ERPシステムの会計機能とは?
会計ソフトとの違いや導入メリットをわかりやすく解説

 2025.09.26  クラウドERP実践ポータル

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ERPの導入を検討する際、会計機能は特に重要なポイントです。しかし、従来の会計ソフトと何が違うのか、導入でどんなメリットがあるのか具体的にイメージできない方も多いのではないでしょうか。本記事では、ERPの会計機能の基本から会計ソフトとの決定的な違い、導入メリット、選び方のポイントまでをわかりやすく解説します。会計データを経営資源と連携させ、迅速な意思決定を支援するERPが、なぜ「全社最適」に繋がるのかが明確に理解できるでしょう。

ERPシステムの会計機能とは?会計ソフトとの違いや導入メリットをわかりやすく解説

ERPシステムの会計機能とはそもそもERPを解説

ERPシステムの会計機能について理解を深めるためには、まず「ERPとは何か」を正しく把握することが不可欠です。ERPは、現代の企業経営において中核をなすシステムであり、その概念や目的を知ることで、会計機能が持つ本当の価値が見えてきます。この章では、ERPの基本的な定義から、よく比較される基幹システムとの違い、そしてERPにおける会計機能の重要な役割について、わかりやすく解説していきます。

ERPとは?基幹システムとの違いを解説

ERPとは「Enterprise Resource Planning」の頭文字を取った略語で、日本語では「企業資源計画」と訳されます。その名の通り、企業の経営資源である「ヒト・モノ・カネ・情報」を統合的に管理し、それらを最適に配分・活用することで経営の効率化を図るための考え方、またそれを実現するためのシステムを指します。

従来、多くの企業では会計、販売、生産、人事といった業務ごとに個別のシステム(基幹システム)が導入されていました。これに対し、ERPはこれらの業務システムを一つのパッケージに統合し、企業全体の情報を一元的に管理する点が最大の特徴です。これにより、部門間のデータ連携がスムーズになり、リアルタイムでの経営状況の可視化が可能になります。

基幹システムとERPの主な違いを以下の表にまとめました。

項目 ERP 基幹システム
目的 経営資源の一元管理による全体最適化 特定業務の効率化を目的とした部分最適化
データ管理 統合された一つのデータベースで情報を一元管理 業務ごとにデータが独立して管理(サイロ化)
データ連携 リアルタイムでのスムーズなデータ連携が可能 システム間の連携には別途開発が必要な場合が多い
導入範囲 全社的な導入が基本 特定の部門や業務に限定して導入

ERPシステムにおける会計機能の役割と位置づけ

ERPシステムにおいて、会計機能は単なる帳簿作成や決算処理のためのツールではありません。販売管理、購買管理、生産管理、人事給与など、企業活動のあらゆる場面で発生するデータをリアルタイムに集約し、経営判断の根幹となる財務情報へと変換する中核的な役割を担っています。

例えば、営業部門が販売管理モジュールに受注情報を入力すると、そのデータは自動的に会計モジュールに連携され、売掛金として計上されます。同様に、購買部門が発注情報を入力すれば買掛金が、生産部門が製造実績を入力すれば製造原価が会計データに反映されます。このように、各業務プロセスで発生した情報が即座に会計データとして統合されるため、経営者は常に最新かつ正確な財務状況を把握し、迅速な意思決定を行うことが可能になるのです。

会計機能は、ERPという企業の神経網の中枢に位置し、経営の羅針盤としての重要な役割を果たしていると言えるでしょう。

ERPの歴史と会計業務の変遷

ERPの概念は、1970年代に製造業で利用されていたMRP(資材所要量計画)に端を発します。当初は生産管理の効率化を目的としていましたが、次第にその範囲を広げ、会計や人事などの機能も統合した現在のERPへと進化してきました。世界で最初のERPは、1973年にドイツのSAP社がリリースした「SAP R/1」とされています。

日本国内では、1990年代にBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の考え方とともにERPが注目され始めましたが、当初は海外製ERPが日本の独自の商習慣に合わず、導入が難航するケースも少なくありませんでした。しかし、2000年代以降、日本の商習慣に対応した国産ERPや、柔軟なカスタマイズが可能なクラウド型ERPが登場したことで、多くの企業で導入が進んでいます。

