経理の仕事はChatGPTでなくなる?
AI時代の生存戦略と業務効率化の秘訣

 2025.11.25  クラウドERP編集部

CFOのためのAIと機械学習ガイド

ChatGPTをはじめとする生成AIの進化により、「経理の仕事はなくなるのか?」という不安や、業務効率化への期待が高まっています。結論から言えば、経理の仕事そのものはなくなりませんが、AIを使いこなすスキルが不可欠な時代へと突入しました。定型業務を自動化し、人間はより付加価値の高い経営判断に注力することが、AI時代の生存戦略となります。本記事では、AIと共存し、経理部門が単なるバックオフィスから経営の要へと進化するための具体的な道筋を解説します。

経理の仕事はChatGPTでなくなる?AI時代の生存戦略と業務効率化の秘訣

【この記事でわかること】

  • AI時代における経理業務の将来性と変化
  • 仕訳入力やレポート作成などのChatGPT活用事例
  • 機密情報を守るためのリスク管理とセキュリティ対策
  • AI活用の基盤となるERP導入とデータ統合の重要性
  • 「経営参謀」として活躍するためのキャリア戦略

ChatGPTの登場で経理の仕事はなくなるのか

「ChatGPTをはじめとするAIの進化によって、経理の仕事はなくなってしまうのではないか」という不安を抱く経理担当者は少なくありません。結論から申し上げますと、経理の仕事そのものが完全になくなることはありませんが、その業務内容と求められる役割は劇的に変化します。

AIや機械学習は、これまで人間が手作業で行っていた多くのタスクを代替する能力を持っていますが、すべての業務をカバーできるわけではありません。これからの経理パーソンに必要なのは、AIに「奪われる」仕事を恐れることではなく、AIが得意な領域と人間が担うべき領域を正しく理解し、テクノロジーを使いこなす側へと進化することです。

AIが代替できる定型業務と自動化の範囲

経理業務においてAIや自動化ツールが最も力を発揮するのは、ルールが明確で反復的な「定型業務」の領域です。ここで重要となるのが、プロセスドリブンな「RPA(Robotic Process Automation)」と、データドリブンな「AI・機械学習」の違いを理解することです。

多くの企業で導入が進んでいるRPAは、定められたビジネスルールに従ってタスクを処理する技術です。例えば、交通費精算における規定チェックや、定期的な請求書発行などは、人間よりも正確かつ高速に処理できます。一方で、機械学習(ML)を用いたAIは、大量のデータからパターンを学習し、確率に基づいて結果を導き出すことが可能です。

具体的にAIや自動化技術が代替できる業務範囲を整理すると、以下のようになります。

技術・手法 代替・効率化できる経理業務の例 特徴
OCR(光学文字認識) 請求書や領収書の読み取り、データ化 ディープラーニングにより精度が向上し、手入力の手間を大幅に削減します。
RPA(自動化ロボット) 売掛金・買掛金の照合、経費精算のルールチェック 反復タスクを自動化し、DSO(売掛債権回転日数)の短縮やリソース節約に貢献します。
ビジネスルール設定 異常値のアラート(例:電気代の急増検知) 単純な条件分岐による判断は、高価なAIよりもERP内のルール設定が効果的です。
機械学習(ML) 入金消込の自動マッチング、需要予測 過去のデータを学習し、複雑なパターンマッチングや予測を行います。

このように、データの入力、照合、集計といった「作業」の多くはAIや自動化ツールに置き換わっていきます。特に、デジタルデータが整備されている環境下では、AIは人間を遥かに凌ぐスピードと精度で処理を行うことが可能です。しかし、これはあくまで「作業の代行」であり、経理の本質的な価値である「経営への貢献」とは異なります。

人間にしかできない高度な判断業務とコミュニケーション

AIは万能のように見えますが、明確な限界も存在します。ChatGPTのような生成AIは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習しており、会計基準(IFRSや日本基準)や一般的な税務知識については的確に回答できます。しかし、企業の内部帳簿(Book)に直接アクセスして、文脈を理解した上で監査対応を行ったり、個別の経営判断を下したりすることは現時点ではできません。

