ERP導入やシステム刷新において、ベンダーに適切な提案を求めるために欠かせないのが「RFP(提案依頼書)」です。しかし、初めて作成する方にとっては「何を書けばいいのか」「どんな項目が必要なのか」と悩むことも多いでしょう。本記事では、すぐに使える無料サンプルをご紹介するとともに、RFP作成時の必須項目や注意点、ERP導入を成功に導くための実践的なポイントを解説します。

この記事でわかること
- RFP(提案依頼書)の無料サンプルと具体的な記載例
- RFPの役割と作成するメリット
- ERP導入においてRFPが重要な理由
- RFPに盛り込むべき必須項目一覧
- 失敗しないためのRFP作成時の注意点と活用ポイント
RFP(提案依頼書)の無料サンプルを紹介
ERP(統合基幹業務システム)導入やシステムリプレイスを検討している企業にとって、RFPの作成は最適なベンダーを選定するための重要なステップです。しかし、初めてRFPを作成する担当者の多くは「何を記載すればよいのか分からない」「どの程度の詳細さが必要なのか」と悩まれることが少なくありません。
そこで活用したいのが、実際の項目構成や具体的な記載例を確認できるRFPサンプルやテンプレートです。ゼロから作成するよりも、すでにあるフォーマットをベースにすることで、記載漏れを防ぎつつ、効率的にRFPを完成させることができます。
このサンプルをダウンロードいただくことで、プロジェクトの背景や目的、システムに求める機能要件、予算やスケジュール、評価基準など、ベンダーが提案書を作成するために必要な情報を漏れなく記載する構成を理解できます。自社のプロジェクト内容に合わせてカスタマイズすることで、短期間で精度の高いRFPを作成可能です。
RFP作成に不安を感じている方、初めてシステム導入プロジェクトを担当される方は、ぜひこの無料サンプルを活用して、ベンダー選定の第一歩を確実なものにしてください。
RFPとは何か?「提案を依頼する」ための重要書類
RFP(Request for Proposal)とは、システム導入やリプレイスを行う際に、発注企業がベンダーやSIerに対して提案を依頼するために作成する書類です。日本語では「提案依頼書」と呼ばれ、自社の課題や要件、実現したい業務内容などを明確に示すことで、ベンダーから最適な提案を引き出すための重要なドキュメントとなります。
RFPは、複数のベンダーに同じ条件で提案を依頼することで、各社の技術力や提案内容、費用などを客観的に比較・検討するためにも活用されます。また、プロジェクト開始前にベンダーと発注側が共通認識を持つための基盤として機能し、認識のズレやトラブルを未然に防ぐ役割も果たします。
RFPの役割と目的
RFPの主な役割は、発注側の要望をベンダーに正確に伝え、双方の認識を統一することです。システム開発やERP導入のような大規模プロジェクトでは、関係者が多岐にわたり、要件も複雑化します。そのため、口頭での情報共有だけでは伝え漏れや誤解が生じやすく、プロジェクトの失敗につながるリスクが高まります。
RFPを作成することで、自社が本当に必要としている機能や解決したい課題を整理し、プロジェクトの目的を明確化できます。さらに、複数のベンダーから同一条件での提案を受けることで、公平な比較が可能になり、最適なパートナーを選定しやすくなります。
また、RFPは単なる依頼書にとどまらず、プロジェクト全体の方向性を定める重要な指針となります。経営層や関連部署への説明資料としても活用でき、意思決定をスムーズに進める効果も期待できます。
RFPを作成するメリット
RFPを作成することで得られるメリットは多岐にわたります。
| メリット | 詳細 |
|---|---|
| 認識のズレを防止 | 要件や要望を文書化することで、発注側とベンダー間の誤解や伝達ミスを最小限に抑えられます |
| 公平な比較・評価 | 複数のベンダーに同じRFPを提示することで、提案内容を同一基準で比較でき、適切な選定が可能になります |
| トラブルの未然防止 | 納期や予算、機能要件などを明記することで、後々の「言った・言わない」といった契約トラブルを回避できます |
| 社内課題の明確化 | RFP作成プロセスを通じて、現状の業務課題や改善点を整理でき、社内での認識統一も図れます |
| 適正価格の把握 | 複数社からの見積もりを比較することで、市場における適正価格や相場を理解できます |
特に重要なのは、RFPの作成過程で自社の真のニーズを見極められる点です。各部署へのヒアリングや現状分析を通じて、表面的な課題だけでなく、根本的な問題や将来的な展望まで整理できます。これにより、単なるシステム導入にとどまらず、経営戦略と連動した最適なソリューションを選択できるようになります。
