ERPシステムの導入において、多くの企業担当者が「国産製品と海外製品のどちらを選ぶべきか」という選択に頭を悩ませています。日本の独自の商習慣に馴染みやすい国産ERPと、グローバルなベストプラクティスを反映した海外製ERPには、それぞれ明確な特徴と開発思想の違いがあります。本記事では、両者の違いを多角的に比較し、企業の成長フェーズや目的に合わせた選び方を解説します。最適なERP選定は、業務効率化と経営判断のスピードアップを実現する鍵となります。

この記事でわかること
- 国産ERPと海外製ERPの決定的な違いと特徴
- 導入目的に応じたメリット・デメリットの比較
- 失敗しないためのシステム選定の重要ポイント
ERPにおける国産と海外製の決定的な違い
企業の基幹システムであるERP(Enterprise Resource Planning)を選定する際、最初の分岐点となるのが「国産」か「海外製」かという選択です。両者は単に開発された国が違うだけでなく、システムの設計思想や開発の背景にあるビジネス文化が根本的に異なるため、導入後の業務フローや組織のあり方にまで大きな影響を及ぼします。
国産ERPは日本の商習慣や細やかな現場の要望に応える「現場主導型」の進化を遂げてきたのに対し、海外製ERPはグローバルなベストプラクティスに基づき、業務をシステムに合わせる「トップダウン型」の思想で作られています。この決定的な違いを理解せずに機能比較だけで選定を進めると、導入後に「現場が使いこなせない」「想定外のカスタマイズ費用が発生した」といった失敗を招く原因となります。
ここでは、それぞれの特徴と背景にある思想の違いを深掘りし、自社に最適なERPを見極めるための判断基準を解説します。
国産ERPが日本の商習慣に馴染みやすい理由
国産ERPが多くの日本企業で支持される最大の理由は、日本の特殊な商習慣や法規制に標準機能で対応している安心感にあります。日本のビジネス現場では、取引先ごとの柔軟な対応や、阿吽の呼吸で成立する曖昧な業務プロセスが存在することが珍しくありません。
例えば、商社や卸売業などで見られる「締め処理」や「請求・支払サイト」の複雑な管理、手形取引、赤黒処理といった日本特有の会計処理は、海外製ERPの標準機能では対応しきれないケースが多くあります。国産ERPは、こうした日本独自の商流を前提に設計されているため、追加開発を行わなくてもスムーズに導入できる可能性が高いのです。
また、インボイス制度や電子帳簿保存法といった頻繁な法改正への対応スピードも国産ERPの強みです。日本のベンダーは国内の法規制情報をいち早くキャッチアップし、バージョンアップや修正パッチの提供を行う体制が整っています。これにより、ユーザー企業は法対応のためのシステム改修コストや工数を最小限に抑えることが可能となります。
さらに、ユーザーインターフェース(UI)の面でも大きな違いがあります。国産ERPは、全角・半角の使い分けやフリガナ入力、和暦対応など、日本人が直感的に操作しやすい画面設計がなされています。現場の担当者がマニュアルを熟読しなくても操作できる「使いやすさ」は、システム定着化のハードルを下げる重要な要素です。
海外製ERPがグローバルスタンダードである背景
一方、OracleやSAPに代表される海外製ERPは、「業務をシステム(ベストプラクティス)に合わせる」というFit to Standardの思想で設計されています。これは、欧米企業を中心とした「ジョブ型雇用」や「業務の標準化」を前提とした考え方です。
海外製ERPには、世界中の先進企業で培われた効率的な業務プロセス(ベストプラクティス)がテンプレートとして組み込まれています。そのため、導入企業はシステムに合わせて自社の業務フローを見直すことで、業務の標準化や効率化、ガバナンスの強化を一気に進めることができます。特に、属人化した業務プロセスを刷新し、経営の透明性を高めたいと考える企業にとっては、海外製ERPの導入が強力なドライバーとなります。
また、多言語・多通貨・多税制への対応は海外製ERPの独壇場です。海外拠点を多く持つグローバル企業において、本社で各国の経営数値をリアルタイムに把握するためには、グローバルで統一されたデータ基盤が不可欠です。海外製ERPはIFRS(国際財務報告基準)などの国際的な会計基準にも標準対応しており、グループ経営管理の高度化を目指す企業にとっては最適な選択肢となります。
クラウド型とオンプレミス型に見る開発思想の差
ERPの提供形態には「クラウド型(SaaS)」と「オンプレミス型」がありますが、ここにも国産と海外製の開発思想の差が色濃く反映されています。近年は国産・海外製ともにクラウドシフトが進んでいますが、そのアプローチには違いがあります。
