れ替え」ではなく、「経営基盤の強化」という視点でRFPを準備することが、真に価値あるシステム導入につながります。

現状の業務プロセスとシステムの課題を可視化する

RFP作成の第一歩は、自社の業務プロセスとシステムの現状を正確に把握することです。現場の担当者へのヒアリングや業務マニュアル、システム仕様書、帳票一覧などの既存資料を活用し、現状業務を一覧表にまとめましょう。

具体的には、以下のような観点で課題を整理します。

分析の視点 確認すべき内容
業務の実態 各部門でどのような業務フローで処理が行われているか、手作業の工程はどこにあるか
システムの状況 現行システムの構成、利用年数、保守状況、データの連携方法
データ管理 データの形式、保存場所、活用状況、リアルタイム性
課題の優先順位 業務効率、コスト、リスク、戦略性の観点から優先度を設定

この段階では、情報システム部門だけでなく、現場の業務担当者や経営層からも広くヒアリングを実施することが重要です。特に全社システムや他システムへの影響が大きいプロジェクトでは、経営層の視点を取り入れることで、経営課題とIT戦略を一体的に捉えられます。

経営層が描く「あるべき姿」を言語化する

現状分析(As-Is)ができたら、次は「将来どのような姿を実現したいのか」という目指すべきゴール(To-Be)を明確にします。これは単なる機能要件の列挙ではなく、経営層が描く企業のビジョンや戦略と結びついたものでなければなりません。

たとえば、以下のような視点で「あるべき姿」を言語化します。

  • 経営判断に必要なデータを、リアルタイムで可視化できる状態
  • 部門間の情報連携がスムーズで、意思決定のスピードが向上している状態
  • 属人化を排除し、標準化された業務プロセスで運用できる状態
  • グローバル展開や事業拡大に柔軟に対応できるシステム基盤

この「あるべき姿」を具体的に記述することで、ベンダーは単なるシステム提案ではなく、経営戦略に寄り添った提案を行いやすくなります。また、プロジェクト関係者全員が共通のゴールイメージを持つことで、認識のズレを防ぎ、プロジェクトの方向性がブレにくくなります。

MX(マネジメント・トランスフォーメーション)の視点で課題を整理する

近年注目されているのが、MX(マネジメント・トランスフォーメーション)という考え方です。これは、経営管理の仕組みそのものを変革し、データに基づく迅速な意思決定を可能にする経営基盤を構築する取り組みを指します。

従来のシステム導入が「業務の効率化」を主眼としていたのに対し、MXの視点では「経営の質的変革」を目指します。具体的には、以下のような要素が含まれます。

  • 経営指標(KPI/KGI)の可視化と、リアルタイムでのモニタリング体制
  • 予算・実績・見込みを統合的に管理し、計画と実行のサイクルを高速化
  • 部門や拠点を越えた全社横断のデータ活用による、戦略的な意思決定
  • 変化に強い柔軟な経営管理の型(フレームワーク)の確立

RFP作成時にMXの視点を取り入れることで、ベンダーに対して「単なるシステム構築」ではなく、「経営変革のパートナー」としての提案を求めることができます。この視点は、特に中堅・中小企業が次のステージに成長するための経営基盤を整える際に有効です。

RFPの基本構成|3つの柱で提案依頼を組み立てる

RFP(提案依頼書)は、システム導入やWebサイト制作などをベンダーに依頼する際に、自社の課題や要望を明確に伝え、適切な提案を引き出すための重要な書類です。適切なRFPを作成することで、ベンダーとの認識のズレを防ぎ、自社に最適なシステムやソリューションを選定できます。

RFPは一般的に3つの基本構成で組み立てられます。それは「全体の概要」「提案依頼内容」「選定の進め方」です。この3つの柱を明確にすることで、ベンダーはプロジェクトの全体像を把握し、発注者の意図に沿った提案を行うことができます。