また、RFPは経営層への説明資料としても機能します。投資判断を行う際に、なぜそのシステムが必要なのか、どのような効果が期待できるのかを明確に示すことで、プロジェクトの承認をスムーズに得られます。
なぜ今、ERP導入にRFPが重要なのか
企業を取り巻く経営環境が急速に変化する中、単なるシステム刷新ではなく、経営基盤の強化を目的としたERP導入の重要性が高まっています。RFPは単なる書類や形式的な手続きではなく、導入プロジェクトの方向性を明確にし、社内外の関係者との認識を一致させるための、非常に重要なツールです。特に現代のERP導入では、業務プロセスの見直しや組織全体の変革を伴うため、プロジェクトの初期段階で目的と要件を明文化するRFPの役割は、かつてないほど重要になっています。
経営の見える化を阻む「部門最適」の壁
多くの企業では、営業部門、製造部門、経理部門といった各部署が独自のシステムやツールを構築し、それぞれの業務を最適化してきました。しかし、このような「部門最適」の積み重ねは、全社視点での経営判断を困難にする大きな壁となっています。
部門ごとにデータが分断されている状態では、在庫情報、販売実績、財務データなどが統合されず、経営層がリアルタイムで正確な経営状況を把握できません。結果として、意思決定が遅れ、市場の変化に迅速に対応できないという課題が生じます。ERPは、基幹業務を一つのプラットフォームに集約し、データをリアルタイムで連携させることで、こうした問題を解消します。
こうした課題を解決するためには、RFPの段階で部門の壁を超えた全社視点での要件整理が不可欠です。各部門の個別最適ではなく、企業全体としての最適化を目指す姿勢が、RFP作成においても求められています。
ERPは経営管理の「型」をつくるプラットフォーム
ERP導入の本質は、単にシステムを入れ替えることではなく、経営管理の「型」を確立することにあります。業務プロセスの標準化、データの一元管理、承認フローの可視化など、ERPは企業運営の基盤そのものを再構築するプラットフォームとして機能します。
入力や承認の履歴がシステム上に残るため、不正や改ざんを防止でき、監査や法改正への対応もスムーズになります。このように内部統制やガバナンスの強化も実現できるERPは、経営の透明性を高め、企業価値の向上にも直結します。
RFPでは、こうした経営管理の「型」をどのように構築したいのかを明確にする必要があります。現状の業務をそのままシステム化するのではなく、あるべき業務プロセスを定義し、それを実現するための要件をベンダーに伝えることが、ERP導入成功の鍵となります。
MX(マネジメント・トランスフォーメーション)を支えるERP
近年、DX(デジタルトランスフォーメーション)とともに注目されているのが、MX(マネジメント・トランスフォーメーション)という概念です。MXとは、経営管理手法そのものを変革し、データに基づく迅速で的確な意思決定を可能にする取り組みを指します。
ERPは、このMXを支える中核的な基盤として機能します。経営層が必要とする情報をリアルタイムで提供し、予測分析や業績管理を高度化することで、経営判断のスピードと精度を飛躍的に向上させることができます。単なる業務効率化にとどまらず、経営そのものを変革するツールとしてERPを位置づけることが、今日の企業には求められています。
RFPを作成する過程で、導入目的や業務課題、必要な機能が洗い出され、社内での認識が統一されます。この過程を通じて、単なるシステム導入プロジェクトではなく、経営変革プロジェクトとしてERP導入を捉え直すことが可能になります。RFPは、MXの実現に向けた最初の重要なステップなのです。
RFPに必要な項目一覧
RFPを作成する際には、ベンダーが的確な提案を行うために必要な情報を網羅的に記載する必要があります。一般的にRFPは、プロジェクトの全体像を示す「概要」、ベンダーに提示してほしい内容を明示する「提案依頼内容」、そして提案書の提出や評価に関する「選考の進め方」の3つの要素で構成されます。
以下では、これらの構成要素ごとに必要な項目を詳しく解説します。
全体の概要(背景・課題・目的・ゴール)
RFPの冒頭部分には、プロジェクト全体の概要を記載します。この部分はベンダーがプロジェクトの全体像を把握し、自社が求める要件を理解するために極めて重要です。シンプルかつ明確に伝えることで、ベンダーは発注側のニーズに対応したソリューションを用意しやすくなります。