海外製ERPの多くは、マルチテナント型のパブリッククラウド(SaaS)を主力としています。これは、すべてのユーザーが同じプログラムを利用し、ベンダー側で一括してアップデートを行う方式です。常に最新の機能やセキュリティ技術を利用できる反面、個別のカスタマイズは原則として行えません。これは「システムに業務を合わせる」という思想を技術的に強制する仕組みとも言えます。
対して国産ERPは、クラウド型であってもプライベートクラウド形式や、IaaS上でパッケージを稼働させる形式を採用することが多く、一定のカスタマイズ性を残している製品が目立ちます。これは、「現場の要望に合わせてシステムを柔軟に調整したい」という日本企業のニーズに応えるためです。しかし、過度なカスタマイズはシステムのブラックボックス化を招き、将来的なクラウド移行やバージョンアップの妨げになるというジレンマも抱えています。
以下の表は、国産ERPと海外製ERPの一般的な特徴を比較整理したものです。
| 比較項目 | 国産ERP | 海外製ERP |
|---|---|---|
| 設計思想 | 現場適合型 既存の業務フローや商習慣にシステムを合わせる傾向が強い。 |
業務標準化型(Fit to Standard) グローバル標準のプロセスに業務を合わせることを前提とする。 |
| 商習慣・法対応 | 手形、締め処理、インボイス制度などに標準機能で細やかに対応。 | 基本的な機能はあるが、日本独自の要件にはアドオン開発が必要な場合が多い。 |
| 使いやすさ(UI) | 日本人の感覚に合った画面設計。 入力補助や帳票出力機能が充実。 |
合理的だが慣れが必要な場合がある。 用語や画面遷移が欧米的なロジックに基づく。 |
| グローバル対応 | 多言語・多通貨対応は限定的、またはオプション対応となる製品が多い。 | 多言語・多通貨・各国の税制に標準対応。 グループ統合管理に強み。 |
| カスタマイズ性 | 柔軟に対応できる製品が多いが、属人化のリスクがある。 | SaaS版は原則不可。 拡張機能(PaaS等)で外付け開発を行うのが主流。 |
このように、国産と海外製では「何を守り、何を変えるか」というスタンスが異なります。自社がERP導入によって達成したい目的が、「現在の業務効率の維持・向上」なのか、それとも「業務プロセスの抜本的な改革」なのかによって、選ぶべき製品の方向性は自ずと決まってくるでしょう。
国産ERPを選ぶメリットとデメリット
日本企業がERP(Enterprise Resource Planning)導入を検討する際、最初に直面するのが「国産ERPか、海外製ERPか」という選択です。近年、SAPやOracleといった海外製ERPのシェアが拡大していますが、依然として多くの日本企業が国産ERPを選択しています。
その背景には、日本の商習慣に深く根ざした機能性と、安心感のあるサポート体制があります。しかし、一方でグローバル化への対応やシステムの属人化といった課題も存在します。ここでは、国産ERPを選択する場合のメリットとデメリットを整理し、自社に適しているかを判断するための材料を提供します。
以下の表は、国産ERPの主な特徴をメリットとデメリットの観点から整理したものです。
| 評価項目 | 国産ERPのメリット | 国産ERPのデメリット(課題) |
|---|---|---|
| 使いやすさ(UI/UX) | 日本語特有の表現や入力形式に最適化されており、直感的に操作できる。 | グローバル拠点での現地スタッフにとっては、言語や操作性が障壁になる場合がある。 |
| 業務適合性 | 日本の商習慣(手形取引、複雑な承認フローなど)に標準機能で対応している。 | 日本独自の業務プロセスを維持しやすく、業務標準化(BPR)が進まない恐れがある。 |
| 法改正対応 | インボイス制度や電子帳簿保存法など、国内法規制への対応が迅速かつ正確。 | 海外の法規制(GDPRや各国の税制)への対応は、海外製に比べて遅れる傾向がある。 |
| カスタマイズ性 | ベンダーが柔軟にカスタマイズを受け入れる体制が整っていることが多い。 | 過度なカスタマイズによりシステムが複雑化し、アップデートが困難になる。 |
現場の使いやすさと手厚いサポート体制
国産ERPを選ぶ最大のメリットは、日本の現場担当者にとっての「使いやすさ」と、ベンダーによる「手厚いサポート」です。
海外製ERPは、翻訳された日本語メニューが不自然であったり、画面レイアウトが欧米の言語構造に合わせて設計されていたりと、日本のユーザーにとって違和感があるケースが少なくありません。一方、国産ERPは開発当初から日本語での運用を前提としており、全角/半角の使い分けや、和暦の対応、住所入力の形式などが日本の実務に即しています。これにより、導入時の教育コストを抑え、現場の定着率を高めることが可能です。
