労務費とは? 人件費との違いや種類、計算方法を解説

 2023.08.15 

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製造業において従業員を雇用する限り、労務費の理解が必要不可欠です。この記事では、そもそも労務費とは何かといった概要から人件費との違い、内訳や種類、計算方法を分かりやすく解説します。また、労務費計算におすすめのツールなども紹介します。労務費計算の際には、まず基本的な知識が欠かせないため、ぜひ参考にしてください。

労務費とは

労務費とは、ある製品を生産する際に必要となる人的コストを指します。製造現場においては、製造に直接関わる従業員の人件費と考えると分かりやすいかも知れません。製品製造において、労務費は切っても切り離せないコストであり、後ほど述べる計算式で算出可能です。

労務費と人件費の違い

いわゆる一般的な人件費は、会社が給与あるいは賞与などで従業員に支払う経費を指します。一方、労務費は人件費のうち、製造に関わるものに限られているのが大きな特徴です。
人件費には、労務費のほか営業に関わる従業員に支払われる「販売費」や、会社経営管理に必要な「一般管理費」と呼ばれるものも含まれています。
また、経費の仕訳にも注意が必要です。自社で製造に関わる従業員への支払いは「労務費」になるものの、他社との雇用関係にある人への支払いは「外注費」として計上しなければなりません。

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労務費の内訳

一言で労務費と言っても、いくつかに分かれます。ここでは代表的な項目として「賃金」「雑給」「退職給付費用」「従業員賞与手当」「法定福利費」の5つを紹介します。

賃金

賃金は、製造部門に関わる正社員や派遣社員に支払われる給与などの金銭です。給与のみならず、残業した場合や休日出勤した場合の手当など、割増賃金分も賃金に含まれます。ただ、賞与は賃金ではなく、後ほど解説する「従業員賞与手当」に分類されます。

雑給

製造現場では、アルバイトやパートタイマーといった、時給で雇用している従業員を抱えることもあります。そうした従業員へ支払われる人件費は、先に述べた賃金ではなく「雑給」となります。

退職給付費用

従業員が退職した際、会社は退職金としてまとまった金額を本人へ支払わなければなりません。会社は退職金の支払いに備え、「退職給付費用」として一定金額を積み立てられるようになっています。

ただし、退職金に備えた「退職給付費用」は労務費の一部であり、認められているのは製造部門のみである点には注意が必要です。そのため、同じ会社であっても製造部門以外の、たとえば営業部門などではそもそも労務費は発生せず、退職金積立もできません。

従業員賞与手当

従業員賞与手当は、その名のとおり、製造部門において従業員に支払われる賞与(ボーナス)手当を指します。また通勤費、扶養手当、住宅手当などの各種手当も含まれます。

法定福利費

法定福利費には、健康保険や厚生年金保険、雇用保険、労働災害保険(労災)といった社会保険が含まれます。

そもそもある一定以上の規模の会社になれば、社会保険の支払義務が発生します。労災は会社が全額負担し、それ以外の社会保険は会社と従業員で分担し、支払わなければなりません。

ただし、法定福利費として計上できるのは製造部門の従業員分のみです。また、似たもので福利厚生費がありますが、こちらは会社が任意で定めた自社の福利厚生サービスにかかるコストです。一方法定福利費は法的に定められた義務である点で、明確な違いがあります。

労務費の種類

労務費には、直接労務費と間接労務費といった2種類に分けられるのもポイントです。労務費を正しく計算するためには、それぞれの特徴を把握し、適切に分類することが重要です。ここからは、各労務費の特徴や種類について簡単に解説します。

直接労務費

直接労務費は、ある製品の製造において直接的に関わっている従業員の労務費を指します。たとえば工場などで作業している人、機械を組み立てたり加工したりしている人などが対象になりえます。また、特定商品の製造に関わっていることが条件です。そのため複数商品で共通の作業をしている場合は、直接労務費の対象になりません。

間接労務費

一方、直接労務費に当てはまらないコストは、基本的に間接労務費と考えられます。間接労務費には、以下のようにさまざまなコストが含まれています。

  • 間接作業運賃
    工場で働く従業員が、間接的な作業(ミーティングなど)を行った場合に必要とされる金銭

  • 手待賃金
    停電や作業するのに必要な道具がないといった場合に、作業が一時的にストップしてしまった間の賃金

  • 休業賃金
    製造部門の従業員が休業した際に支払われる賃金

  • 給料
    直接製造ラインに関わらない工場の管理者や事務員などに対して支払われる給与

  • 従業員賞与手当
    賞与、通勤手当、扶養手当、住宅手当など

  • 退職給与引当金繰入額
    製造に関わる従業員へ支払われる退職給与引当金の繰入額

  • 法定福利費
    社会保険の中で、厚生年金、健康保険料、労働保険で会社が負担しなければならない費用

労務費率とは

労務費の種類を押さえたら、次は労災保険料を計算するのに必要な「労務費率」についても把握しておきましょう。
労務費率は「請負金額に対する賃金の割合」を示すものです。
とはいえ、すべての事業で必要となるわけではありません。一般的な会社において、労災保険は会社単位で加入します。また「労働保険の保険料の徴収等に関する法律」第11条において、「賃金総額」×「労災保険率」で出すのが原則とされています。