AI時代においても人間が担うべき、代替困難な業務には以下のようなものがあります。

  • 倫理的判断と責任の所在:AIが出した答えが法的に正しいか、倫理的に問題がないかの最終判断は人間が行う必要があります。AIが誤った判断をした場合の法的責任は、AIではなく利用した企業や人間に帰属するためです。
  • 例外事項への対応と意思決定:前例のない取引や、複雑な利害関係が絡むM&Aなどの場面では、過去のデータに基づくAIの予測だけでは不十分です。経営環境や文脈を読み解く高度な判断力が求められます。
  • 経営層や他部署とのコミュニケーション:財務データから得られたインサイトを、経営層や事業部門にわかりやすく伝え、アクションを促すことは人間にしかできません。数字の背景にあるストーリーを語る力は、経理の重要なスキルとなります。

また、ディープラーニングによるAIの判断は、結論に至った経緯が人間には理解しにくい「ブラックボックス問題」を抱えています。銀行の融資判断や重要な経営判断において、なぜその結論になったのかを論理的に説明する責任(アカウンタビリティ)は、引き続き人間が負うことになります。

将来的には、会計ルールを理解した「AI会計士」のようなシステムがAPI経由でデータを処理する時代が来るかもしれません。しかし、それは経理担当者が不要になることを意味するのではなく、経理担当者が「データの入力者」から「AIの管理者」および「経営参謀」へとシフトしていくことを意味します。CFOや経理部門は、AIの流行にただ乗るのではなく、まずはプロセスのデジタル化を進め、AIが得意なことと苦手なことを理解した上で、戦略的に業務を設計していく必要があります。

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経理業務におけるChatGPT活用の具体例とメリット

経理部門においてAIやChatGPTの導入を検討する際、まず理解しておくべきはプロセスドリブン(RPA)とデータドリブン(AI/ML)の違いです。これらを混同せず、適材適所で組み合わせることが業務効率化の鍵となります。

RPAは定められたビジネスルールに従ってタスクを処理する技術であり、AIは大量のデータから学習し、パターンマッチングと確率を用いて結果を導き出す技術です。この章では、それぞれの特性を活かした具体的な活用事例と、そこから得られるメリットについて解説します。

仕訳入力の補助や勘定科目の提案による効率化

経理業務の中で最も時間を要する作業の一つが仕訳入力です。ここでは、従来の手法、RPA、そしてChatGPT(生成AI)がそれぞれどのように機能するかを整理します。

業務フェーズ RPA(プロセスドリブン) ChatGPT/AI(データドリブン)
判断基準 事前に設定したルールに従う
(例:電気代=水道光熱費)
学習データに基づく確率的推論
(文脈から勘定科目を予測)
得意領域 定型的な反復タスク
(毎月の家賃支払など)
非定型な取引や不明瞭な摘要
(新規取引先や雑費の分類)
自動化の効果 処理速度の向上とミスの排除 判断業務の補助と入力時間の短縮

RPAは、「A社からの請求書は通信費にする」といった明確なルールがある場合に威力を発揮します。一方で、ChatGPTのような生成AIは、ルール化しにくい非定型な入力業務において強力なアシスタントとなります。

例えば、従業員が入力した曖昧な経費申請の摘要(「チームランチ代」など)に対し、ChatGPTは過去の学習データや文脈から「会議費」や「交際費」といった適切な勘定科目を提案することが可能です。また、近年精度が99.8%近くまで向上しているOCR(光学式文字認識)技術と組み合わせることで、紙の領収書やPDFの請求書を読み取り、自動で仕訳データ化するプロセスも現実的になっています。

ただし、AIを活用するにはデジタルデータが不可欠です。CFOや経理責任者は、いきなりAI導入を目指すのではなく、まずはプロセスのデジタル化と自動化(RPAによる反復タスクの処理)を確実に進め、データの基盤を作ることが推奨されます。

財務分析レポートの草案作成と業務時間の短縮

ChatGPTのもう一つの大きなメリットは、膨大なテキストデータや会計知識を保有している点です。ChatGPTはWebや書籍などのテキストデータでトレーニングされており、IFRS(国際財務報告基準)や会計規制に関する一般的な質問に対して的確に回答する能力を持っています。

この能力は、月次決算や財務分析レポートの「草案作成」において、以下のように活用できます。

  • 変動要因の言語化サポート:
    「売上原価が前年比で増加した一般的な要因を挙げて」と指示することで、レポートに記載すべき定型的な説明文の素案を瞬時に作成できます。
  • 会計基準の確認:
    新しい会計基準の適用に関する基本的な解釈を尋ねることで、リサーチ時間を短縮できます。
  • データの統合とインサイト発見:
    財務データと、Web分析や顧客満足度などの非財務データを統合して分析させることで、人間では気づきにくい独自のインサイトを発見できる可能性があります。