また、日本の商習慣への適合性も重要なポイントです。例えば、日本独自の「締め支払い」の慣習、約束手形の管理、あるいは稟議書を用いた複雑な承認ワークフローなどは、海外製ERPでは標準機能でカバーされていないことが多く、追加開発(アドオン)が必要になる場合があります。国産ERPであれば、これらの機能が標準装備されている、もしくはパラメータ設定のみで対応できるケースが大半です。
さらに、サポート体制における安心感も大きな利点です。システムトラブルが発生した際、海外製ERPの場合は時差の関係で回答が遅れたり、英語での問い合わせが必要になったりすることがあります。対して国産ERPベンダーであれば、日本のビジネスタイムに合わせて日本語で迅速なサポートを受けられるため、業務停止のリスクを最小限に抑えることができます。
過度なカスタマイズが招くシステムの属人化
国産ERPの「柔軟性の高さ」はメリットである反面、導入における最大の落とし穴にもなり得ます。多くの国産ベンダーは顧客の要望に寄り添う姿勢を持っており、既存の業務プロセスに合わせたカスタマイズ開発に柔軟に対応してくれます。
しかし、現場の「今のやり方を変えたくない」という要望をすべて聞き入れてシステムを改修してしまうと、ERP導入の本来の目的である「業務の標準化」や「ベストプラクティスの活用」が達成されません。その結果、特定の担当者しかシステムの仕様や裏側のロジックを理解していないという「属人化」が発生します。
経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」でも指摘されているように、過剰にカスタマイズされたシステム(レガシーシステム)は、以下のような深刻な問題を引き起こします。
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システムのブラックボックス化:担当者の退職や異動により、メンテナンスが不可能になる。
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バージョンアップの阻害:本体のバージョンアップを行うと独自開発部分が動かなくなるため、古いバージョンのまま使い続けざるを得なくなる(塩漬け状態)。
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維持管理コストの高騰:複雑なプログラムの保守に多大なIT予算が割かれ、新たなデジタル投資(DX)に資金が回らなくなる。
国産ERPを導入する際は、「できるからやる」のではなく、「本当にそのカスタマイズは企業の競争力に直結するのか」を厳しく見極め、可能な限り標準機能に業務を合わせる(Fit to Standard)姿勢が求められます。
グローバル展開や将来的な拡張性における課題
将来的に海外進出を加速させる、あるいはM&Aによって海外企業を買収する計画がある場合、国産ERPでは対応しきれない可能性があります。
海外製ERP(特にティア1と呼ばれる大手ベンダー製品)は、多言語・多通貨対応はもちろんのこと、各国の税制や商習慣、GDPR(EU一般データ保護規則)のようなコンプライアンス要件に標準で対応しています。これに対し、国産ERPはあくまで「日本国内での利用」を主軸に開発されているものが多く、グローバル対応機能はオプション扱いであったり、機能が限定的であったりすることがあります。
無理に国産ERPを海外拠点に展開しようとすると、現地の法規制に対応するための大規模な改修が必要になったり、現地スタッフが使いこなせずにExcel管理に戻ってしまったりするリスクがあります。
この課題に対する解決策として、近年では「2層ERP(Two-tier ERP)」という戦略を採用する企業が増えています。これは、本社(コアERP)にはガバナンス強化のために重厚なERPを採用し、海外拠点や子会社には現地の商習慣に合った、あるいは導入スピードの速い別のERPを採用して連携させる手法です。
国産ERPを選ぶ際は、自社の事業エリアが将来どこまで拡大するのかを見据え、そのERPが企業の成長を阻害する要因(ボトルネック)にならないかを慎重に検討する必要があります。
海外製ERPを選ぶメリットとデメリット