しかし一部の事業、たとえば建設事業などでは、複数の会社から現場作業を請け負うのが基本です。賃金も現場ごとに支払われ、労災保険も各現場で加入するように求められるため、先に紹介した一般的な計算式では煩雑になってしまいます。そこで、特例的に以下のような計算式で出すことが認められています。

「労災保険料」=「請負金額」×「労務費率」×「労災保険率」

つまり、建設事業はその特性上から、一般的なケースの「賃金総額」を「請負金額×労務費率」に置き換えてもよいとされています。

また、建設事業の労務費率は、事業の種類によって次のように細かく定められています。これらは現在のところ、平成30年(2018年)から変化していません。

  • 水力発電施設、ずい道等新設事業 19%
  • 道路新設事業 19%
  • 舗装工事業 17%
  • 鉄道又は軌道新設事業 24%
  • 建築事業(既設建築物設備工事業を除く) 23%
  • 既設建築物設備工事業 23%
  • 機械装置の組立て又は据付けの事業(組立て又は取付けに関するもの) 38%
  • 機械装置の組立て又は据付けの事業(その他のもの) 21%
  • その他の建設事業 24%

たとえば、マンションの新築工事を1億円で請け負った場合、事業の種類は「建設事業」に当たるため23%をかけ、まず賃金総額として2,300万円を算出します。それから事業の種類ごとに定められた労災保険率である1000分の9.5をかけると、21万8,500円が会社の負担すべき労災保険です。

労務費の計算方法

労務費は製造部門の従業員を抱える会社では非常に重要であり、正確に算出しなければなりません。そこで、ここではどのように計算して求めるのかについて解説します。なお、直接労務費と間接労務費とでは、労務費の計算方法が異なることにも注意が必要です。

直接労務費の計算

直接労務費は、ある特定の製品の製造に直接関わる従業員の賃金などであり、以下のように計算可能です。

  • 賃率=直接工の賃金÷製品製造の作業時間
  • 直接労務費=賃率×製品製造にかかる時間

直接製造に携わる従業員の賃金を作業時間で割ったものが「賃率」となります。つまり、1時間あたりの作業で支払われる、直接労務費です。工場現場では基本的にさまざまな製品の製造に携わるため、賃率をまず出します。そして、その賃率を製造にかかる時間でかけた結果が「直接労務費」になります。

間接労務費の計算

間接労務費は原則、直接労務費以外の労務費が含まれるため、一見ややこしいと感じられるかも知れません。ただ実際は難しくはなく、以下の計算式で問題ありません。

間接労務費=労務費(賃金)-直接労務費

まず直接労務費を算出し、その後、その月の労務費(賃金)から直接労務費を引くことで間接労務費が出ます。たとえば賃金が25万円で直接労務費が18万円なら、間接労務費は7万円です。

もしくは、間接労務費の項目をすべて足していくことでも求められます。たとえば、「従業員賞与手当」のうち賞与や「退職給与引当金繰入額」は、当初支払いが予定されているその年度の支払額を12カ月で均等に割ることで、月額が求められます。また、「従業員賞与手当」の各種手当や「法定福利費」は、月ごとの支払額をそのまま使えるはずです。しかし、すべて足し合わせるよりも、労務費から直接労務費を差し引いたほうがシンプルでおすすめです。

労務費の仕訳の方法

会社が労務費を経費として計上するためには、適切な仕訳処理が必要です。ここでは、製造業が対象となる工業簿記において、「賃金の支払い」「労働力の消費」といったパターンの仕訳方法を解説します。

賃金の支払い

まず、製品の製造ラインで働く従業員に対して支払う賃金の勘定科目は「労務費」です。もし48万円の賃金を現金で支払った場合は、以下のように仕訳を行います。

  • 借方:労務費
  • 金額:48万円
  • 貸方:現金
  • 金額:48万円

そもそも製造部門でのマンパワーに支払われるコストは「労務費」です。そのため工業簿記における勘定科目も「給料」ではなく「労務費」となるのはごく自然なことであり、とくに難しくはありません。