具体的には、以下の項目を含めることが推奨されます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 本書の目的 | RFPの位置付けや記載内容を簡潔にまとめ、読み手が全体感をつかめるようにする |
| プロジェクトの背景 | なぜこのプロジェクトが発足したのか、システム導入に至った経緯を説明する |
| 現在抱えている課題 | 現行システムの限界や具体的な業務上の問題点を明示する |
| プロジェクトの目的 | 何のためにシステムを導入するのか、解決したい課題を明確に記載する |
| プロジェクトのゴール | 目指す成果や期待する効果(データ統合管理、業務効率化、従業員負担軽減など)を設定する |
| プロジェクトの範囲 | ベンダーに求める提案の範囲や対象業務を定める |
| プロジェクトの方針 | システム導入における基本的な考え方や重視するポイントを示す |
| 現在のシステム構成 | 既存システムの概要や構成、連携が必要なシステムの情報を提供する |
提案依頼内容(ベンダーに求める情報項目)
提案依頼内容とは、提案書に記載してほしい情報項目を発注元が提示する部分です。提案システムの概要やプロジェクト体制、進行のスケジュールなど、提案を比較するにあたり知りたいと思う情報、ベンダーに記載してほしい情報の項目を明確に記載します。
一般的に、用意しておくとよい項目は以下のとおりです。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 会社・組織情報 | ベンダーの企業情報、実績、得意業界などの基本情報の提示を依頼する |
| 提案システム概要 | 提案するシステムの全体像や特徴、どのような形で情報を提示してほしいかを記載する |
| システム構成 | システムのアーキテクチャや使用する技術、他システムとの連携方法などの提示を求める |
| 機能要件 | 実装してほしい機能を具体的に記載する(詳細は要件定義書で定めるが、RFPにもできる限り記載することが推奨される) |
| 非機能要件 | セキュリティ要件、性能要件、可用性、拡張性などシステムの品質に関する要求事項を明示する |
| プロジェクトスケジュール | 発注先決定から導入までの全体スケジュールを週または月単位で明示してもらう |
| プロジェクト体制図 | プロジェクトをどのような体制で推進するのか、プロジェクトマネージャーの経歴を含めて明示してもらう |
| プロジェクトマネジメント方法 | 進行管理の方法、課題管理、リスク管理などの手法について提示を依頼する |
| 会議体一覧 | 定例会議や報告会など、プロジェクト遂行に際して設定する会議の種類と頻度を明示してもらう |
| サポート体制・運用方法、SLA | システム障害時のサポート体制、運用保守の方法、サービスレベル合意(SLA)の内容を提示してもらう |
| 納品物一覧 | 後のトラブルを防ぐため、あらかじめ納品物を明示してもらう(希望する成果物がある場合は箇条書きで記載する) |
| ドキュメントサンプル | 設計書や操作マニュアルなど、納品されるドキュメントのサンプルを提示してもらう |
| 概算費用 | 初期費用、運用費用、保守費用などの内訳を含めた概算見積りを提示してもらう |
| 契約条件 | 契約形態、支払条件、知的財産権の取り扱いなどの契約に関する条件を明示してもらう |
これらの項目が明示されていることで、ベンダーが的確な提案書を作成しやすくなります。ほかにも自社の特殊事情など、提案に必要と思われる情報があれば別途記載しましょう。
選考の進め方(スケジュール・評価基準・提出方法)
RFPを公開した後はベンダーからの提案を受け、選考プロセスに移ります。受発注者双方が余裕を持って進められるよう、選考スケジュールや提出先の情報、提案評価過程などを整理しておくことが大事です。
選考の進め方では、以下の項目を明確に記載します。
| 項目 | 内容と注意点 |
|---|---|
| 選考スケジュール | RFP発出から提案期限、比較選定、プレゼン実施、結果通知、契約、導入開始までの想定スケジュールを明示する(一般的にRFP提示から提案書提出まで2〜3週間程度) |
| 提案書の提出先・提出方法 | 郵送先の住所やメールアドレス、使用するWebプラットフォームなど、提出方法を具体的に記載する。電子ファイルの場合はファイル形式(PDF、Word、PowerPointなど)、ファイルサイズの制限、セキュリティ対策も明記する |