ただし、現時点でのChatGPTには明確な限界もあります。それは、企業の内部帳簿に直接アクセスできないという点です。セキュリティの観点からも、機密性の高い生の財務データをそのままChatGPTに入力することは避けなければなりません。

例えば、「電気代が前年比20%増えたらアラートを出す」といった単純な数値判断には、高価なAIシステムを導入するよりも、ERP内で単純なビジネスルールを設定する方が効果的かつ安価です。AIは「なぜ増えたのか」という定性的な分析や、将来の予測(ダイナミックプライシングのような動的な価格設定など)に活用すべきです。

将来的には、会計ルールを理解したAIがAPI経由で安全に実際の会計データにアクセスし、監査やフラグ立てを行う「AI会計士」のような存在が登場することが予想されています。経理部門は、バックオフィス業務から経営参謀へと進化するために、こうしたAIの得意なこと・苦手なことを理解し、戦略的に業務へ組み込んでいく必要があります。

ChatGPTを経理で利用する際のリスクと注意点

経理業務においてChatGPTをはじめとする生成AIは強力なツールとなりますが、その導入にはセキュリティや情報の正確性に関する重大なリスクが伴います。CFOや経理担当者は、AIの利便性だけでなく、その裏側に潜む「ブラックボックス問題」や「責任の所在」を深く理解し、適切なリスク管理策を講じる必要があります。

機密情報の取り扱いとセキュリティ対策の重要性

経理部門が扱うデータは、企業の財務状況、取引先情報、従業員の給与データなど、極めて機密性の高い情報です。ChatGPTを利用する際、最も警戒すべきなのは情報漏洩のリスクです。

無料版や一般的な設定のChatGPTに機密情報を入力すると、そのデータがAIモデルの再学習(トレーニング)に利用される可能性があります。つまり、自社の未公開の財務データや独自のノウハウが、他社への回答として出力されてしまうリスクがあるのです。

このリスクを回避するためには、以下の対策を徹底する必要があります。

対策項目 具体的なアクション 期待される効果
オプトアウト設定 設定画面で「学習データへの利用」をオフにする、またはAPI経由で利用する。 入力データがAIの再学習に使われることを防ぐ。
データの匿名化 企業名、個人名、具体的な金額などを「A社」「X円」のように伏せ字にする。 万が一データが流出しても、実質的な被害を防ぐ。
社内ガイドラインの策定 「入力して良い情報」と「悪い情報」を明確に区分し、全社員に周知する。 ヒューマンエラーによる意図しない情報漏洩を未然に防ぐ。

また、現在のChatGPTは企業の内部帳簿に直接アクセスできるわけではありません。セキュリティが担保された環境で、ERP(統合基幹業務システム)などのデータベースと安全に連携させる仕組みを構築しない限り、機密データを直接読み込ませることは避けるべきです。

AIの回答精度と専門家によるダブルチェックの必要性

ChatGPTは膨大なテキストデータを学習していますが、あくまで確率に基づいて「もっともらしい言葉」を繋げているに過ぎません。そのため、経理実務で求められる1円単位の正確性や法的根拠の厳密さを常に保証できるわけではない点に注意が必要です。

ブラックボックス問題とハルシネーションのリスク

AI、特にディープラーニングを用いたモデルには、結論に至った経緯が人間には理解できない「ブラックボックス問題」が存在します。なぜその勘定科目を提案したのか、なぜその税務処理が適切だと判断したのか、その論理的根拠が不明確な場合があります。

さらに、事実とは異なる内容をあたかも真実であるかのように回答する「ハルシネーション(幻覚)」と呼ばれる現象も発生します。例えば、架空の会計基準や税法条文を引用して回答を作成することがあるため、AIの出力を鵜呑みにすることは危険です。

法的責任の所在と倫理的懸念

AIが誤った判断をし、その結果として税務申告漏れや不適切な会計処理が発生した場合、その法的責任はAIではなく企業(人間)が負うことになります。AIが著作権を侵害した場合や、バイアスのかかった判断を行った場合の倫理的懸念についても、議論はまだ途上にあります。

したがって、AIを経理業務に活用する場合でも、最終的な確認と判断は必ず専門知識を持つ人間が行わなければなりません。「AI会計士」のような完全自動化された未来はまだ先の話であり、現段階ではあくまで人間の判断を支援するツールとして位置づけることが、AI時代の生存戦略として重要です。