海外製ERP(Enterprise Resource Planning)は、SAP S/4HANAやOracle NetSuite、Microsoft Dynamics 365などに代表されるように、世界中の企業で利用されている実績と、豊富な標準機能が最大の特徴です。グローバル市場で磨かれた「経営管理の仕組み」をそのまま導入できる点が評価され、大企業や海外展開を目指す中堅企業を中心に採用が進んでいます。本章では、海外製ERPを選択することで得られる具体的なメリットと、導入時に直面しやすいデメリットについて詳しく解説します。
経営管理の型化とベストプラクティスの活用
海外製ERPを導入する最大のメリットは、システムが前提としている「業務の標準化」という考え方にあります。個別の業務要件に合わせてシステムを作るのではなく、完成されたシステムに合わせて業務プロセスを見直すことで、経営管理の質を世界水準へ引き上げることが可能です。
業務プロセスをシステムに合わせる「Fit to Standard」
海外製ERPの導入プロジェクトでは、「Fit to Standard(標準機能への適合)」というアプローチが基本となります。これは、ERPが持つ標準機能に合わせて自社の業務フローを変更・統一する手法です。 従来の日本企業で多く見られた「Fit & Gap(機能不足を開発で埋める)」手法とは異なり、追加開発(アドオン)を極力行わないため、導入コストの抑制や将来的なバージョンアップの容易さを確保できます。システムを「作る」ことから「使う」ことへシフトすることで、IT部門の負担を減らし、本来のDX推進にリソースを集中させることが可能になります。
グローバル水準の内部統制とガバナンス強化
海外製ERPには、欧米企業を中心とした数多くの導入実績から導き出された「ベストプラクティス(最良の業務手法)」が凝縮されています。これらを活用することで、業務の効率化だけでなく、内部統制(J-SOXなど)やセキュリティ対策といったガバナンス面でも高い水準を維持できます。 また、多言語・多通貨・多国籍の税制に対応しているため、海外拠点を持つ企業にとっては、グループ全体で統一された基盤を利用できる点が大きな強みとなります。
スピーディーな導入とリアルタイムな経営判断
変化の激しい現代のビジネス環境において、システム導入のスピードとデータの即時性は競争力の源泉です。海外製ERP、特にクラウド型(SaaS)の製品は、これらの要求に応える強力な基盤を提供します。
クラウドファーストによる導入期間の短縮
近年の海外製ERPはクラウドファーストで設計されており、サーバー調達やインフラ構築といった物理的な準備期間を大幅に短縮できます。また、業種別や業務別のテンプレートが充実しているため、ゼロから要件定義を行う必要がなく、最短数ヶ月での稼働も珍しくありません。 常に最新の機能が自動的にアップデートされるため、技術的負債を抱えることなく、AIや機械学習といった最新技術を業務に取り入れ続けることができます。
統合データによる迅速な意思決定
ERPの本質は、ヒト・モノ・カネ・情報の経営資源を一元管理することにあります。海外製ERPは、各部門のデータがリアルタイムに統合データベースへ反映されるよう設計されており、経営層はBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどを通じて、「今、会社で何が起きているか」を即座に把握できます。 これにより、月次決算を待たずに日次レベルで損益を確認したり、グローバル在庫の状況を見て生産計画を調整したりといった、データドリブンな経営判断が可能になります。
日本の特殊な商習慣への対応における注意点
多くのメリットがある一方で、海外製ERPには日本企業特有の課題も存在します。日本の商習慣は世界的に見ても独特であり、グローバルスタンダードな仕様と噛み合わないケースが少なくありません。
業務適合性とアドオン開発のジレンマ
海外製ERP導入で最も失敗しやすいのが、「日本の商習慣に合わせるための過度なカスタマイズ」です。例えば、手形取引、締め請求、複雑な消費税計算(端数処理など)、詳細すぎる帳票要件などは、海外製ERPの標準機能では対応しきれない場合があります。 これらをすべてアドオン開発で対応しようとすると、導入コストが跳ね上がるだけでなく、システムが複雑化し、海外製ERPのメリットである「標準化」や「拡張性」を損なう結果となります。導入にあたっては、業務プロセスそのものを変える(BPR:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)覚悟が必要です。
ユーザーインターフェースと操作性の違い
現場レベルでのデメリットとして、画面の使い勝手(UI/UX)の違いが挙げられます。国産ERPは、入力項目の配置や画面遷移が日本人の感覚に馴染みやすく設計されていますが、海外製ERPは合理的・機能的なデザインが多く、直感的でないと感じるユーザーもいます。 また、マニュアルやヘルプデスクの一部が英語であったり、日本語訳が不自然であったりすることもあり、定着化のための教育コストやマニュアル整備の手間が発生する点には注意が必要です。