| 結果通知の方法・時期 | 選考結果の通知日、通知方法(メール、郵送など)を明確に伝える |
| 評価基準 | 「コスト」「機能」「信頼性」「納期遵守」などの評価項目を明示し、それぞれの重要度を伝える。評価基準が明確であることで、より具体的かつ適切な提案を得られる |
| オリエンテーション(質疑応答) | RFP提示後に実施するオリエンテーションの日程や方法を記載する |
| 守秘義務・情報取り扱い | 守秘義務契約(NDA)の締結や、提供するデータ・情報の取り扱いに関するルールを明示する |
評価基準が曖昧だと、適切なベンダーを選定できないだけでなく、自社の課題解決に特化した提案も受けにくくなります。また、参考としてベンダーに提供するデータや情報がある場合、それらの取り扱いについても取り決めます。データのセキュリティやプライバシーに関しても十分な配慮を行いましょう。
RFP作成時の注意点
RFPは、システム導入プロジェクトの成否を左右する重要な書類です。適切なRFPを作成できなければ、ベンダーからの提案の質が低下し、プロジェクト全体に悪影響を及ぼす可能性があります。ここでは、RFP作成時に特に注意すべき3つのポイントを解説します。
目的や要望を具体的かつ明確に伝える
RFPに記載する目的や要望は、できる限り具体的かつ明確にすることが大切です。曖昧な表現や抽象的な記述は、ベンダーとの認識のズレを生み、期待した提案を得られない原因となります。
例えば「業務効率を改善したい」といった漠然とした表現ではなく、「経営判断のためのデータやレポートをオンデマンドで閲覧できる」「今後店舗数が3倍になっても業務プロセスがシンプルかつ統合的に行われる」など、具体的な要件を提示しましょう。
また、形容詞的な表現を避け、客観的な数値や指標を用いることも重要です。「高速に処理したい」ではなく「5秒以内に検索結果を表示する」といったように、定量的な基準を示すことで、ベンダーはより現実的な見積りと提案が可能になります。
| 曖昧な表現 | 具体的な表現 |
|---|---|
| 業務を効率化したい | 受発注業務の処理時間を現状の50%に削減する |
| 使いやすいシステムにしたい | 新入社員でも1時間の研修で基本操作ができるUI/UXを実現する |
| データを一元管理したい | 営業・在庫・経理の3部門のデータを単一データベースで管理し、リアルタイムに連携する |
具体性が高いほど、ベンダーとのコミュニケーションエラーを防げるだけでなく、より理想的な提案を引き出せます。主語や目的語を明確にし、社内用語の多用も避けることで、ベンダーが正確に理解できるRFPになります。
各部署との連携を重視して作成する
RFPの作成には、関係するすべての部署や部門との密な連携が欠かせません。情報システム部門だけで作成すると、現場のニーズや実務上の課題を見落とす可能性が高くなります。
システムを実際に利用する営業部門、在庫管理部門、経理部門など、各部署の具体的な要望を反映させることで、より使いやすく、業務に適したシステムを導入できます。特に現場の声は優先して反映させましょう。現場のニーズを軽視してしまうと、導入しても使いにくく、期待どおりの効果が得られないことがあります。
関係者へのヒアリングでは、以下のような点を確認することが重要です。
- 現在の業務フローと課題
- システムに期待する機能や効果
- 業務上の制約条件や特殊な要件
- 既存システムとの連携の必要性
- セキュリティやコンプライアンスに関する要求事項
ヒアリングの際は、業務マニュアルやシステム仕様書、帳票一覧など、社内のあらゆる資料もチェックしておくと、抜け漏れを防げます。RFP作成段階で各部署の意見を十分に集約できていれば、システム導入後のトラブルや要件追加のリスクを低減できます。
抜け漏れに注意し、RFP提出後の要件追加は避ける
RFPを提出ないし公開する前に、複数名や複数部署での慎重な確認を行い、要件の抜け漏れがないか徹底的にチェックしましょう。提出・公開後に要件を追加してしまうと、今後の進行に大きな影響を与えかねません。
ベンダーはRFPを基に工数や人員体制、費用を見積もったうえで提案・受注しているため、予定外の要件が後から追加されると、改めて工程や見積もり等を検討し直す必要が生じます。その結果、スケジュール遅延やコスト増大といったリスクのみならず、プロジェクトそのものが失敗に終わる可能性も懸念されます。最悪の場合、ベンダーとの信頼関係が失われ、訴訟に発展してしまったケースもあります。
要件の抜け漏れを防ぐためには、以下のような対策が有効です。
- RFP作成前に現行業務を洗い出して一覧表にまとめる