AI活用の前提となる経営データの統合とERPの役割

経理業務においてChatGPTをはじめとするAI技術の導入が進む一方で、多くの企業が「導入したものの期待した成果が出ない」という壁に直面しています。その最大の原因は、AIが学習・分析するためのデータの質と管理状態にあります。

AIは魔法の杖ではなく、与えられたデータを基に判断や生成を行うツールです。したがって、AI活用の成否は、その前提となる「経営データの統合」と、それを支える「ERP(Enterprise Resource Planning)」の活用状況に大きく依存します。本章では、なぜ既存のExcel管理では不十分なのか、そしてERPがAI時代にどのような役割を果たすのかを解説します。

バラバラなExcel管理ではAIの効果を最大化できない

多くの中小・中堅企業では、依然として経理業務の多くがExcelによって管理されています。しかし、各担当者のPC内に散在するExcelファイル(いわゆるバケツリレー方式のデータ管理)は、AI導入における最大の障害となります。

プロセスドリブンとデータドリブンの違い

AI活用を理解するためには、まず業務の自動化に対するアプローチの違いを理解する必要があります。資料によれば、業務の自動化には「プロセスドリブン」と「データドリブン」の2つのアプローチが存在します。

ExcelマクロやRPA(Robotic Process Automation)は、定められたビジネスルールに従ってタスクを処理するプロセスドリブンな技術です。これらは「Aという条件ならBをする」という明確なルールがある定型業務には適していますが、データから学習して新たな知見を生み出すことはありません。

一方で、AIや機械学習(ML)は、大量のデータからパターンを学習し、確率を用いて結果を導き出すデータドリブンな技術です。AIがその能力を発揮するためには、学習元となるデータが「統合」され、「整理」されていることが絶対条件となります。バラバラに保存されたExcelデータでは、AIは全体像を把握できず、精度の高い分析や予測を行うことができません。

「AI会計士」の実現を阻むデータの分断

ChatGPTのような生成AIは、インターネット上の膨大なテキストデータを学習しており、会計基準やIFRS(国際財務報告基準)などの一般的な知識には的確に回答できます。しかし、企業の内部帳簿に直接アクセスすることはできません。

将来的に、会計ルールを理解したAIがAPI経由で実際の会計データにアクセスし、処理を行う「AI会計士」のような存在が期待されています。しかし、その実現のためには、データがExcelなどの非構造化データではなく、API連携が可能なデジタルデータとして統合管理されている必要があります。データが分断された状態では、AIは単なる「一般的な知識を持ったチャットボット」に留まり、自社の経営課題を解決するパートナーにはなり得ないのです。

経営管理の型を整えるERP導入の真の価値

AI活用の効果を最大化するためには、データの「器」となるERPの導入と、正しいステップでの活用が不可欠です。CFO(最高財務責任者)や経理責任者は、流行のAI技術に飛びつく前に、足元のデータ基盤を整える必要があります。

自動化からAIへ:飛ばせないステップ

経理部門がAI活用を目指す上で、推奨される実践的なステップがあります。それは、まず「プロセスのデジタル化と自動化」を確実に進めることです。

ステップ 主な技術・手法 具体的な業務例
Step 1: デジタル化・統合 ERP/クラウド会計 データの統合管理、ペーパーレス化、Web分析データとの統合
Step 2: 自動化(ルールベース) RPA/ビジネスルール 売掛金・買掛金管理、経費照合、単純なアラート発出
Step 3: 知能化(AI活用) AI/機械学習(ML) 需要予測、ダイナミックプライシング、異常検知、資金繰り予測

上記の表のように、AI(Step 3)を活用するには、その前段階としてデジタルデータがERPに蓄積されている(Step 1)ことが不可欠です。プロセス自動化のフェーズを飛ばして、いきなりAIによる高度な判断を実現することはできません。

コスト対効果を見極める:AIとビジネスルールの使い分け

ERPを導入する真の価値は、AIを使うまでもない「単純な判断」を低コストで自動化できる点にもあります。

例えば、「電気代が前年比20%増えたらアラートを出す」といった業務を考えてみましょう。これを実現するために高価な機械学習システムを導入するのは過剰投資です。このような明確な基準がある判断には、ERP内の単純なビジネスルール設定の方が効果的かつ安価です。

一方で、競合の価格や顧客行動を分析して動的な価格設定(ダイナミックプライシング)を行ったり、複雑な要因が絡み合う資金繰りを予測したりする場合には、機械学習が威力を発揮します。ERPによって「守りの経理(定型業務)」をルールベースで自動化し、蓄積されたデータをAIに食わせることで「攻めの経理(予測・戦略)」を実現する。このハイブリッドな体制こそが、AI時代の経理部門が目指すべき姿です。