このERPの進化とともに、会計業務のあり方も大きく変わりました。かつては過去の取引を記録・集計することが主な役割でしたが、ERPの登場により、会計データは未来を予測し、経営戦略を立案するためのリアルタイムな情報基盤へとその価値を大きく高めたのです。

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ERPの会計システムと会計ソフトの決定的な違い

ERPの会計機能と会計ソフトは、どちらも企業の会計業務を効率化するツールですが、その根底にある目的や機能の範囲は大きく異なります。企業の成長フェーズや解決したい課題によって、どちらを選択すべきかは変わってきます。ここでは、「目的」「データ連携範囲」「対象となる企業規模」という3つの観点から、両者の決定的な違いを詳しく解説します。

目的の違い全社最適か部分最適か

ERPの会計システムと会計ソフトの最も大きな違いは、その導入目的です。会計ソフトが特定の部門の業務効率化を目指す「部分最適」のツールであるのに対し、ERPは企業全体の業務プロセスを統合し、経営の効率を最大化する「全社最適」を目指すシステムです。

会計ソフトは、あくまで会計業務に特化しています。日々の仕訳入力、帳簿作成、試算表や決算書の作成といった経理部門の作業を効率化することが主な目的です。一方、ERPの会計機能は、企業全体の経営基盤を支える統合システムの一部として位置づけられています。販売、購買、生産、人事といった他部門の業務と連携し、企業全体の資源(ヒト・モノ・カネ・情報)を統合的に管理することで、経営の意思決定を迅速かつ正確に行うことを目的としています。

  ERPの会計システム 会計ソフト
目的 全社最適(経営全体の効率化、意思決定の迅速化) 部分最適(会計業務の効率化)
役割 経営基盤を支える統合システムの一部 経理部門の業務を支援する専門ツール

データ連携範囲の違い

目的の違いは、システムがカバーするデータの連携範囲にも明確に表れます。

ERPは、各部門の業務システムがデフォルトでシームレスに連携している点が最大の特徴です。例えば、営業部門が販売管理システムで受注入力を行うと、そのデータがリアルタイムで生産管理システムや在庫管理システムに反映され、出荷されると同時に会計システムの売上・売掛金として自動で計上されます。このように、データが一元管理されているため、部門間の情報伝達ロスや二重入力の手間が排除され、常に正確で最新の経営状況を把握できます。

一方、会計ソフトは基本的に会計領域のデータのみを取り扱います。他の販売管理ソフトや給与計算ソフトと連携させる場合、多くはCSVファイルを手動でインポートしたり、個別にAPI連携の開発を行ったりする必要があります。この場合、リアルタイムでのデータ反映が難しく、データの整合性を保つための確認作業が発生することもあります。

  ERPの会計システム 会計ソフト
データ連携 標準機能として各業務システムとリアルタイムに連携 限定的。他システムとの連携には手動での取込や個別開発が必要な場合が多い
データの流れ リアルタイムで一元管理 バッチ処理や手動でのデータ取り込みが中心になりがち
データの整合性 高い 連携の仕組みに依存し、ズレが生じるリスクがある

対象となる企業規模の違い

システムの目的や機能範囲の違いから、対象となる企業規模にも差が見られます。

一般的に、ERPは複数の部門や事業所を持ち、複雑な業務プロセスを管理する必要がある中堅企業から大企業が主な対象です。企業全体の情報を統合管理し、内部統制を強化したり、迅速な経営判断を下したりする必要性が高いためです。導入・運用には相応のコストがかかりますが、近年では「Oracle NetSuite」といったクラウド型ERPの登場により、初期投資を抑えて導入できる中小企業向けのサービスも増えています。

対して会計ソフトは、比較的安価で導入しやすいため、個人事業主や中小企業で広く利用されています。まずは経理業務を効率化したい、という特定のニーズにシンプルに応えることができます。ただし、企業の成長に伴って部門が増え、管理が複雑化してくると、会計ソフトだけでは機能不足となり、ERPへの移行を検討するケースが多くなります。

ERPシステムで会計業務を行う5つのメリット

ERPシステムを会計業務に活用することで、企業は単なる業務効率化に留まらない、多岐にわたるメリットを享受できます。ここでは、特に重要となる5つのメリットを掘り下げて解説します。