本章では、この3つの基本構成について詳しく解説し、それぞれの構成要素がどのような役割を果たすのかを明らかにします。

全体の概要:プロジェクトの背景と目的

プロジェクトの全体像が把握できる情報として、システム導入の背景や現状の課題、ゴールなどを記載します。この部分はRFPの冒頭に位置し、ベンダーが「なぜこのプロジェクトが必要なのか」を理解するための土台となります。

具体的には、本書の目的、プロジェクトの背景、現在抱えている課題、プロジェクトの目的とゴール、プロジェクトの範囲、プロジェクトの方針、現在のシステム構成などを含めます。

経営的な背景や事業戦略との関連性を明記することで、単なるシステム導入ではなく、経営課題の解決という視点でベンダーが提案を組み立てやすくなります。現行システムの老朽化、データ活用の困難さ、業務効率の低下など、解決すべき課題を優先順位とともに整理して示すことが重要です。

提案依頼内容:具体的な要件と期待する提案

ベンダーから提案してもらうシステムについて、どのような形で情報を提示してほしいのかを記載する部分です。ここでは、実際にベンダーに何を提案してもらいたいのか、どのような情報を提供してもらう必要があるのかを具体的に示します。

主な記載項目としては、会社・組織情報(ベンダーの体制と実績)、提案概要・納品物・構成・スケジュール、概算での費用(導入から運用までの総コスト)などが含まれます。

システムにどのような機能を実装してほしいのかを具体的に記載します。詳細な機能要件は要件定義書に記載しますが、RFPにもできる限り機能要件を記載しておくことがスムーズな提案を受けるコツです。

ベンダーの体制や実績、プロジェクトマネージャーの経歴なども明示してもらうことで、プロジェクトの成功可能性を事前に評価できます。また、概算費用については、導入開始時、プロジェクト実施中、稼働開始後の継続的な費用に分けて提示してもらうことで、総保有コスト(TCO)の把握が可能になります。

選定の進め方:評価基準とスケジュール

選考スケジュール、提案書の提出先と提出方法、提案書の評価基準を明確に示す部分です。この情報により、ベンダーは提案準備のスケジュールを立てることができ、発注者側も公平で効果的な選定プロセスを実施できます。

提案依頼書の送付から提出までは2週間程度を要することが一般的ですが、規模が大きいシステムの場合はさらに期間が必要になる場合もあります。選定スケジュールには、RFP発出日、提案期限、比較選定・プレゼン実施日、結果通知日、契約日、導入開始日などを明記します。

提案書の評価基準としては、同業他社への導入実績、価格の妥当性、セキュリティ対策、障害発生率、サポート体制、プロジェクトマネージャーの能力などを設定します。評価ポイントが明確化されることで、自社の意図に沿った提案をもらえる可能性が高くなります。

また、提出方法や提出先、遅延時の取り扱いなど、手続きに関する事項も漏らさずに記載することで、選定プロセスの透明性と公平性を確保できます。

【全体の概要】プロジェクトの背景を伝える書き方

RFPにおける「全体の概要」は、ベンダーがプロジェクトの全容を理解し、自社の経営課題を踏まえた提案を行うための土台となる重要なセクションです。この章では、RFPの冒頭で記載すべき各項目の具体的な書き方について解説します。

本書の目的

RFPの冒頭では、本書の位置づけと目的を簡潔に示します。ベンダーが提案書を作成する際の前提条件を理解できるよう、RFPが何を目的とした文書であり、どのような情報が記載されているかを明記しましょう。

読み手が本格的に読み進める前に全体感をつかめるように、2〜3段落程度で端的にまとめることが重要です。自社の社名、プロジェクト名、本書がベンダー選定のための提案依頼書である旨を明確に記述します。

プロジェクトの背景|経営視点での課題設定

プロジェクトを始めることになった経緯や状況を説明する項目です。単なるシステム老朽化だけでなく、事業環境の変化や経営戦略との整合性を明示することで、ベンダーは経営課題を踏まえた提案を行いやすくなります。