- プロジェクトメンバー全員でレビューを実施する
- 解釈がわかれそうな箇所や矛盾点がないかをチェックする
- 第三者の視点で読み直し、理解できない部分がないか確認する
どうしても追加要件が発生してしまう場合は、その内容を必要最小限に留めるとともに、ベンダーに対してあらかじめ追加要件が発生する可能性を伝えておきましょう。受注側の負担を減らす配慮を欠かさない姿勢が、プロジェクトの成功には不可欠です。
ERP導入で失敗しないためのRFP活用ポイント
ERP導入プロジェクトは、企業の経営基盤を変革する大きな取り組みです。ガートナーの調査によると、ERP導入プロジェクトの75%がその進行中に失敗を経験しており、多くの企業が導入に苦戦しています。しかし、適切なRFPの作成と活用により、失敗リスクを大幅に軽減できます。本章では、ERP導入を成功に導くためのRFP活用ポイントを解説します。
経営視点での課題整理が成功の鍵
ERP導入を成功させるには、経営視点での課題整理と目的の明確化が不可欠です。経営層は全社最適や業務改革を重視し、現場は操作性や実務負担を重視するなど、目的にズレが生じがちです。このギャップを埋めるために、RFP作成段階から経営層・業務部門・情報システム部門の三者が連携し、全社的な視点で課題を整理しましょう。
機能要件を現行システムベースにするのでは、新しい技術基盤の上に旧式の機能を焼き直しするだけになってしまいます。現行システムの単なる置き換えではなく、経営戦略の実現に向けた業務改革の視点でRFPを作成することが重要です。具体的には、以下の観点から課題を整理します。
| 整理すべき観点 | 具体的な内容 |
|---|---|
| 経営戦略との整合性 | ERP導入が経営戦略の実現にどう貢献するか、成長戦略やグローバル展開との関連性を明示 |
| 全社最適の視点 | 部門最適ではなく、企業全体の業務効率化やデータ統合による経営判断の迅速化を優先 |
| 業務改革の方向性 | 現行業務の課題を洗い出し、ERP標準機能への適合(Fit to Standard)を前提とした改革方針を設定 |
| 定量的な目標設定 | 業務処理時間の削減率、在庫回転率の向上、経営判断スピードの改善など、測定可能な目標を設定 |
ERP導入に向けた議論やRFPが、業務改革や標準化を支援するERPのコンセプトと一致していないことがあります。ERPに精通した人材によるRFP策定が重要です。経営視点での課題整理を行うことで、ベンダーからも経営戦略に沿った提案を引き出すことができ、導入後の成果につながります。
将来の拡張性・柔軟性を見据えた要件定義
ERP導入は、現在の業務要件を満たすだけでなく、将来の事業拡大や環境変化にも対応できる拡張性・柔軟性を備えていることが重要です。RFPの作成段階から、中長期的な視点で要件を定義しましょう。
将来を見据えた要件定義では、以下の項目をRFPに明記することが推奨されます。
| 要件項目 | RFPへの記載内容 |
|---|---|
| 事業拡大への対応 | 今後3〜5年の事業計画(拠点数の増加、取引先数の拡大、新規事業の展開など)を明示し、システムがスケーラブルに対応できるか評価基準に含める |
| グローバル展開への対応 | 海外拠点の設立予定、多通貨・多言語対応の必要性、各国の法規制対応などを記載 |
| 新技術への適応性 | AI・IoT・RPAなどの新技術との連携可能性、API連携の柔軟性、クラウドサービスとの統合性を評価項目に追加 |
| アドオン開発の最小化 | 標準機能での業務カバー率、アドオン開発が必要な場合の拡張方針、バージョンアップ時の影響範囲を確認 |
| 運用保守の継続性 | ベンダーのサポート体制、システムのライフサイクル、バージョンアップの頻度と対応方針を明示 |
業種や業務特性に合わないERPを選ぶと、導入しても現場に定着せず、形骸化してしまうリスクがあります。RFP作成の初期段階から業務要件を詳細に整理することが重要です。将来の拡張性を考慮することで、導入後の追加投資を抑制し、長期的なコストパフォーマンスを実現できます。
また、過度なカスタマイズを避けることも重要なポイントです。現行業務に完全に合わせようとすると、システムが複雑化し、保守コストが増大します。RFPでは、ERP標準機能を最大限活用する方針を明示し、ベンダーに対してもFit to Standardのアプローチでの提案を求めましょう。これにより、将来のバージョンアップやシステム変更にも柔軟に対応できる基盤が構築されます。
よくある質問(FAQ)
RFPは必ず作成しなければならないのですか?
