成功するマイグレーションのポイント:意味やメリット、実施手順を完全解説

 2023.08.22  クラウドERP実践ポータル

新入社員、新規配属の方必見!ERP入門特集

IT業界で行われるマイグレーションを解説します。言葉の意味などの基礎知識やメリット・デメリットなどを解説するほか、実施手順をステップに分けて紹介します。システムの移行・移管を検討している方は、ぜひ参考にしてください。

マイグレーションとは? 目的やメリット、実施方法について徹底解説

マイグレーションとは?

マイグレーション(英語:Migration)とは、移転や移動を表す英単語です。IT用語では、既存のシステムなどを別の環境や新しい環境へ移行することを意味し、基本的にレガシーシステムから新システムへの切り替えを指します。例えば、自社で使っているシステムやハードウェア、データを、別の環境やプラットフォーム、バージョンに移すことです。

対象となるものは、基盤システムや情報システム、サーバー、ストレージなどさまざまです。タイミングとしては、データ容量が限界に達したときに検討しましょう。これは、データ容量の不足によって新しいデータの記録に支障が出る事態を避けるためです。また、ハードウェアの保守期限が迫ってきたときにもマイグレーションを考えるべきです。

代表的なマイグレーションの種類

数ある種類の中でも代表的なものを3つ解説します。

システムマイグレーション

システムマイグレーションとは、過去に構築したシステムを新しく構築したシステムに移すことを指します。古くなったシステムやブラックボックス化したシステムを新システムへと刷新する作業です。特によくあるのが、レガシーシステムを最新環境に移行するレガシーマイグレーションです。レガシーシステムが抱える、老化による課題を解決するためにマイグレーションを行います

環境の移行をするだけではなく、ブラックボックス状態の改善や、サービス向上のための改良を加えることもあります。また、クラウド化が進む中、ビジネスを大きく変化させるデジタルトランスフォーメーションとしての側面も見逃せません。システム開発業界では、ユーザーニーズを意識した改良が利用者の減少問題の解決策として広く活用されています。

データマイグレーション

データマイグレーション(DBマイグレーション)とは、古くなったハードウェアから新しいハードウェアに業務データを移行し、データ環境を最適化する手段のことです。例えば、ソフトウェアのバージョンが上がり、新機能が追加される場合、データの形式やデータベースの構造も一緒に変わることがあります。その新バージョンのソフトウェアに対応するには、データのマイグレーションが必要です。

企業がデータマイグレーションに着手する理由はさまざまで、例えばサーバーやストレージの交換、データセンターの統合・廃止などが挙げられます。さらに、クラウド環境への移行にも欠かせない重要な手順です。パブリッククラウド、プライベートクラウド、ハイブリッドクラウド、またはマルチクラウド環境に移行する際には、安全かつ費用対効果の高い、効率的な方法を検討する必要があります。

サーバーマイグレーション

サーバーマイグレーションは、サーバーまたはストレージを現行のものから新環境に移行することを指します。近年、クラウドの利用が増える中で、サーバーマイグレーションの需要も増えています。

例えば、オンプレミスからクラウドへの移行や、現在のクラウド事業者から別のクラウド事業者への移行がよく行われます。サーバーマイグレーションは、システムの老朽化やデータ容量の問題、セキュリティの向上を目指す際に重要な手段です。サーバーを再構築せずに移行できるため、サービスの中断を最小限に抑えられるのが特徴です。

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マイグレーションを行う目的は4つ

企業がマイグレーションを実施する目的は、主に4つあります。

1. 経営環境の変化に対応するため

ビジネス環境の変化や顧客の細かいニーズに柔軟な対応をしようとすると、新しいシステムへの移行が必要です。最新技術の導入により、エンジニアのスキル向上や優秀な人材の採用も促進されます。

多くの場合、レガシーシステムでは最新技術の導入が難しいため、今のビジネススタイルに適合しなくなっています。それにより、市場競争に敗れ、撤退を余儀なくされるといったリスクがあります。マイグレーションにより最新技術を取り入れれば、成長を遂げて競争力を上げることが可能です。

マイグレーションが既存の課題解決や業務効率化のきっかけになる場合もあります。例えば、顧客管理システムのクラウド移行やローカル管理からCRMの新システムへの移行による、生産性向上効果などです。

このようにシステムマイグレーションは、企業の成長やユーザビリティと生産性の向上をもたらす重要な施策です。

2. コスト削減のため

マイグレーションをすることでコストの削減につながります。多くの企業は「2025年の崖」に直面しており、いかにレガシーシステムから脱却してDXの実行に至るかが課題となっています。

2025年の崖とは、経済産業省のDXレポートで訴えられているリスクのことです。レガシーシステムを運用し続けることで、複雑化、ブラックボックス化したシステムの維持管理費が高額になり、企業のIT予算を9割以上圧迫する恐れがあります(技術的負債化)。
さらに、システムが古くなってメーカーのサポートも終了すると、自社での保守・運用が必要になり、メンテナンス費用がさらにかさみます。こうした点から、マイグレーションにより新しいシステムに移行することで、運用・管理の費用を大きく削減できることも期待できます。

経済産業省がDXレポートでまとめている2025年の崖については、下記をご確認ください。
経済産業省|DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)