背景を記載する際は、現行システムの構築時期、市場環境の変化、事業規模の拡大、法規制への対応など、具体的な状況を示します。経営層が抱える問題意識や、デジタル化に向けた経営方針なども含めることで、提案の質が向上します。

現在抱えている課題|優先順位をつけて明示

システム導入によって解決すべき自社の課題を、優先度を明確にして整理します。箇条書きや表形式を活用すると、ベンダーが一目で重要な課題を把握できます。

課題を記載する際は、「データの可視化が困難」「部門間の情報連携が不十分」「手作業による業務負荷が高い」など、具体的な業務上の問題点を示します。可能な限り定量的な情報(例:手作業による処理時間が月間100時間発生)を加えることで、解決すべき課題の重要性が明確になります。

優先度 課題内容 現状の影響
データの一元管理ができていない 経営判断に必要な情報の収集に時間がかかる
手作業による転記ミスが多発 月次決算の精度低下と遅延
部門間でのシステムが分断 業務プロセスの非効率化

プロジェクトの目的|経営管理の型を作る視点

背景や課題を踏まえ、プロジェクトを通じて何を実現したいのかを明確に記載します。単なるシステム導入ではなく、経営管理の仕組みづくりや業務プロセスの標準化といった、より上位の目的を示すことが重要です。

目的は箇条書きで複数記載しても構いませんが、それぞれが具体的で測定可能なものになるよう心がけます。「データの可視性向上による意思決定の迅速化」「業務プロセスの標準化による品質向上」など、実現したい状態を明示しましょう。

プロジェクトのゴール|定量的な成果指標(KGI)

プロジェクトが目指すゴールを、品質・費用・納期などの観点から定量的な指標(KGI)で示します。曖昧な表現を避け、客観的に達成度を判断できる基準を設定することが重要です。

品質面では処理速度やシステム稼働率、費用面では予算規模や投資対効果、納期面では本稼働開始時期などを明記します。ただし、予算については明記しない選択肢もあるため、自社の調達方針に応じて判断しましょう。

プロジェクトの範囲

ベンダーに提案を求める範囲を明確に定義します。システム開発のみなのか、機器調達・データ移行・教育・運用保守まで含むのかを具体的に示すことで、提案内容の精度が向上します。

範囲を記載する際は、対象業務(会計・販売・在庫など)、対象拠点、対象ユーザー数などを明示します。また、既存システムとの連携や段階的な導入を想定している場合は、その方針も記載しましょう。

プロジェクトの方針|クラウドERPを視野に入れた選択

プロジェクトの全体的な方針として、実現したい機能や想定するシステム構成を示します。クラウド型かオンプレミス型か、パッケージ導入かスクラッチ開発かなど、基本的な方向性を明記します。

近年では、保守性・拡張性・コスト面からクラウドERP(SaaS型)を選択する企業が増えています。クラウドを想定する場合は、その理由(例:自社でのサーバー管理負担の軽減、最新機能の迅速な活用など)も併せて記載すると、ベンダーの理解が深まります。

現在のシステム構成|現行システムの詳細情報

既存システムの構成を詳細に記載します。システム名称・利用製品・導入時期・ユーザー数・連携先システムなどを一覧表にまとめると、ベンダーが現状を把握しやすくなります。

データ移行やシステム連携の検討に必要となるため、データベースの種類、データ量、インターフェース仕様なども可能な範囲で開示しましょう。また、既存システムで出力している帳票やレポートのサンプルを添付することも有効です。

システム名 製品名 導入時期 利用部門
会計システム ○○会計システム 2015年 経理部
販売管理システム Excel+Access 2010年 営業部
在庫管理システム 自社開発 2012年 物流部

【提案依頼内容】ベンダーに求める具体的な提案

RFPにおける提案依頼内容は、受注候補となるSIerやベンダーに対して、提案書に盛り込んでほしい情報を具体的に示す重要なセクションです。この項目では、複数のベンダーから比較可能な提案を引き出すために、統一された形式で情報提供を依頼します。

