中小企業の海外展開|
成功への5ステップと失敗しないための注意点を徹底解説

 2025.10.08  クラウドERP実践ポータル

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国内市場の縮小に危機感を抱き、海外展開を検討する中小企業が増えています。しかし「何から始めればよいか分からない」「失敗のリスクが怖い」といった不安はありませんか。本記事では、海外展開を成功に導く具体的な5つのステップと、多くの企業が陥りがちな失敗パターンを徹底解説します。成功の鍵は、事前の周到な準備と適切な経営管理体制の構築にあります。この記事を読めば、海外進出への確かな一歩を踏み出せます。

中小企業の海外展開|成功への5ステップと失敗しないための注意点を徹底解説

はじめに 中小企業こそ海外展開を検討すべき理由

少子高齢化による人口減少が加速する日本では、多くの産業で国内市場の縮小が避けられない現実となりつつあります。 このような状況下で、多くの中小企業が持続的な成長を遂げるための活路として、海外市場に熱い視線を注いでいます。かつて「海外展開」は大企業のものでしたが、デジタル技術の進化や各種支援策の充実により、今や意欲ある中小企業にとっても現実的な選択肢となっているのです。

しかし、「何から始めればいいかわからない」「リスクが怖い」といった不安から、一歩を踏み出せない経営者の方も少なくないでしょう。重要なのは、国内市場の縮小リスクを回避するという守りの視点だけでなく、新たな成長機会を掴むという攻めの視点を持つことです。この記事が、貴社の未来を切り拓くための一助となれば幸いです。

海外展開のメリットとデメリットを正しく理解する

海外展開を本格的に検討する前に、その光と影、つまりメリットとデメリットを正確に把握しておくことが不可欠です。期待できるメリットを最大化し、起こりうるデメリットを最小化するための戦略を練ることが、成功への第一歩となります。

メリット デメリット
新たな市場開拓による売上拡大
経済成長が著しい新興国など、日本国外に広がる巨大なマーケットにアクセスできます。 国内では飽和状態の製品・サービスでも、海外では新たな需要を掘り起こせる可能性があります。
多額の初期コスト
市場調査や現地法人設立、人材確保など、進出の準備段階で相応のコストが発生します。 これは特にリソースの限られる中小企業にとって大きな障壁となり得ます。
生産・調達コストの削減
人件費や原材料費が日本より安価な国・地域に生産拠点を移すことで、コスト競争力を高めることができます。
カントリーリスク
進出先の政治・経済情勢の変動、法制度の変更、インフラの未整備といった、予測が難しいリスクに直面する可能性があります。
収益源の多様化によるリスク分散
国内市場だけに依存する経営から脱却し、複数の国・地域で収益を上げることで、特定の市場の景気変動や災害などの影響を受けにくくなり、経営の安定化が図れます。
為替変動リスク
輸出入取引や海外子会社からの利益送金において、為替レートの変動が収益を大きく左右する可能性があります。
ブランド価値の向上と人材育成
海外で認められることで、企業のブランドイメージが向上し、国内事業にも好影響を与えることがあります。 また、グローバルな環境で活躍する人材が育ち、組織全体の活性化にも繋がります。
文化・商習慣・言語の壁
コミュニケーションの齟齬や価値観の違いが、現地従業員のマネジメントや顧客との交渉を困難にすることがあります。