ブラックボックス問題とERPの信頼性

最後に、AI特有のリスクである「ブラックボックス問題」についても触れておく必要があります。ディープラーニングによる判断は、結論に至った経緯が人間には理解しにくい場合があります。銀行の融資判断や法的アドバイスにおいて、AIのバイアスや根拠の不明確さは大きなリスクとなります。

ERPを中心とした統合データベースがあれば、AIが出した予測結果に対し、元データに遡って人間が検証(ダブルチェック)を行うことが可能になります。AIを盲信するのではなく、ERPという確固たるデータ基盤を持つことで、経理部門はAIのリスクをコントロールしながら、その恩恵を最大限に享受できるようになるのです。

マネジメントトランスフォーメーションを実現する未来の経理

ChatGPTをはじめとする生成AIの登場は、経理部門に単なる業務効率化以上の変革をもたらそうとしています。それは、従来の「守りの経理」から、経営の意思決定を能動的に支援する「攻めの経理」への転換、すなわちマネジメントトランスフォーメーション(MX)です。AI時代において経理担当者が生き残り、さらに価値を発揮するためには、AIを脅威としてではなく、強力な「参謀ツール」として使いこなす視点が不可欠です。

ERPとAIを組み合わせて経営の見える化を加速する

AIを経理業務で最大限に活用するためには、その土台となるデータの質と管理方法が重要です。多くの企業で見られるような、各部署がバラバラのExcelで数値を管理している状態では、AIはその真価を発揮できません。AIは魔法の杖ではなく、与えられたデータを基に学習・判断するツールだからです。

ここで重要となるのが、プロセスドリブン(Process Driven)とデータドリブン(Data Driven)の違いを理解し、ERP(Enterprise Resource Planning)によって経営データを統合することです。以下の表は、従来型の自動化技術とAIの違い、そしてERPの役割を整理したものです。

区分 RPA・従来型システム AI・機械学習(ML)
アプローチ プロセスドリブン(ルールベース) データドリブン(学習・確率ベース)
得意な業務 経費精算の規定チェック、定型的な仕訳入力、データの転記 売上予測、異常値の検知、財務分析レポートの草案作成
ERPとの関係 ERP内の定義されたルールに従って処理を自動実行する ERPに蓄積された統合データを分析し、新たなインサイトを発見する

経理の現場では、まずRPA(Robotic Process Automation)やERPの標準機能を用いて、売掛金・買掛金管理や経費照合といった反復タスクを自動化することが先決です。例えば「電気代が前年比20%増えたらアラートを出す」といった明確なルールに基づく判断は、高価なAIを導入せずとも、ERP内のビジネスルール設定で十分かつ確実に処理できます。

その上で、統合された財務データと、Web分析や顧客満足度などの非財務データをAIに読み込ませることで、初めて「将来の収益予測」や「動的な価格設定(ダイナミックプライシング)」といった高度な経営判断の支援が可能になります。ERPで「過去と現在」を正確に記録し、AIで「未来」を予測する。この組み合わせこそが、経営の見える化を加速させる鍵となります。

バックオフィスから経営参謀へと進化する経理部門

AI技術が進化し、会計ルールを理解したAIがAPI経由で会計データに直接アクセスして処理を行う「AI会計士」のような存在が現実的になりつつあります。しかし、これは経理担当者が不要になることを意味しません。むしろ、経理部門は集計や入力といった作業者(オペレーター)から、経営層に対して戦略的な提言を行うFP&A(Financial Planning & Analysis)のような経営参謀へと進化する好機です。

ChatGPTなどの生成AIは、IFRS(国際財務報告基準)や税法などの一般的な知識については膨大なテキストデータから学習しており、的確な回答を出せます。一方で、企業の内部事情や文脈を完全に理解しているわけではなく、回答がブラックボックス化(結論に至った経緯が不明瞭になること)するリスクも抱えています。そのため、AIが作成した分析レポートや予測モデルに対し、最終的な妥当性を検証し、倫理的な判断を下すのは人間の役割です。

これからの経理担当者に求められるのは、単に仕訳を切る能力ではなく、「AIに適切な問い(プロンプト)を投げかける力」と「AIが出した答えを経営戦略に翻訳する力」です。CFO(最高財務責任者)や経理リーダーは、AIトレンドにただ飛びつくのではなく、まずは足元の業務プロセスをデジタル化・自動化し、高品質なデータ基盤を構築した上で、AIを戦略的にパートナーとして迎え入れる姿勢が求められます。

よくある質問(FAQ)

ChatGPTが普及すると、経理担当者の仕事はなくなってしまいますか?