会社・組織情報|ベンダーの体制と実績

ベンダーの企業情報および組織体制について、提案書への記載を求める項目です。プロジェクトを任せるパートナーとして信頼できるかを判断するため、企業の基本情報と実績を明確に提示してもらいます

具体的には、以下のような情報の記載を依頼しましょう。

記載を依頼する項目 確認すべき内容
企業の基本情報 会社名、設立年月日、資本金、従業員数、事業内容など
プロジェクト体制 プロジェクトマネージャー、開発担当者、サポート担当者などの役割分担と体制図
導入実績 自社と同業種・同規模での導入実績、導入社数、導入事例の詳細
サポート体制 導入後の保守・運用体制、問い合わせ対応時間、障害対応の仕組み
協力会社の有無 親会社や協力会社がプロジェクトに関与する場合の役割分担

特に自社と同じ業界での導入実績は、業務特性への理解度を測る重要な判断材料となるため、できるだけ詳細に記載してもらうよう依頼することが望ましいです。

提案概要・納品物・構成・スケジュール

ベンダーから提案されるシステムの全体像と、プロジェクトの進行計画について記載を求める項目です。システムの仕様だけでなく、納品物やスケジュールを明確にすることで、プロジェクト完了までのプロセスを可視化します。

提案書に記載を依頼する内容は次の通りです。

  • 提案するシステムの概要
    推奨するシステムの種類(パッケージ/スクラッチ開発)、主要機能、特徴、オンプレミス/クラウドなどの利用体系
  • システム構成図
    ハードウェアおよびソフトウェアの構成、ネットワーク構成、セキュリティ対策、既存システムとの連携方法
  • 納品物の一覧
    システム本体、設計書、マニュアル、教育資料など、プロジェクトで納品される成果物のリスト
  • プロジェクトスケジュール
    要件定義、設計、開発、テスト、導入、稼働までの工程ごとのスケジュールと所要期間
  • 想定されるリスクと対策
    プロジェクト遂行における懸念事項や制約条件、それに対する対応策

これらの情報を統一フォーマットで提示してもらうことにより、複数のベンダーの提案内容を公平に比較検討することが可能になります。

概算での費用|導入から運用までの総コスト

システム導入にかかる費用の全体像を把握するため、ベンダーに概算での費用見積を提示してもらう項目です。費用は大きく3つのフェーズに分けて明記を依頼します。

費用区分 含まれる項目
初期導入費用 ライセンス料金、ハードウェア購入費、初期設定費用、データ移行費用など、システム稼働開始までにかかる一時的な費用
プロジェクト実施費用 開発費、カスタマイズ費用、ユーザー教育・研修費、テスト費用など、プロジェクト進行中に発生する費用
運用・保守費用 月額利用料、保守費用、サポート費用、システム更新費用など、稼働開始後に継続的に発生する費用

費用の透明性を高めるため、それぞれの区分で内訳を明示してもらうことが重要です。また、オプション機能や追加カスタマイズが必要となった場合の費用についても、可能な範囲で記載を依頼すると、予算計画がより正確になります。

なお、発注者側の予算上限をRFPに明記するかどうかは慎重に判断すべきです。予算を提示することでベンダーがその範囲内で提案を調整してしまい、本来はより低コストで実現できる可能性を逃す場合があるためです。

【選定の進め方】公平で効果的な評価のために

RFP(提案依頼書)を発行した後、ベンダー各社から提案書を受領し、自社にとって最適なパートナーを選定する段階に入ります。この選定プロセスを公平かつ効果的に進めるためには、事前に明確なルールと評価基準を設定しておくことが不可欠です。ここでは、選定を成功に導くための具体的な進め方を解説します。

選定スケジュール

選定プロセス全体のスケジュールを明確に示すことで、ベンダー側も余裕を持って質の高い提案書を準備できます。RFPを配布する説明会の日を起点として、提案書の提出期限は最低でも2週間後以降に設定するのが一般的です。大規模なプロジェクトや複雑な要件を伴う場合には、3週間から1か月程度の準備期間を確保することも検討しましょう。