成功する中小企業に共通する特徴とは

海外展開を成功させている中小企業には、いくつかの共通点が見られます。これらは決して特別なことではなく、自社の状況に合わせた応用が可能なものばかりです。

  • 明確な目的と自社の強みの客観的把握
    「なぜ海外に出るのか」という目的が明確であり、自社の技術力、製品、サービスといった「武器」が、どの市場で通用するのかを冷静に分析しています。日本の消費者の高い要求水準を満たした製品・サービスは、それ自体が海外で通用する信頼の証しとなり得ます。
  • ニッチ市場でのトップ戦略
    大企業が参入しにくいニッチな市場を見つけ出し、そこで圧倒的なシェアを握る戦略を取ります。小回りが利き、顧客の細かいニーズに対応できる柔軟性は、中小企業ならではの大きな武器です。
  • 経営者の強いリーダーシップと覚悟
    海外展開には予期せぬトラブルがつきものです。そのような困難に直面した際に、トップ自らが強い意志とリーダーシップを発揮し、粘り強く事業を推進していく覚悟が不可欠です。
  • 信頼できる現地パートナーの存在
    現地の法律、商習慣、市場動向に精通したパートナー企業の協力は、成功の確率を飛躍的に高めます。 JETRO(日本貿易振興機構)や中小企業基盤整備機構といった公的機関も、パートナー探しを支援しています。
  • 段階的かつ柔軟なアプローチ
    いきなり大規模な投資を行うのではなく、まずは輸出や越境ECといった低リスクな方法から始め、市場の反応を見ながら段階的に展開を拡大させていく慎重さも重要です。
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海外展開の失敗パターンから学ぶべき教訓

海外展開を成功に導くためには、輝かしい成功事例に学ぶだけでなく、多くの企業が陥りがちな失敗のパターンを理解し、それを避けることが極めて重要です。海外進出には、国内ビジネスとは異なる特有のリスクが数多く潜んでいます。ここでは、よくある失敗を「計画」「人材・組織」「管理体制」の3つの観点から分類し、それぞれの具体的な事例とそこから得られる教訓を詳しく解説します。

計画の甘さが原因の失敗事例

海外展開における失敗の多くは、最初の計画段階での見通しの甘さに起因します。「なんとなく市場が成長していそうだから」「競合が成功しているから」といった安易な動機で進出を決めてしまうと、深刻な事態を招きかねません。綿密な事前準備と客観的なデータに基づいた計画こそが、成功の礎となります。

具体的な失敗要因としては、以下のようなケースが挙げられます。

失敗要因 具体的な失敗例 得られる教訓
市場調査の不足

日本の成功体験をそのまま持ち込み、現地の文化やニーズに合わない商品を展開してしまった。また、現地の複雑な法規制や商習慣を理解しておらず、許認可の取得に想定以上の時間とコストを要し、事業開始が大幅に遅延した。

現地のニーズ、文化、法規制、競合の動向などを徹底的に調査し、自社の製品やサービスを現地に最適化(ローカライズ)させる必要があります。 机上の空論ではなく、現地に足を運んで生の情報を得ることが不可欠です。

資金計画の見通しの甘さ

人件費や賃料が想定よりも高騰したほか、予期せぬ関税や物流コストが発生。追加のマーケティング費用もかさみ、運転資金が早々にショートしてしまった。撤退するにも、設備の処分や従業員の解雇に多額の費用が必要となった。

想定外の事態に備え、余裕を持った資金計画を立てることが重要です。進出時だけでなく、事業が軌道に乗るまでの期間や、最悪の場合の撤退コストまで具体的にシミュレーションしておくべきです。

パートナー選定の失敗

現地の販売代理店や提携パートナーの能力や信頼性を十分に調査せず契約。結果的に販売網が機能しなかったり、経営方針を巡って対立したりと、事業が停滞してしまった。 中には、技術やノウハウだけを吸収され、契約を一方的に破棄されるケースもある。

信頼できるパートナーを見つけることは、海外展開の成否を分ける重要な要素です。 複数の候補を比較検討し、第三者機関の意見も参考にしながら慎重に選定する必要があります。契約内容についても、弁護士などの専門家を交えて細部まで確認することが求められます。

人材と組織の問題が原因の失敗事例

海外事業を「誰が」「どのように」推進していくのかという人材・組織戦略の欠如も、失敗の大きな原因となります。優秀な人材を送り込むだけでは不十分で、本社と現地法人が一体となって事業を推進できる組織体制の構築が不可欠です。