法的な義務はありませんが、ERP導入のような大規模なシステム投資では、ベンダーとの認識のズレを防ぎ、適切な提案を受けるためにRFPの作成を強く推奨します。RFPがないと、要件の抜け漏れや後からの追加費用が発生するリスクが高まります。
RFP作成にはどのくらいの期間が必要ですか?
企業規模や導入範囲によりますが、一般的には1〜3ヶ月程度が目安です。各部署へのヒアリング、課題の整理、要件の文書化などに時間を要するため、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。
RFPを作成するのは誰の役割ですか?
通常は情報システム部門が中心となりますが、経営層や各事業部門の責任者も関与すべきです。特にERP導入は全社的な取り組みであるため、現場の業務を理解している各部門の担当者の協力が不可欠です。
RFPとRFI(情報提供依頼書)の違いは何ですか?
RFIは製品やサービスに関する一般的な情報を収集する段階で使用し、RFPは具体的な提案を求める段階で使用します。通常はRFIで候補を絞り込んでからRFPを発行する流れが効果的です。
サンプルをそのまま使っても問題ありませんか?
サンプルはあくまで参考資料です。自社の業種、規模、課題、目的は固有のものであるため、サンプルをベースにしながらも必ず自社の状況に合わせてカスタマイズする必要があります。
複数のベンダーに同じRFPを送付しても良いですか?
はい、むしろ推奨されます。同じ条件で複数のベンダーに提案を依頼することで、公平な比較評価が可能になり、最適なパートナーを選定できます。
RFP提出後に要件を変更することはできますか?
可能ではありますが、避けるべきです。要件変更はベンダーの提案内容や見積もりに大きく影響し、選考の公平性を損なう恐れがあります。そのため、RFP作成時に十分な検討と社内調整を行うことが重要です。
中小企業でもRFPは必要ですか?
企業規模に関わらず、システム投資の成否を左右する重要なツールです。特に限られた予算の中で確実な成果を求める中小企業こそ、RFPで要件を明確化し、適切なベンダー選定を行うべきです。
まとめ
RFP(提案依頼書)は、ERP導入を成功に導くための重要な起点となる文書です。本記事では無料で利用できるサンプルとともに、RFPの役割、作成すべき項目、注意点について解説しました。
RFPを作成する最大のメリットは、自社の課題や目的を明確化し、ベンダーと共通認識を持つことで、導入後のミスマッチを防げる点にあります。特にERP導入においては、部門最適から全体最適への転換、経営の見える化、そしてMX(マネジメント・トランスフォーメーション)の実現という大きな目標があるため、RFPによる要件定義の精度が成否を分けます。
RFP作成時には、目的や要望を具体的に記載すること、各部署との連携を重視すること、抜け漏れを防ぐために十分な時間をかけることが重要です。また、現在の課題解決だけでなく、将来の事業拡大や環境変化にも対応できる拡張性・柔軟性を見据えた要件定義が求められます。
本記事で紹介したサンプルを参考にしながら、自社の状況に合わせてカスタマイズし、経営視点での課題整理を行うことで、ERP導入プロジェクトを成功へと導くことができます。RFPは単なる形式的な文書ではなく、自社の未来を描くための設計図であるという認識を持って取り組むことが大切です。
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