スケジュールには、以下の主要なマイルストーンを含めることが推奨されます。

項目 想定時期 備考
RFP説明会 〇年〇月〇日 RFPの内容説明と質疑応答の実施
質問受付期限 〇年〇月〇日 RFPに関する質問の最終受付日
質問回答日 〇年〇月〇日 全ベンダーに対して一斉に回答を公開
提案書提出期限 〇年〇月〇日 17:00必着 期限厳守、遅延提出は選考対象外
プレゼンテーション実施日 〇年〇月〇日~〇日 各社60分程度を想定
選考結果通知日 〇年〇月〇日 メールにて全社に通知
契約締結予定日 〇年〇月〇日 選定ベンダーとの正式契約

また、プレゼンテーションやデモンストレーションを実施する場合は、会場の場所、各社の持ち時間、使用可能な機材などの詳細情報も併記しておくと、ベンダー側の準備がスムーズになります。

提案書の提出先と提出方法

提案書の提出に関する具体的なルールを明確に示すことで、混乱やトラブルを未然に防ぎます。提出先の担当者名、部署名、連絡先を正確に記載し、提出方法についても詳細に指定することが重要です。

以下の情報を漏れなく記載しましょう。

  • 提出先部署・担当者:株式会社〇〇 情報システム部 〇〇課 担当:〇〇(氏名)
  • 提出方法:メール添付での提出を原則とする(紙媒体での提出が必要な場合は郵送または持参も可)
  • メールアドレス:rfp-proposal@example.co.jp
  • 件名の指定:「【提案書提出】新統合基幹システム導入_貴社名」
  • ファイル形式:PDFファイル推奨(PowerPointやWord形式も可)
  • ファイルサイズ:20MB以内(大容量の場合はファイル転送サービスの利用可)
  • 提出期限:〇年〇月〇日(〇曜日)17:00必着

さらに、提出期限に遅れた場合の取り扱いについても明記しておくことが推奨されます。「期限を過ぎた提案書は原則として選考対象外とする」といった文言を加えることで、公平性を保ちつつ、期限遵守の重要性を伝えることができます。

提案書の評価基準|経営変革への貢献度を見極める

提案書を公平かつ客観的に評価するためには、事前に評価基準を策定しておくことが不可欠です。評価基準をRFPに明記することで、ベンダー側も自社が重視するポイントを理解し、より的確な提案を行いやすくなります

評価は一般的に「評価視点」を大項目として設定し、その下に具体的な「評価項目」を配置する階層構造で整理します。各項目には配点を設定し、重要度に応じて重みづけを行います。評価基準は3段階から5段階で設定することが一般的ですが、中間点を選びやすい奇数段階よりも、4段階などの偶数段階にすることで評価結果に差がつきやすくなります。

評価視点 評価項目 配点 評価基準(4段階)
機能要件の充足度 必須機能の実現可能性 30点 1:実現困難/2:部分的に実現可能/3:ほぼ実現可能/4:完全に実現可能
機能要件の充足度 業務フローへの適合性 20点 1:大幅なカスタマイズ必要/2:一部カスタマイズ必要/3:標準機能で対応可/4:最適な標準機能あり
経済性 導入費用の妥当性 15点 1:予算を大幅に超過/2:予算をやや超過/3:予算内/4:予算内で費用対効果高
経済性 運用コストの妥当性 15点 1:想定を大幅に超過/2:想定をやや超過/3:想定範囲内/4:想定以下で効率的
実績・信頼性 同業種での導入実績 10点 1:実績なし/2:類似業種で実績あり/3:同業種で実績あり/4:同業種で多数の実績
実績・信頼性 ベンダーの企業安定性 10点 1:懸念あり/2:やや不安/3:問題なし/4:非常に安定