経営状況のリアルタイムな見える化

ERP導入による最大のメリットの一つが、経営状況をリアルタイムで正確に把握できる「見える化」の実現です。従来の部門ごとに独立したシステムでは、データの収集や集計に時間と手間がかかり、経営層が最新の状況を把握するまでにはタイムラグが生じていました。しかし、ERPは販売、購買、在庫、人事など、企業内のあらゆるデータを一つのデータベースで一元管理します。これにより、会計データも各部門の活動とリアルタイムに連携し、売上や利益、キャッシュフローといった経営指標が即座に更新・可視化されるのです。この「見える化」は、問題の早期発見や機会損失の防止に繋がり、変化の激しいビジネス環境において企業の競争力を高める上で不可欠と言えるでしょう。

バックオフィス業務の大幅な効率化

ERPの導入は、会計部門をはじめとするバックオフィス業務の劇的な効率化をもたらします。各部門で入力されたデータはERP内で自動的に連携・処理されるため、これまで手作業で行っていたデータ入力の二度手間や転記ミスが根本から解消されます。例えば、営業部門が受注データを入力すれば、その情報は自動で会計システムに連携され、売上計上や請求書発行の準備が整います。これにより、業務プロセスが標準化・自動化され、担当者はより付加価値の高い分析業務などに集中できるようになります。

ERP導入による業務効率化の例

業務内容 ERP導入前の課題 ERP導入後の改善効果
請求・入金管理 販売システムから請求データを抽出し、会計ソフトへ手入力。入金情報との突合も目視で確認。 販売データと連携し請求書を自動発行。銀行データと連携し入金消込を自動化。
経費精算 従業員が申請書を紙で提出し、経理が内容を確認して会計ソフトに入力。承認プロセスも煩雑。 システム上で申請から承認まで完結。仕訳も自動で作成され、振込データも自動生成。
月次決算 各システムからデータをExcel等に集計し、手作業で資料を作成。データの整合性チェックに時間がかかる。 必要なレポートがボタン一つで出力可能。リアルタイムでの進捗確認ができ、決算業務を大幅に短縮。

内部統制の強化とセキュリティ向上

企業の健全な成長に不可欠な内部統制の強化にも、ERPは大きく貢献します。ERPを導入する過程で、既存の業務フローを見直し、システムに合わせた標準化されたプロセスを構築する必要があります。これにより、業務の属人化が排除され、誰が担当しても同じルールで業務が遂行される体制が整います。また、ユーザーごとに細かなアクセス権限を設定したり、承認フローを電子化して記録を残したりすることで、不正行為やデータ改ざんのリスクを低減できます。操作ログも自動的に記録されるため、問題が発生した際の原因究明も迅速に行え、J-SOX法への対応も効率化されます。さらに、データを一元管理することで、セキュリティ対策をERPシステムに集中させることができ、情報漏洩などのリスク管理も強化されます。

迅速で正確な意思決定を支援

ERPによってもたらされるリアルタイムで正確なデータは、経営層の迅速かつ的確な意思決定を強力にサポートします。従来のように、意思決定のために各部門からデータを集めて分析する時間を待つ必要はありません。ERPのダッシュボードや分析機能を活用すれば、部門別、製品別、地域別といった様々な切り口での損益状況や資金繰りの見通しを即座に把握できます。さらに、多くのERPはBI(ビジネスインテリジェンス)ツールとの連携も可能で、蓄積されたデータを多角的に分析し、より高度な経営判断に役立てることができます。これにより、市場の変化や新たなビジネスチャンスに対して、データに基づいた根拠のあるアクションを素早く起こすことが可能になります。

グローバルな事業展開への対応

海外に拠点を持つ企業や、今後グローバル展開を目指す企業にとって、ERPの会計機能は強力な武器となります。多くのERP製品は、多言語・多通貨に対応しており、海外拠点の会計処理も同じシステム上で管理できます。これにより、本社は海外拠点の経営状況をリアルタイムに、かつ日本円に換算して把握することが可能です。また、各国の異なる会計基準や税法に対応した機能を持つERPも多く、IFRS(国際財務報告基準)への対応もスムーズに行えます。グループ全体の経営情報を一元的に管理し、グローバルレベルでの最適なリソース配分や経営戦略の立案を実現します。