キーパーソンへの過度な依存と本社のサポート不足

特定の駐在員やエース社員に海外事業の全てを「丸投げ」してしまうケースは少なくありません。その担当者が退職したり、体調を崩したりした途端に、現地法人との関係が悪化し、事業が立ち行かなくなるリスクを孕んでいます。また、本社側が海外事業への関心や理解に乏しく、必要なサポートや権限移譲を行わないため、現地の担当者が迅速な意思決定を行えず、ビジネスチャンスを逃してしまうことも頻繁に起こります。

グローバル人材の育成不足

語学力はもちろんのこと、現地の文化やビジネス慣習を深く理解し、多様な価値観を持つ現地スタッフをまとめ上げるリーダーシップを発揮できる「グローバル人材」は、海外展開の要です。 しかし、多くの中小企業では、こうした人材の育成が追いついていないのが現状です。 準備不足のまま社員を海外に派遣しても、現地スタッフとの間にコミュニケーションエラーが生じ、組織として機能不全に陥ってしまいます。

本社と現地法人のコミュニケーション不全

物理的な距離や時差は、本社と現地法人の間に心理的な距離も生み出します。定例報告会が形式的なものになり、現地のリアルな情報が本社に伝わらなくなると、本社は現地の状況を正しく把握できなくなります。逆に、現地からは「本社は現場のことを何も分かっていない」という不満が募り、両者の溝は深まるばかりです。このようなコミュニケーションの断絶が、経営判断の遅れや誤りを招き、最終的に事業の失敗へと繋がります。

管理体制の不備が原因の失敗事例

事業が拡大するにつれて、国内と同じ管理手法では立ち行かなくなる場面が必ず訪れます。特に海外子会社の経営管理は、国内とは比較にならないほど複雑です。「見えない」「分からない」状態を放置することが、経営の最大のリスクとなります。

現地法人の経営状況のブラックボックス化

本社から現地法人の経営実態が見えなくなり、ガバナンスが効かなくなる問題は深刻です。 現地任せの経営が続いた結果、知らないうちに不正会計や横領が発生していたという事例は後を絶ちません。 また、業績が悪化していても、本社への報告が遅れたり、実態よりも良く見せようと情報が操作されたりすることで、本社が問題に気付いたときには手遅れになっているケースも少なくありません。

グループ全体で統一された業務プロセスの欠如

各国・各拠点で業務プロセスがバラバラだと、グループ全体の状況を正確かつタイムリーに把握することが困難になります。例えば、会計基準や勘定科目が異なれば、連結決算に多大な時間と労力を要します。 また、業務の標準化がされていないと、内部統制を効かせることが難しくなり、不正やミスの温床となりかねません。非効率な業務プロセスは、企業の競争力を削ぐ大きな要因となります。

ITインフラの未整備

Excelや国内向けの会計ソフトだけで海外拠点の管理を続けることには限界があります。為替レートの変動に迅速に対応できなかったり、各国の複雑な税制や法制度に準拠できなかったりと、様々な問題が生じます。複数の拠点のデータを統合して分析することも難しく、データに基づいた迅速な経営判断の妨げとなります。海外展開を成功させるには、その基盤となるITインフラへの投資が不可欠です。

これを押さえれば成功率が上がる 海外展開5つのステップ

海外展開は、もはや大企業だけのものではありません。入念な準備と正しいステップを踏むことで、中小企業であっても成功を収めることが可能です。ここでは、海外展開の成功率を飛躍的に高めるための具体的な5つのステップを、実務的な視点から詳しく解説します。

ステップ1 自社の強みを活かせる目的を設定する

海外展開という航海に出る前に、「なぜ海外を目指すのか」という羅針盤(目的)を明確に定めることが最も重要です。 目的が曖昧なままでは、その後の戦略がぶれてしまい、思わぬところで座礁しかねません。目的設定は、経営戦略そのものであると認識しましょう。