評価視点としては、以下のような観点を総合的に設定することが推奨されます。

  • 機能要件の充足度:必須機能の実現可能性、業務への適合性
  • 非機能要件の充足度:セキュリティ、拡張性、運用保守性、システム性能
  • 経済性:導入費用、運用コスト、投資対効果(ROI)
  • 実績・信頼性:同業種・同規模での導入実績、ベンダーの企業安定性
  • 実現性:提案内容の具体性、スケジュールの妥当性、リスク管理の明確さ
  • サポート体制:導入時の支援体制、稼働後のサポート体制、教育・研修の充実度
  • 経営変革への貢献度:経営課題の解決への寄与度、MX(マネジメント・トランスフォーメーション)実現への貢献

評価は複数の担当者で実施し、各自の採点結果を集計して総合点を算出します。合計得点が同点の場合は、自社が特に重視する評価視点(例:経営変革への貢献度)での得点が高いベンダーを優先するなど、判断基準を事前に定めておくことでスムーズな選定が可能になります。

また、評価基準には「足切り条件」を設けることも効果的です。例えば、セキュリティ要件やコンプライアンス要件など、絶対に譲歩できない項目については、「実現不可の場合は選考対象外」と明記することで、後工程でのトラブルを防止できます。

RFP作成を成功させるための実践ポイント

RFPは記載すべき項目を網羅することも重要ですが、より精度の高い提案を引き出し、プロジェクトの成功確率を高めるための実践的な工夫が欠かせません。本章では、RFP作成における3つの実践ポイントを具体的に解説します。

社内関係者を巻き込んだ要件整理

RFPの作成にあたっては、システム化を行う業務の関係者にヒアリングを行い、課題やニーズを幅広く収集することが重要です。情報システム部門だけで要件を固めてしまうと、現場の実態や経営層の意図とズレが生じ、結果的にベンダーへ誤った情報を伝えてしまう恐れがあります。

まず、経営層からはシステム導入の目的、予算規模、経営戦略との整合性をヒアリングしましょう。次に、実際にシステムを利用するユーザー部門からは、業務フローの課題、必要な機能要件、セキュリティ基準などを聞き取ります。さらに、法務部門には契約条件や個人情報の取り扱い方法についても確認が必要です。

ヒアリングを行う際は、業務マニュアルやシステム仕様書、帳票一覧などの既存資料も併せて確認することで、抜け漏れを防ぐことができます。これらの情報を一覧表にまとめておくと、要件の優先順位を整理しやすくなり、RFPの精度が格段に向上します。

ベンダーとの対話を促すRFPの書き方

RFPは一方的な要求書ではなく、ベンダーとの建設的な対話を生み出すためのコミュニケーションツールとして機能させることが重要です。ベンダーと共通認識を持つことで、システム開発や導入をスムーズに進めることが可能になります。

形容詞的な曖昧な表現を避け、客観的な数値や指標を用いながらできる限り具体的に記載しましょう。たとえば「できるだけ早く」ではなく「画面処理は3秒以内に完了すること」、「使いやすいシステム」ではなく「マニュアルなしで操作可能なUI設計」といった具合に、定量的・具体的な表現を心がけます。

また、社内用語や専門用語を多用すると、ベンダー側で解釈が分かれる可能性があります。必要に応じて用語集を添付したり、業務フロー図を補足資料として加えることで、認識のズレを未然に防ぐことができます。さらに、RFP配布後にオリエンテーションの場を設け、質疑応答の機会を設けることも有効です。

表現のポイント 悪い例 良い例
処理速度 できるだけ速く 画面遷移は3秒以内
操作性 使いやすいこと マニュアルなしで操作可能なUI
セキュリティ 高いセキュリティ ISO27001準拠のセキュリティ対策

テンプレート活用で効率的に作成する

RFPをゼロから作成するのは多大な時間と労力を要します。特に初めてRFPを作成する場合、どのような構成にすべきか、何を記載すべきかで悩むケースが少なくありません。そこで活用したいのがRFPのテンプレートやサンプルです。