ERPシステムの会計機能導入における注意点

ERPシステムの導入は、会計業務をはじめとするバックオフィス業務の劇的な効率化と経営の高度化を実現する一方で、プロジェクトの進め方や製品選定を誤ると、期待した効果が得られないばかりか、かえって業務の混乱を招きかねません。ここでは、ERPの会計機能の導入を成功に導くために、事前に把握しておくべき重要な注意点を4つの観点から詳しく解説します。

導入コストが高額になる可能性がある

ERPシステムの導入には、ソフトウェアのライセンス費用や月額利用料だけでなく、様々なコストが発生します。特に、自社の業務プロセスに合わせてシステムを改修する「カスタマイズ」の範囲が広がると、費用は大幅に増加する傾向にあります。導入形態によってもコスト構造は大きく異なるため、トータルコストを正確に把握することが重要です。

初期費用とランニングコストの内訳を理解する

ERP導入にかかる費用は、一度支払えば終わりではありません。「初期費用(イニシャルコスト)」と、継続的に発生する「ランニングコスト」の両方を考慮して、長期的な視点で予算を計画する必要があります。一般的な費用項目は以下の通りです。

導入形態 初期費用(イニシャルコスト)の主な内訳 ランニングコストの主な内訳
クラウド型
  • 初期設定費用
  • 導入コンサルティング費用
  • データ移行費用
  • 従業員へのトレーニング費用
  • 月額(または年額)利用料
  • ライセンス追加費用
  • オプション機能利用料
  • 保守・サポート費用
オンプレミス型
  • ソフトウェアライセンス費用
  • サーバー・ネットワーク機器などのハードウェア費用
  • インストール・構築費用
  • カスタマイズ開発費用
  • 導入コンサルティング費用
  • ソフトウェア年間保守費用
  • ハードウェア保守費用
  • サーバー運用管理の人件費
  • バージョンアップ費用

特にオンプレミス型は、自社でサーバーなどを保有するため初期費用が高額になりがちです。一方、クラウド型は初期費用を抑えられますが、利用するユーザー数や機能に応じて月額費用が変動します。どちらの形態が自社にとってコストパフォーマンスが高いか、複数ベンダーから見積もりを取り、慎重に比較検討することが不可欠です。

導入・定着までに時間と労力がかかる

ERPの導入は、単に新しいシステムをインストールするような単純な作業ではありません。現状の業務プロセスを分析し、新しいシステムに合わせて業務フローを再設計(BPR:ビジネスプロセス・リエンジニアリング)する必要があるため、プロジェクトが長期化するケースも少なくありません。

業務プロセスの見直しと現場部門との連携が不可欠

ERP導入が失敗する典型的なパターンとして、「現行の業務プロセスをそのままシステム化しようとする」ケースが挙げられます。ERPは、業界のベストプラクティス(最も効率的とされる業務手順)を標準機能として組み込んでいることが多く、システム導入を機に、非効率な業務や属人化している作業を見直し、全社最適な業務フローへと変革していく意識が成功のカギとなります。

そのためには、プロジェクトの初期段階から経理部門だけでなく、営業、購買、生産管理など、関連する全部門の担当者に参加してもらい、意見を吸い上げることが極めて重要です。現場の協力なしに導入を進めると、新しいシステムが利用されずに形骸化してしまうリスクが高まります。

従業員への十分な教育とフォローアップ

新しいシステムの導入は、従業員にとって操作方法の習得や業務手順の変更など、大きな負担となる場合があります。導入後の混乱を避け、スムーズな定着を図るためには、操作研修の実施やマニュアルの整備といった事前の教育体制を十分に整えることが重要です。また、導入後もヘルプデスクを設置するなど、従業員からの質問やトラブルに迅速に対応できるフォローアップ体制を構築しておく必要があります。

自社の業務フローとの適合性(フィット&ギャップ)

ERPパッケージは汎用的に作られているため、全ての機能が自社の業務に完全に一致するわけではありません。自社の業務プロセスとERPの標準機能がどれだけ適合しているか(フィット)、そして適合しない部分(ギャップ)がどこにあるのかを事前に分析する「フィット&ギャップ分析」が重要になります。