| 比較項目 | 海外製ERPのメリット | 海外製ERPのデメリット・注意点 |
|---|---|---|
| 業務プロセス | ベストプラクティス(標準機能)を活用し、業務の効率化と標準化を実現できる。 | 日本の商習慣(手形、締め日、詳細な帳票など)と合わない場合、業務変更の負担が大きい。 |
| システム拡張性 | Fit to Standardにより、バージョンアップが容易で最新技術(AI等)を享受しやすい。 | 独自要件へのアドオン開発を行うと、属人化しやすく、保守コストが増大するリスクがある。 |
| グローバル対応 | 多言語・多通貨・IFRS(国際会計基準)に標準対応しており、海外拠点展開に強い。 | 日本の法改正への対応スピードが、国産に比べて遅れる場合がある(ローカライズ版で解消傾向)。 |
| 導入スピード | クラウド型やテンプレート活用により、インフラ構築不要で短期間での導入が可能。 | 現場の操作習熟やマニュアル整備に時間がかかる場合がある。 |
このように、海外製ERPは「経営の高度化」や「グローバル展開」において強力な武器となりますが、導入を成功させるためには、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)のDX実践手引書などでも推奨されている通り、既存の業務をシステムに合わせて変革する姿勢が不可欠です。
失敗しないERP導入のための選定ポイント
ERP(Enterprise Resource Planning)の導入は、企業の基幹業務を刷新する一大プロジェクトです。多額のコストと長い期間を要するため、選定ミスは経営に深刻なダメージを与えかねません。「国産だから安心」「海外製だから高機能」といった単純なイメージだけで判断せず、自社の課題と将来像に合致したシステムを見極めることが重要です。
現場の要望だけでなく経営視点で目的を定める
ERP選定において最も陥りやすい失敗の一つが、現場の「使いやすさ」を優先しすぎてしまうことです。もちろん、実務担当者にとって操作性は重要ですが、現場の要望をすべて聞き入れると、既存の業務フローをそのままシステム化することになりがちです。
これでは、単なる「業務ツールの置き換え」に留まり、ERP導入の本来の目的である「業務の標準化」や「経営情報のリアルタイムな可視化」といった全体最適の視点が損なわれてしまいます。
現場は「現在の業務がいかに楽になるか(部分最適)」を重視し、経営層は「データがいかに活用できるか(全体最適)」を重視します。このギャップを埋めるためには、導入前にBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を行い、無駄な業務を削減した上で、新しいシステムに合わせて業務フローを見直す覚悟が必要です。
| 視点 | 重視するポイント | ERP導入におけるリスク |
|---|---|---|
| 現場視点 | 現在の画面構成や操作感 既存業務フローの維持 |
過度なカスタマイズによる開発費の高騰 システムの属人化とブラックボックス化 |
| 経営視点 | データの統合と可視化 業務の標準化・効率化 |
現場の抵抗による定着の遅れ 実務とシステム乖離による二重入力の発生 |
成功するERP導入では、経営層が「なぜERPを導入するのか」という目的を明確に示し、現場をリードすることが不可欠です。「現行業務の再現」ではなく「あるべき姿(To-Be)の実現」をゴールに設定することが、選定の第一歩となります。
ERPは国産か海外製かではなく適合性で選ぶ
「国産ERP」と「海外製ERP」のどちらが優れているかという議論には正解がありません。重要なのは、自社の業種・業態、そして企業規模に対する「適合性(フィット感)」です。
例えば、日本の商習慣が色濃く残る建設業や、細やかな在庫管理が求められる食品製造業などでは、日本の法規制や商習慣に標準対応している国産ERPの方が、導入コストを抑えられるケースが多く見られます。一方で、海外に複数の拠点を持ち、グローバルでサプライチェーンを統一したい場合や、外資系企業との取引が主となる場合は、多言語・多通貨対応に優れた海外製ERP(グローバルERP)が有力な選択肢となります。
選定の際は、ベンダーが提案する機能を鵜呑みにせず、自社の必須要件と照らし合わせる「フィット&ギャップ分析」を綿密に行う必要があります。ここで重要なのは、パッケージ標準機能への適合率(Fit率)を重視し、独自カスタマイズ(アドオン開発)を極力減らす方針を持つことです。