海外展開の主な目的

中小企業が海外展開を目指す目的は、主に以下の4つに分類されます。

  • 販路拡大:国内市場の縮小や競争激化を背景に、成長著しい海外市場で新たな顧客を獲得し、売上を拡大します。
  • 生産コストの削減:人件費や原材料費が安い国に生産拠点を移すことで、価格競争力を高めます。
  • 技術・情報の獲得:特定の技術やノウハウが進んでいる国に進出し、現地の企業や研究機関との連携を通じて、自社の技術革新を加速させます。
  • ブランド価値の向上:海外で事業展開すること自体が、企業のブランドイメージや信頼性の向上に繋がります。

自社の現状分析(SWOT分析)

目的を定める上で不可欠なのが、自社の現状を客観的に把握することです。そのための有効なフレームワークが「SWOT分析」です。

  プラス要因 マイナス要因
内部環境 強み (Strengths)
例:独自の技術力、高品質な製品、特定のニッチ市場での実績
弱み (Weaknesses)
例:海外人材の不足、資金力、ブランドの認知度
外部環境 機会 (Opportunities)
例:進出先の市場成長、円安、日本文化への関心の高まり
脅威 (Threats)
例:現地の法規制、競合の台頭、カントリーリスク

この分析を通じて、自社の「強み」を活かし、外部環境の「機会」を捉えられるような目的を設定することが、成功への第一歩となります。

ステップ2 データに基づき進出市場を絞り込む

目的が定まったら、次はその目的を達成するのに最もふさわしい国・地域(市場)を選定します。「親日国だから」「なんとなく成長していそうだから」といった感覚的な理由で選ぶのは非常に危険です。必ず客観的なデータに基づいて、慎重に候補地を絞り込みましょう。

市場調査の重要性と調査項目

海外市場調査とは、進出候補国の市場を調べ、自社が参入できる余地があるかを確認するプロセスです。 調査すべき項目は多岐にわたりますが、最低限、以下の点は押さえておく必要があります。

分類 主な調査項目 情報収集先の例
マクロ環境分析(PEST分析) 政治(Political)、経済(Economic)、社会(Social)、技術(Technological)の動向、法規制、カントリーリスク 外務省の海外安全情報、各国政府統計
市場規模・成長性 市場規模、成長率、ターゲット顧客層の所得水準やニーズ 各種調査会社のレポート、業界団体資料
競合分析 現地の競合企業の強み・弱み、価格帯、販売戦略 競合企業のウェブサイト、現地販売店へのヒアリング
参入障壁 外資規制、関税、流通網、商習慣 日本貿易振興機構(JETRO)の国・地域別情報

これらの情報収集には、日本貿易振興機構(JETRO)や中小企業基盤整備機構といった公的機関を積極的に活用することをおすすめします。 これらの機関は、海外展開を目指す中小企業向けに、豊富な情報提供や相談窓口を設けています。

ステップ3 収益とリスクを盛り込んだ事業計画を作る

進出市場を絞り込んだら、具体的な事業計画を策定します。 事業計画書は、社内の意思統一を図るための設計図であると同時に、金融機関からの融資や補助金申請の際に不可欠な書類となります。

事業計画に盛り込むべき主要項目

  • 事業概要:どのような製品・サービスを、誰に、どのように提供するのかを具体的に記述します。
  • 販売・マーケティング戦略:ターゲット市場にどうアプローチし、どのように販売していくかの計画です。
  • 生産・オペレーション計画:製品の製造やサービスの提供体制、物流網の構築などを計画します。
  • 財務計画:売上予測、コスト計算、利益計画、資金調達計画などを具体的な数値で示します。特に、初期投資と運転資金、資金回収までの期間を現実的に見積もることが重要です。
  • リスク分析と対応策:為替変動リスク、政治・経済の変動リスク、法規制の変更リスクなどを洗い出し、それぞれの対応策を事前に検討しておきます。