ギャップを埋めるためには、前述の「カスタマイズ」を行うか、「業務プロセスをシステムに合わせる」かの判断が必要です。安易なカスタマイズはコストの高騰や、将来的なバージョンアップ時の障害となる可能性があるため、まずはERPの標準機能を最大限に活用し、業務プロセスを見直す方向で検討することが推奨されます。

ベンダー選定とサポート体制の重要性

ERP導入プロジェクトは、システムを提供するベンダーと二人三脚で進めていくことになります。そのため、どのベンダーをパートナーとして選ぶかが、プロジェクトの成否を大きく左右します。

自社の業界・業種への理解度と導入実績

ベンダーを選定する際は、価格や機能だけでなく、自社と同じ業界・業種への導入実績が豊富かどうかを確認しましょう。業界特有の商習慣や会計処理に精通したベンダーであれば、業務内容への理解が早く、的確な提案やサポートが期待できます。複数のベンダーを比較検討し、それぞれの強みや実績を見極めることが大切です。

導入後の保守・サポート体制の確認

ERPは導入して終わりではなく、法改正への対応やシステムの不具合修正、操作に関する問い合わせなど、長期にわたる保守・サポートが不可欠です。契約前に、ベンダーのサポート体制について以下の点を確認しておきましょう。

  • サポートの受付時間(平日のみか、24時間365日対応か)
  • 問い合わせ方法(電話、メール、専用ポータルなど)
  • 対応範囲(どこまでが無償で、どこからが有償か)
  • 法改正時のアップデート対応の速さや費用

信頼できるパートナーとして長期的に付き合えるベンダーを選ぶことが、ERPを安定して活用していくための重要なポイントです。

ERPの会計システムが持つ主な機能

ERPの会計システムが持つ機能は、大きく「財務会計」と「管理会計」の2つの領域に分けられます。財務会計は株主や取引先といった社外の利害関係者へ経営成績を報告することを目的とし、一方で管理会計は経営者や部門責任者といった社内の関係者が経営判断を下すための情報を提供することを目的としています。ERPは、これら2つの会計領域を一つのシステムで網羅し、データの一元管理を実現する点が大きな特徴です。

財務会計機能

財務会計機能は、企業の経済活動を記録・測定し、貸借対照表(B/S)や損益計算書(P/L)、キャッシュフロー計算書(C/F)といった財務諸表を作成するための機能群です。法律や会計基準に準拠した正確な報告が求められ、ERPを活用することで、日々の取引データを基に決算業務を大幅に効率化し、月次決算の早期化を実現します。

機能分類 主な機能 概要
一般会計 総勘定元帳、仕訳管理、試算表作成 すべての取引を記録する会計の根幹です。ERPでは販売管理や購買管理など他モジュールのデータから自動で仕訳が作成され、総勘定元帳に集約されます。
債権管理 売掛金管理、請求書発行、入金消込 得意先への請求から入金までを管理します。請求書の発行、売掛金の年齢表作成、入金データとの自動消込などにより、回収漏れを防ぎ資金繰りを安定させます。
債務管理 買掛金管理、支払管理、支払データ作成 仕入先への支払業務を管理します。請求書に基づき買掛金を計上し、支払予定表の作成やFB(ファームバンキング)データ作成までを自動化することで、支払業務の精度と効率を高めます。
固定資産管理 固定資産台帳、減価償却計算、異動管理 土地、建物、設備などの固定資産を台帳で管理します。取得から除却・売却までのライフサイクルを追跡し、複雑な減価償却計算を自動で行い、会計・税務申告をサポートします。
経費精算管理 経費申請、承認ワークフロー、仕訳連携 従業員の経費申請から承認、支払までを電子化します。交通費のICカード連携や領収書の電子保存対応などにより、ペーパーレス化と内部統制の強化に貢献します。

管理会計機能

管理会計機能は、社内の経営管理に役立つ情報を提供し、迅速かつ的確な意思決定を支援するための機能群です。フォーマットが定められている財務会計とは異なり、企業の経営戦略に応じて必要な情報を自由に集計・分析できる点が特徴です。ERPによって全社のデータがリアルタイムに統合されているため、精度の高い経営分析が可能になります。