いいえ、経理担当者の仕事が完全になくなることはありません。ChatGPTをはじめとするAIは、データの入力や単純な集計といった「定型業務」の効率化には非常に強力ですが、複雑な税務判断、経営層への戦略的な提案、部門間の調整といった「判断業務」や「コミュニケーション」は人間にしかできません。むしろ、AIを使いこなすことでルーチンワークから解放され、より付加価値の高い業務に集中できるチャンスと捉えるべきでしょう。

経理業務でChatGPTを利用する際、情報漏洩のリスクはありませんか?

はい、リスクは存在します。ChatGPTに入力したデータは、AIモデルの学習に利用される可能性があるため、個人情報や企業の機密情報(具体的な取引先名、未公開の財務データ、銀行口座情報など)をそのまま入力することは避けるべきです。利用する際は、入力データを学習に使わない設定(オプトアウト)を行うか、企業向けのセキュアな環境(ChatGPT EnterpriseやAPI経由での利用など)を検討し、社内のセキュリティガイドラインを遵守することが重要です。

ChatGPTはExcelを使った経理業務にどのように役立ちますか?

ChatGPTはExcelの関数やマクロ(VBA)の作成支援に非常に長けています。「売上データから月ごとの推移グラフを作るマクロを書いて」「VLOOKUP関数でエラーが出る理由を教えて」といった指示を出すことで、複雑な数式や自動化プログラムを瞬時に生成してくれます。これにより、Excel業務のスピードと精度を劇的に向上させることが可能です。

無料版のChatGPTでも経理業務に使えますか?

簡単なメールの文面作成や基本的な用語の検索程度であれば無料版でも可能ですが、本格的な業務利用には有料版を推奨します。有料版は論理的推論能力が格段に高く、複雑な仕訳の相談や財務データの分析補助において、より精度の高い回答が期待できるためです。

ChatGPTの回答内容は、税務申告や決算にそのまま使えますか?

いいえ、そのまま使うことは推奨されません。ChatGPTは非常に優秀ですが、計算ミスをすることや、古い法規制に基づいた回答をすることがあります(ハルシネーション)。特に日本の税法や会計基準は頻繁に改正されるため、最終的な数値の確定や法的な判断については、必ず会計ソフトの正規機能を使用するか、税理士や公認会計士などの専門家によるダブルチェックを行ってください。

経理業務の効率化には、ChatGPTと会計ソフトのどちらが重要ですか?

どちらも重要ですが、役割が異なります。日々の正確な記帳や決算書の作成には「会計ソフト(特にクラウド会計ソフトやERP)」が不可欠です。一方で、その会計ソフトに入力する前のデータ整理や、出力されたデータの分析・レポート化、業務マニュアルの作成などには「ChatGPT」が役立ちます。両者を組み合わせることで、経理業務全体の生産性を最大化できます。

まとめ

本記事では、「経理の仕事はChatGPTでなくなるのか」という疑問に対し、AI時代の生存戦略と業務効率化の秘訣について解説してきました。

結論として、ChatGPTの登場によって経理の仕事そのものが消滅することはありません。なくなるのは「単純な入力作業」や「転記作業」であり、これからの経理担当者には、AIが作成したデータを検証する「判断力」や、数値をもとに経営へ提言を行う「分析力」がより一層求められるようになります。

ChatGPTを経理業務で活用するポイントは以下の通りです。

  • 定型業務の自動化:仕訳の相談、メール作成、Excelマクロの生成などでAIをアシスタントとして活用する。
  • セキュリティの徹底:機密情報は入力せず、あくまで思考の整理や草案作成のツールとして利用する。
  • 専門家による監修:AIの回答を鵜呑みにせず、最終的な税務判断は人間が行う。

また、AIの能力を最大限に引き出すためには、社内のデータが正しく整理されていることが大前提です。バラバラに管理されたExcelファイルではなく、ERP(統合基幹業務システム)などを導入して経営データを一元管理することで、AIによる分析精度を高め、迅速な経営判断につなげることができます。

「AIに使われる側」になるのではなく、「AIを使いこなす経営参謀」へ。新しい技術を恐れず、積極的に業務に取り入れていく姿勢こそが、これからの時代を生き抜く経理担当者の最大の武器となるでしょう。

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