計画を立てる際は、楽観的なシナリオだけでなく、事業が想定通りに進まなかった場合の悲観的なシナリオも用意し、撤退基準をあらかじめ決めておくことも重要です。

ステップ4 海外拠点の経営を可視化する基盤を整える

物理的な距離が離れている海外拠点の経営は、本社から状況が見えにくく、「ブラックボックス化」しやすいという課題があります。 そのため、事業開始前に、現地の経営状況をリアルタイムで正確に把握(可視化)できる仕組みを整えておくことが不可欠です。

Excelや会計ソフトだけでは限界が来る理由

多くの企業がExcelや個別の会計ソフトで管理を始めますが、事業が拡大するにつれて以下のような問題に直面します。

  • データの分断:各拠点や部門でデータがバラバラに管理され、全体像の把握に時間がかかる。
  • 手作業による非効率:データの収集や集計に多大な工数がかかり、ミスも発生しやすい。
  • リアルタイム性の欠如:月次決算が終わらないと経営状況が分からず、迅速な意思決定ができない。
  • 為替や制度への対応:為替レートの変動や各国の会計・税務制度の違いに柔軟に対応することが難しい。

こうした課題を解決するため、多くのグローバル企業では、会計、販売、購買、在庫などの情報を一元管理できるERP(統合基幹業務システム)の導入を検討します。 最初から大規模なシステムを導入する必要はありませんが、将来的な拡張性を見据え、統一されたルールとシステムで経営情報を管理する基盤を構築しておくことが、健全なグローバル経営の鍵となります。

ステップ5 現地でのマーケティングと販売チャネルを確立する

最後のステップは、現地市場で製品・サービスを実際に販売するための仕組みづくりです。日本で成功した方法が、海外でそのまま通用するとは限りません。現地の文化、商習慣、顧客ニーズに合わせて戦略を最適化(ローカライズ)する視点が不可欠です。

多様な販売チャネルの選択

海外での販売チャネルには、直接販売と間接販売があり、それぞれにメリット・デメリットが存在します。

販売形態 主なチャネル メリット デメリット
直接販売 現地法人・支店設立 ・利益率が高い
・顧客ニーズを直接把握できる
・初期投資が大きい
・カントリーリスクが高い
越境EC ・低コストで始められる
・広範囲の顧客にアプローチ可能
・物流や決済の課題
・集客のためのマーケティングが別途必要
間接販売 代理店・ディストリビューター ・現地の販売網を迅速に活用できる
・市場参入のハードルが低い
・利益率が低い
・販売戦略のコントロールが難しい
ライセンス供与 ・低リスクでブランド展開が可能
・ロイヤリティ収入が見込める
・技術やノウハウ流出のリスク
・品質管理が難しい

近年では、まずは越境ECや信頼できる代理店を通じてスモールスタートし、市場の反応を見ながら本格的な展開に移行する企業が増えています。 どのチャネルを選択するにせよ、現地の法律や契約に詳しい専門家のアドバイスを受けながら、慎重に進めることが成功の秘訣です。

中小企業の海外展開における経営管理の課題

海外展開が軌道に乗り、現地法人の設立や複数国への進出といったフェーズに進むと、多くの中小企業は国内事業とは全く異なる「経営管理の壁」に直面します。事業の拡大に伴い、管理すべき情報が爆発的に増加し、国内向けに構築した業務プロセスや管理体制では対応しきれなくなるのです。特に、これまで慣れ親しんだExcelや国内向けの会計ソフトによる管理手法が、海外展開においては深刻なボトルネックとなり得ます。

なぜExcelや会計ソフトだけでは限界が来るのか

海外進出の初期段階では、Excelや使い慣れた会計ソフトで十分に管理できるかもしれません。しかし、複数の海外拠点を展開するようになると、これらのツールだけでは経営の実態を正確かつタイムリーに把握することが極めて困難になります。ある調査では、本社と海外拠点との経営データのやり取りを「ほぼ全てExcelなどで行っている」企業が5割にのぼるという結果も出ています。 このような状況は、多くのリスクを内包しています。