労働力の消費

ここでの「労働力」は「直接労務費」と「間接労務費」に分け、それぞれの勘定科目は何になるのかを見ていくことが大切です。
よりイメージしやすいように、新たに例を挙げましょう。

今月、直接工の賃金消費額は1,800円でした。
実際の作業時間は90時間で、内訳は以下のとおりです。

直接作業時間60時間
間接作業時間30時間

上記のような例で直接工の「賃金消費額1,800円」を仕訳する場合、まず、賃金を消費して減ったことから、勘定科目を「賃金」として、貸方に1,800円と記載します。
続いて借方では、直接労務費と間接労務費で分けて考えましょう。この場合、直接作業時間は「直接労務費」、間接作業時間は「間接労務費」として考えるのが大切なポイントです。

まず直接労務費・間接労務費は以下のように算出できます。
【直接労務費】
1,800円×(60時間/90時間)=1,200円
【間接労務費】
1,800円×(30時間/90時間)=600円

直接労務費はどの製品にいくら使ったのかを明確に算出可能です。ただ、この時点では製品が出来上がっているとは考えられないため、勘定科目はいったん「仕掛品」として記載します。
一方間接労務費は、どの製品にいくら使ったかがあいまいなため、「仕掛品」といった勘定科目は使えません。そこで「製造間接費」を用います。
以上のことから、仕訳は以下のようにまとめられます。

  • 借方:仕訳品、製造間接費
  • 金額:1,200円、600円
  • 貸方:賃金
  • 金額:1,800円

このパターンでは、先の「賃金の支払い」で借方に記載した「労務費」が、直接労務費と間接労務費に分けたことでいったん「仕訳品」と「製造間接費」に言い換えられました。ひとつひとつを丁寧に見ていけば、考え方を把握することはそれほど難しくありません。

労務費を含む原価計算にはERPがおすすめ

原価計算はリスクが大きい

製造業で必須の工業簿記では、商業簿記と異なり原価計算が欠かせません。たとえば、商業簿記では、「原価50円の商品を150円で売り上げる」といった取引が中心ですが、工業簿記では「原価50円」をどのように計算すべきかが重要な視点になります。

つまり、原材料を仕入れ、工場で機械や手作業で製造にどれだけコストがかかっているのかを、労務費も含めて確認することが原価計算の目的と考えられます。

原価計算は必要な項目を洗い出し、コストを積み上げるだけのため安易に思われがちです。しかし、実際は原材料ひとつを取っても気の遠くなるような種類が使われています。また、それぞれがひとつの製品にどれだけ使われているのかなどを計算するのも一苦労です。また工場が稼働している間に何らかのトラブルがあれば、より複雑になってしまいます。

さらに、原価計算をするのにシステムを導入しても、部署や組織、製造に関わる部門が多岐にわたれば、システムがバラバラに管理されがちです。ひとつの製品にかかる原価をまとめるのに、スムーズに連携できないリスクも抱えやすくなります。

ERPならシステムの一元管理が可能

ERPとは「Enterprise Resource Planning」の頭文字を集めた略称で、自社の生産や流通などを管理できる、包括的な統合プラットフォームです。
ERPは、製造やサプライチェーン管理などを豊富な会計機能でサポートする機能も搭載されているため、事業にかかわらずビジネスの一元管理が可能です。オンプレミス環境のほか、近年はクラウド環境で使えるERPも多く誕生してきました。
製造業においてもERPを導入すれば、労務費を含む原価計算をスムーズに行えるほか、製品が出来上がってから流通部門、販売部門や管理部門などとも連携しやすくなります。

ERPツールでおすすめなのはオラクル社の提供する「NetSuite」です。財務会計管理から受注管理、倉庫管理、サプライチェーン管理など包括的なクラウドERPソリューションで、企業活動において基幹的な役割を担うデータの一元管理を実現します。

システムを導入することで管理上のヒューマンエラーを防止します。従業員は事業の本質的な部分に割く時間が増えるのに加え、組み込まれたBIのデータ分析によるインサイト提供をもって、企業の成長を後押しします。 

まとめ

製造業では、ある製品を製造する際に必要となるマンパワーのコストとして「労務費」の計算が欠かせません。労務費は大きく分けると直接労務費と間接労務費の2種類があり、それぞれに決められた方法で計算する必要があります。しかし、基本的に製品は複数にわたり、労務費を含む原価計算は煩雑になりがちです。
そうした課題解決にはERPの導入をぜひ検討してみましょう。オンプレミスだけでなくクラウド環境でも利用可能で、原材料調達から製造、販売、流通などあらゆるフェーズでのデータを管理できるため、社内での連携強化や生産性向上に役立ちます。
とくに「NetSuite」は豊富な導入実績に加え、組み込まれたBIによる経営支援も期待できます。ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。

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