過去に自社で作成したRFPがあれば、それをベースに修正・更新する方法が最も効率的です。社内に蓄積がない場合は、クラウドERPベンダーや専門のコンサルティング会社が提供する無料のテンプレートを活用するとよいでしょう。ただし、サンプルをそのまま使うのではなく、自社の要件に合わせてカスタマイズすることが不可欠です。

また、作成後は、解釈がわかれそうな箇所や全体を通して矛盾点はないかをチェックします。複数の関係者でレビューを行い、第三者の視点から内容を確認することで、RFPの完成度を高めることができます。

効率化とともに質を担保するためには、RFP作成の段階で評価基準も併せて設定しておくことが推奨されます。これにより、ベンダー選定をスムーズに進められるだけでなく、プロジェクト全体の方向性がブレにくくなります。

ERPの真の価値を引き出すRFPとは

RFPは単なるシステム選定のための文書ではありません。経営課題を解決し、企業の成長を支える経営基盤を構築するための第一歩として位置づけることが重要です。特にERPの導入においては、システムの機能比較に終始するのではなく、経営変革を実現するための提案を引き出すRFPが求められます。

単なるシステム導入ではなく経営基盤の構築へ

従来のERP導入では「現行業務をどれだけカバーできるか」という機能要件の充足度が重視され、結果として大量のカスタマイズやアドオンが発生してきました。しかし、ERPの真の価値は、業務の効率化だけでなく、データの一元管理による経営判断の迅速化と全社最適化の実現にあります。

RFPでは、単にシステムの機能リストを羅列するのではなく、「データをどのように経営判断に活用するか」「部門間の情報共有をどう実現するか」といった経営視点での要件を明確に示すことが重要です。これにより、ベンダーからは単なるシステム提案ではなく、経営課題の解決策としての提案を引き出すことができます。

MXを支えるERPという視点

MX(マネジメント・トランスフォーメーション)とは、経営管理の仕組みそのものを変革し、データに基づいた迅速な意思決定を可能にする取り組みです。ERPは、このMXを実現するための重要な基盤となります。

RFPにおいては、「経営の型をどう作るか」という視点を明示することが求められます。例えば、予算管理のサイクルをどう短縮するか、経営会議で必要なデータをどのようにリアルタイムで提供するか、といった経営管理プロセスの変革につながる要件を具体的に記載します。これにより、単なる業務システムではなく、経営基盤としてのERPの提案を受けることができます。

クラウドERPがもたらす経営の見える化と意思決定の迅速化

クラウドERPは、初期投資を抑えながら迅速な導入を可能にするだけでなく、経営データのリアルタイムな可視化と分析を実現します。従来のオンプレミス型システムでは困難だった、場所や時間を問わない経営情報へのアクセスが可能になり、市場環境の変化に対する迅速な対応と柔軟な経営判断を支えます。

RFPでは、クラウドERPの選択理由として、単にコスト面だけでなく、「経営のスピードを上げる」「データドリブン経営を実現する」といった経営戦略上の目的を明確に示すことが重要です。また、セキュリティやコンプライアンス、システムの拡張性といった観点からも、ベンダーに具体的な提案を求めることで、長期的に企業の成長を支えるERPの選定が可能になります。

よくある質問(FAQ)

RFPは必ず作成しなければならないのでしょうか?

法的な義務ではありませんが、システム導入を成功させるためには強く推奨されます。RFPを作成することで自社の課題や要件が明確になり、ベンダーからより的確な提案を引き出せます。特に投資額が大きいERPや基幹システムの導入では、RFPがあることで後のトラブルを防ぎ、プロジェクトの成功確率が大幅に高まります。

RFPの作成にはどのくらいの期間が必要ですか?

企業規模やシステムの複雑さにもよりますが、一般的には1〜3ヶ月程度が目安です。社内の課題整理や関係者へのヒアリング、経営層との方針すり合わせに時間をかけることが重要です。急いで作成すると要件が曖昧になり、後工程で手戻りが発生する可能性が高まります。

RFPと要件定義書はどちらを先に作るべきですか?