具体的には、主に以下のような課題が顕在化します。

  • データのサイロ化とリアルタイム性の欠如:各拠点が個別のExcelファイルや会計ソフトでデータを管理するため、情報が分散し、本社はグループ全体の経営状況をリアルタイムで把握できません。 連結決算や経営分析に必要なデータを収集・統合するのに膨大な時間と手間がかかり、経営判断の遅れに直結します。
  • ガバナンスと内部統制の脆弱性:Excelは手軽に扱える反面、データの改ざんが容易で、入力ミスも起こりやすいという脆弱性を抱えています。承認プロセスも曖昧になりがちで、海外拠点で不正が発生しても本社がそれを検知できないという重大なリスクがあります。
  • 業務の属人化と非効率化:特定の担当者しか分からない複雑なExcelファイル(いわゆる「Excel職人」)が生まれると、その担当者が不在の場合に業務が停滞します。また、各拠点のデータを手作業で集計・加工するプロセスは非効率であるだけでなく、ヒューマンエラーの温床となります。

これらの課題は、事業規模が大きくなるほど深刻化します。海外展開を成功に導くためには、Excelやスタンドアロンの会計ソフトによる管理から脱却し、グループ全体の情報を一元管理できる仕組みを構築することが不可欠です。

Excel・会計ソフトとグローバル対応ERPの比較
比較項目 Excel / 国内向け会計ソフト グローバル対応ERP
データ管理 拠点ごとにデータが分散(サイロ化) グループ全体のデータを一元管理
リアルタイム性 低い(月次報告など定期的) 高い(入力後すぐに反映)
多言語・多通貨 手動での換算や翻訳が必要で非効率 標準機能で対応可能
内部統制 脆弱(アクセス制御やログ管理が困難) 強固(権限設定や監査ログ機能が充実)
連結決算 手作業でのデータ収集・加工に多大な工数 自動仕訳や自動集計により大幅に効率化

為替や各国の制度に対応する業務プロセスの必要性

海外展開における経営管理を複雑にするもう一つの大きな要因が、国ごとに異なる為替、法制度、税制、会計基準の存在です。これらに適切に対応できない場合、思わぬ損失を被ったり、法的なペナルティを受けたりする可能性があります。

為替変動リスクへの対応

海外との取引において、為替変動リスクは避けて通れません。 例えば、海外子会社からの売上を円に換算する際、円高が進めば売上が目減りしてしまいます。為替リスクを完全に回避することは困難ですが、為替予約などのヘッジ手段を活用し、その影響を最小限に抑えるための管理体制を構築することが重要です。 そのためには、グループ全体のどの通貨でどれくらいの資産・負債があるのかを正確に把握し、為替感応度を分析できる仕組みが求められます。

各国の法制度・会計基準への準拠

事業を展開する国や地域の法制度、税制、会計基準に準拠することは、企業経営の根幹です。 例えば、請求書の様式、付加価値税(VAT)の税率や計算方法、そして財務諸表の作成基準(IFRSや現地GAAPなど)は国によって大きく異なります。 これらの違いを正しく理解し、業務プロセスに落とし込む必要があります。

Excelや国内向けのシステムで各国の要件に個別対応しようとすると、管理が非常に煩雑になり、制度変更への対応も遅れがちです。結果として、コンプライアンス違反のリスクが高まり、企業の国際的な信頼を損なうことにもなりかねません。 複数の国や地域に対応したグローバルな経営管理基盤を整備することが、こうしたリスクを低減させるための鍵となります。

まとめ

本記事では、中小企業が海外展開を成功させるための5つのステップと、陥りがちな失敗パターンを解説しました。国内市場の縮小が懸念される今、海外への挑戦は企業の持続的成長に不可欠です。成功の鍵は、自社の強みを活かした周到な事業計画と、為替や各国の制度に対応できる経営管理基盤の構築にあります。Excelや会計ソフトだけでは限界があるため、事業全体を可視化できるITシステムの導入が、グローバルな競争を勝ち抜くための重要な一手となるでしょう。

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