近年では、特定の業界に特化した「業界特化型ERP」も増えています。汎用的なERPをカスタマイズして使うよりも、最初から業界特有の商習慣が組み込まれたパッケージを選ぶことで、導入期間の短縮とコスト削減が期待できます。
将来の事業拡大を見据えたスケーラビリティ
ERPは一度導入すると、10年近く使い続けることも珍しくありません。そのため、選定時には「現在の企業規模」だけでなく、「5年後、10年後の事業規模」に耐えうる拡張性(スケーラビリティ)があるかを確認する必要があります。
特に、M&A(合併・買収)や新規事業の立ち上げ、海外進出などを積極的に行う成長企業の場合、システムが事業拡大の足かせになってはいけません。以下の点を考慮して選定を行うことが推奨されます。
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クラウド型ERPの活用:サーバーの増強や拠点追加が容易なクラウド型(SaaS/PaaS)は、変化の激しいビジネス環境に適しています。
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2層ERP(Two-tier ERP)戦略:本社には重厚長大なグローバルERPを導入し、海外拠点や子会社には小回りの利く国産クラウドERPを導入して連携させる手法です。
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API連携の柔軟性:CRM(顧客管理システム)やSFA(営業支援システム)、ECサイトなど、周辺システムとスムーズにデータ連携できるかどうかも、DX推進の観点から極めて重要です。
初期コストの安さだけで拡張性の低いシステムを選んでしまうと、将来的にデータの分断やシステム移行のコスト増大を招くことになります。経営戦略とIT戦略をリンクさせ、企業の成長に合わせて柔軟に変化できるシステム基盤を選ぶことが、失敗しないERP選定の要諦です。
よくある質問(FAQ)
国産ERPの代表的な製品にはどのようなものがありますか?
日本国内で広く知られている代表的な国産ERPには、「OBIC7(オービックセブン)」、「GRANDIT(グランディット)」、「GLOVIA(グロービア)」、「SuperStream(スーパーストリーム)」などがあります。これらは日本の商習慣や複雑な税制に標準で対応しており、多くの企業で導入実績があります。
中小企業には国産と海外製、どちらがおすすめですか?
一般的に、中小企業においては国産ERPの方が導入のハードルが低い傾向にあります。日本の会計基準や帳票作成に標準機能で対応しているため、追加開発のコストを抑えやすく、現場の担当者が直感的に操作できるインターフェースを備えていることが多いからです。
将来的に海外展開を考えていますが、国産ERPでも対応できますか?
一部の国産ERPは多言語・多通貨に対応していますが、グローバルでの実績や法規制への即応性という点では、SAPやOracle NetSuiteなどの海外製ERPに分があるケースが少なくありません。海外拠点の比重が高くなる予定であれば、海外製ERP、あるいは国産と海外製の「2層ERP(2 Tier ERP)」の検討をおすすめします。
国産ERPはクラウドに対応していますか?
はい、近年では多くの国産ERPベンダーがクラウド型(SaaS型)の提供に力を入れています。「マネーフォワード クラウドERP」や「freee」のようなクラウドネイティブな製品に加え、従来のパッケージ型ERPもクラウド環境で利用できるプランを用意しており、選択肢は広がっています。
導入費用は国産の方が安いというのは本当ですか?
ライセンス費用単体で見ると国産の方が安価な傾向にありますが、一概には言えません。国産ERPであっても、自社の業務に合わせて過度なカスタマイズを行えば費用は高騰します。逆に海外製であっても、業務をシステムに合わせる「Fit to Standard」のアプローチをとることで、トータルコストを抑えられる場合があります。
まとめ
国産ERPと海外製ERPの決定的な違いは、日本の商習慣への親和性とグローバルスタンダードへの対応力にあります。現場の使いやすさを最優先し、きめ細かなベンダーサポートを求める企業には国産が適しています。一方で、海外拠点の統合管理や業務プロセスの標準化を急ぐ場合は、海外製が強力な武器となります。
ERP選定で最も重要なのは、原産国にとらわれず、自社の経営目標とシステムの適合性を見極めることです。現状の課題解決だけでなく、将来の事業拡大も見据えた最適なシステムを選びましょう。
- カテゴリ:
- ERP