RFPを先に作成します。RFPはベンダー選定のための文書であり、要件定義書はベンダー決定後に詳細化していく文書です。RFPでは大まかな要件と期待する提案内容を示し、ベンダー選定後に要件定義書で詳細を詰めていくという流れが一般的です。

小規模なシステム導入でもRFPは必要ですか?

投資規模が小さくても、業務の根幹に関わるシステムであればRFPの作成を推奨します。簡易版でも構いませんので、プロジェクトの目的・課題・求める要件を文書化することで、ベンダーとの認識のずれを防ぎ、導入後の満足度が高まります。

RFP作成に社内のどの部署を巻き込むべきですか?

経営層、情報システム部門、実際にシステムを使う現場部門(営業・製造・経理など)の3者は必ず参加させるべきです。経営層は戦略的な視点を、情報システム部門は技術的な実現可能性を、現場部門は実務上の要件を提供します。この三者の視点が揃うことで実効性の高いRFPになります。

ベンダーに開示してはいけない情報はありますか?

予算の上限額を明示しすぎると、ベンダーがその金額に合わせた提案をしてくる可能性があります。また、他社の提案内容や評価結果などの機密情報は開示すべきではありません。一方で、現状の課題や目指す姿については率直に共有することで、より質の高い提案を引き出せます。

RFPに記載する評価基準はどのように決めればよいですか?

機能要件だけでなく、ベンダーの実績・サポート体制・導入後の運用支援・総コストなど、多角的な視点で評価項目を設定します。特に中堅・中小企業では、手厚いサポートや導入実績が重要な評価ポイントになります。各項目にウェイト(重み付け)をつけることで、より客観的な評価が可能になります。

クラウドERPとオンプレミスERPのどちらを選ぶべきか、RFPに明記すべきですか?

方針がある程度固まっているなら明記することを推奨します。ただし、完全に限定せず「クラウドERPを第一候補とするが、オンプレミスでも優位性があれば提案可」といった柔軟な表現にすることで、ベンダーの創意工夫を引き出せます。

まとめ

RFP(提案依頼書)は、単なるベンダー選定のための書類ではなく、自社の経営課題を整理し、目指すべき姿を明確にする戦略的な文書です。適切なRFPを作成することで、ベンダーから的確な提案を引き出し、システム導入プロジェクトの成功確率を大幅に高めることができます。

RFP作成において最も重要なのは、経営視点での課題設定です。現場の業務改善だけでなく、経営管理の型を作り、意思決定を迅速化するという視点で要件を整理することが、中堅・中小企業の経営変革につながります。

本記事で解説した「全体の概要」「提案依頼内容」「選定の進め方」という3つの柱を押さえることで、構造化されたRFPを効率的に作成できます。特に現状の課題と目指すゴールを定量的な指標(KGI)で示すこと、ベンダーの実績や体制を評価基準に含めることが、実効性の高いRFPを作るポイントです。

RFP作成は社内関係者を巻き込むプロセスでもあります。経営層・情報システム部門・現場部門の三者が協力することで、戦略・技術・実務のバランスが取れた要件定義が可能になります。この過程で組織内の認識が統一され、導入後のシステム活用もスムーズに進みます。

クラウドERPを視野に入れた選択は、中堅・中小企業にとって経営の見える化と迅速な意思決定を実現する有効な手段です。RFPでクラウドERPの可能性を示すことで、ベンダーから最新の技術動向を踏まえた提案を引き出すことができます。

RFPはマネジメント・トランスフォーメーション(MX)の第一歩です。単なるシステム導入ではなく、経営基盤の構築という視点でRFPを作成することで、持続的な成長を支える仕組みづくりが始まります。本記事を参考に、あなたの会社に最適なRFPを作成し、経営変革への確かな一歩を踏み出してください。

RFP(提案依頼書)サンプル新統合基幹システム導入プロジェクト提案依頼書

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