機能分類 主な機能 概要
原価管理 実際原価計算、標準原価計算、原価差異分析 製品やサービスにかかる原価を正確に把握・管理します。製造プロセスで発生する材料費、労務費、経費などを集計し、実際原価と標準原価の差異を分析することで、コスト削減や収益性改善に繋げます。
予算管理 予算編成、予実対比、見込管理 部門別やプロジェクト別に予算を編成し、実績データとの比較分析を行います。予算と実績の乖離を早期に発見し、原因を分析することで、タイムリーな経営判断と軌道修正を可能にします。
資金繰り管理 資金繰り表作成、入出金予測 売掛金の入金予定や買掛金の支払予定といったデータを基に、将来の資金繰りを予測・管理します。キャッシュフローの状況を可視化し、安定した企業経営をサポートします。
管理帳票・分析 セグメント別損益管理、ABC分析、経営分析レポート 事業部別、製品別、地域別など、様々な切り口(セグメント)で損益を分析し、経営状況を多角的に可視化します。BI(ビジネスインテリジェンス)ツールと連携し、より高度な分析を行うことも可能です。

失敗しないERP会計システムの選び方

ERPシステムの導入は、企業の会計業務だけでなく経営全体に大きな影響を与える重要な投資です。しかし、多種多様な製品の中から自社に最適なものを選ぶのは容易ではありません。導入後に「こんなはずではなかった」と後悔しないために、以下の7つのポイントを総合的に評価し、慎重に選定を進めましょう。

自社の事業規模や業種・業態に合っているか

ERPシステムは、対象とする企業の規模によって機能や価格帯が大きく異なります。大企業向けの製品は多機能で拡張性に優れていますが、中小企業にとってはオーバースペックでコストも高額になりがちです。一方で、中小企業向けの製品は比較的安価で導入しやすいものの、将来的な事業拡大に対応できない可能性があります。まずは自社の現在の事業規模だけでなく、将来の成長性も見据えて適切な製品群を絞り込むことが重要です。

また、製造業、小売業、建設業、ITサービス業など、業種によって求められる会計処理は特有です。例えば、製造業であれば詳細な原価計算機能、プロジェクト型のビジネスであれば案件ごとの収支管理機能が不可欠です。自社の業種・業態特有の商習慣や業務フローに対応できるか、業界特化型のERPや導入実績が豊富な製品を選ぶことも有効な手段です。

提供形態(クラウドかオンプレミスか)を選択する

ERPシステムの提供形態には、大きく分けて「クラウド型」と「オンプレミス型」の2種類があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社のIT方針やリソース、セキュリティ要件などを考慮して選択する必要があります。

提供形態 メリット デメリット
クラウド型 ・初期費用を抑えられる
・短期間で導入可能
・サーバー管理が不要で運用負荷が低い
・場所を問わずにアクセスできる
・ランニングコストが発生する
・カスタマイズの自由度が低い場合がある
・セキュリティポリシーをベンダーに依存する
オンプレミス型 ・自社の業務に合わせた柔軟なカスタマイズが可能
・セキュリティポリシーを自社でコントロールできる
・長期的に見るとコストを抑えられる可能性がある
・高額な初期投資が必要
・導入に時間がかかる
・サーバーの運用・保守に専門知識と人員が必要

近年では、初期投資を抑えられ、迅速に導入できるクラウド型ERPが主流となりつつありますが、独自の業務プロセスが多くカスタマイズが必須な場合や、高度なセキュリティ要件を持つ企業では、依然としてオンプレミス型も有力な選択肢です。

必要な機能が過不足なく搭載されているか

ERPの会計機能は多岐にわたります。「財務会計」と「管理会計」の2つの側面から、自社に必要な機能が標準で備わっているか、オプションで追加できるかを確認しましょう。

財務会計機能のチェックポイント

財務会計は、株主や取引先などの社外ステークホルダーに対して経営状況を報告するための会計です。決算業務を正確かつ効率的に行うために、以下の機能が重要になります。

  • 仕訳入力、総勘定元帳、試算表作成
  • 固定資産管理、減価償却計算
  • 債権(売掛金)管理、債務(買掛金)管理
  • 手形管理、ファクタリング対応
  • 決算書(貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書)の作成
  • 複数通貨や複数言語への対応(海外取引や拠点がある場合)

管理会計機能のチェックポイント

管理会計は、経営者や部門責任者が自社の経営状況を把握し、意思決定に役立てるための社内向け会計です。経営の見える化を実現するために、以下の機能を確認しましょう。

  • 部門別・セグメント別損益管理
  • プロジェクト別・製品別原価計算
  • 予算実績管理(予実管理
  • 資金繰り管理、キャッシュフロー予測
  • 経営分析レポート、BIツールとの連携

法改正や国際会計基準への対応

会計基準や関連法規は頻繁に改正されます。特に、電子帳簿保存法やインボイス制度といった最新の法制度に迅速かつ標準機能で対応できるかは、極めて重要な選定ポイントです。また、海外展開を視野に入れている企業は、IFRS(国際財務報告基準)への対応可否も確認しておく必要があります。

操作性とカスタマイズの柔軟性を確認する

ERPシステムは、経理担当者だけでなく、営業担当者や管理職など、様々な立場の従業員が利用する可能性があります。そのため、誰にとっても直感的で分かりやすいインターフェース(UI)であるか、操作性(UX)が高いかは、導入後の定着と活用を左右する重要な要素です。必ずデモンストレーションや無料トライアルを活用し、実際の画面を複数人で触って操作感を確認しましょう。

また、企業の成長やビジネスモデルの変化に対応するためには、ある程度のカスタマイズ性も必要です。ただし、過度なカスタマイズは追加コストの発生や、バージョンアップ時の障害となるリスクも伴います。自社のコア業務に必須な要件は満たしつつ、できるだけ標準機能を活用する「Fit to Standard」のアプローチを基本とし、どこまで柔軟に設定変更や機能追加が可能かを確認することが賢明です。

サポート体制とセキュリティは万全か

ERPは導入して終わりではなく、安定的に活用し続けることが目的です。導入時のデータ移行支援や操作トレーニングから、稼働後の問い合わせ対応、障害発生時の復旧支援まで、ベンダーのサポート体制が充実しているかを確認しましょう。特に、法改正時の対応や専門的な会計知識に関する相談が可能かどうかも重要なポイントです。

また、企業の財務情報を扱う会計システムにとって、セキュリティ対策は最重要課題です。特にクラウド型ERPを選ぶ際は、データの暗号化、アクセス制御、不正侵入検知などのセキュリティ機能や、第三者機関による認証(ISMS認証など)の取得状況を確認し、安心してデータを預けられるベンダーを選びましょう。

導入・運用コストが予算に見合っているか

ERPのコストは、初期費用(ライセンス料、導入支援コンサルティング費用など)と、運用費用(保守費用、クラウド利用料など)に大別されます。見積もりを比較する際は、目先の初期費用だけでなく、保守費用や将来的な機能追加費用を含めた5年程度のトータルコスト(TCO)で評価することが失敗しないための秘訣です。

安価なシステムを選んだ結果、必要な機能が足りずにカスタマイズ費用がかさんだり、サポートが不十分で業務が滞ったりしては本末転倒です。自社の予算内で、必要な機能やサポートを最もバランス良く提供してくれる製品を選びましょう。

既存システムとの連携はスムーズか

すでに販売管理システムや人事給与システムなどを導入している場合、それらのシステムとERPの会計機能をスムーズに連携できるかは業務効率に直結します。例えば、販売管理システムの売上データを会計システムに自動で仕訳連携できれば、二重入力の手間やミスを削減できます。API連携やCSVファイルのインポート・エクスポート機能など、どのような方法でデータ連携が可能か、事前に確認しておきましょう。

まとめ

本記事では、ERPの会計機能について、会計ソフトとの違いや導入メリットを解説しました。ERPは会計業務の効率化だけでなく、販売や在庫など基幹システム全体のデータを連携させ、経営状況をリアルタイムに可視化します。これにより、迅速かつ正確な経営判断を支援し、内部統制の強化にも繋がります。自社の経営課題を解決し、持続的な成長を目指すために、最適なERP会計システムの選定が重要といえるでしょう。

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