レガシーシステムの問題点や2025年との関係についてもっと詳しく知りたい場合は、下記関連記事もご覧ください。

3. セキュリティ向上のため

古いシステムを使い続けていると、現行システムのサポートの期間終了やソフトウェアなどの更新停滞で、セキュリティリスクが生じます。セキュリティホールが放置され、情報漏洩やデータ損失のリスクも高まります。

マイグレーションによって新しい環境へ移行することで、OSやソフトウェアのバージョンが更新され、最新のセキュリティ対策に置き換えることが可能です。これにより情報セキュリティ面が改善され、取引先や顧客などの大切な情報を守ることにつながります。また、物理サーバーやストレージの劣化・破損でデータが失われるリスクも避けられます。

古いシステムを使い続けずに、サポート切れのタイミングでマイグレーションを計画的に行うことが大切です。

4. システムのブラックボックス化を防ぐため

古いシステムは、独自カスタマイズによって複雑化していたり、古いプログラミング言語が使用されていたりしがちです。古いシステムの保守運用の知識が属人化している場合、担当エンジニアが退職してしまうと誰もメンテナンスができなくなる可能性があります。こういった事態を防ぐ手段としてマイグレーションがあり、最新システムへの移行でブラックボックス化を防止することが可能です。

例えば、古い言語であるCOBOLなどで設計されたシステムをJavaやPythonに移行することで、古くなったシステムの保守・運用の困難さを軽減できます。新しい環境では最新技術やプログラミング言語を活用でき、より効率的なメンテナンスと安全性向上につながります。

マイグレーションに似た言葉と意味の違いについて

ここではマイグレーションと意味が似ているIT用語を取り上げ、それらの異同を解説します。間違ったり混同したりしないように注意しましょう。

マイグレーションとリプレイスの違い

リプレイス(英語:Replace)とは、交換、置換という意味の言葉です。IT用語では、既存のシステムやハードウェアをすべて置換することを意味し、再構築と呼ばれることもあります。

例えば、古くなったサーバーを互換性があるハードウェアに入れ替える場合が挙げられます。OSなどの基盤部分は基本手を付けません。故障やPCのスペック不足、ビジネス要件に合わせたシステムへ入れ替えたい場合に行います。

一方、マイグレーションではリプレイスと違い、必要に応じて基盤部分の変更をすることがあります。ハードウェアの構成は変えないのが一般的です。

マイグレーションとコンバージョンの違い

コンバージョン(英語:Conversion)とは、異なる設計思想や形式にシステムやデータを変換することです。例えば、古いプログラミング言語から新しい言語に変換する場合などが該当します。元のシステムを新しい形式に変換した上で入れ替える方法です。

マイグレーションは、現行システムを新環境に移すことを指します。移行の過程でコンバージョンを行うことがあるため余計に混同しやすいですが、意味は異なります。

マイグレーションとポーティングの違い

ポーティング(英語:Porting)とは、特定の環境で動作するように作られたソフトウェアを別の環境でも動くように移植する作業のことです。具体的には、移植先の環境と合うようにソースコードを修正したり、再コンパイルを行ったりして再構築します。

ポーティングはハードウェアには手を付けずにソースコードの加筆修正がメインになる点で、マイグレーションとは異なります。

マイグレーションとエンハンスの違い

エンハンスとは、既存システムに機能を追加・向上させることを指します。例えば、現行システムに新しい機能を足したり、性能をアップさせたりすることです。移行作業は含まれません。マイグレーションの作業過程で行われることがあります。

一方、マイグレーションは、新システムへ移行する方法です。システムを一新するという点で異なります。

マイグレーションとモダナイゼーションの違い

モダナイゼーションとは、現行システムの要件・仕様はそのままで、最新化・近代化することを指します。近代化を強調しているところが、マイグレーションとは異なる点です。レガシーマイグレーションはモダナイゼーションの一部とみなせます。

マイグレーションとライブマイグレーションの違い

ライブマイグレーションとは、仮想サーバー同士で、機能をほぼ瞬時に移動させながらデータを同期させる方法です。マイグレーションとライブマイグレーションは、どちらもシステムの移行を意味する点で共通していますが、後者は特定の仮想マシンを停止させずに別のホストに移動できる点で異なります。

通常なら保守作業などをするときにシステムを停止させる必要がありますが、この技術を利用すると、システムを稼働させたまま仮想マシンをほかのホストに移行させることが可能です。実行時に1秒以下のネットワークの瞬断があるものの、ほぼ瞬時に機能を移動させられるため、利用ユーザーからはほとんど気になりません。この手法を使うことで、システムの停止時間を大幅に削減し、運用上の便益を享受できます。

マイグレーションの5つの手法と特徴

ここでは5種類ある移行手法とその特徴について解説します。移行対象や範囲が異なるため、自社の目的や課題に合わせた手法を選ぶことが大切です。

1. ラッピング

ラッピングは、メインフレームをそのままにして標準インターフェースに対応させ、アクセス手段を増やす手法です。この手法の特徴は、システムの基本的な部分を変更せずに利用できる点です。業務フローに変更を加える必要がなく、少ない工数で新たなアクセス手段を追加できます。

デメリットとして、現行システムの欠点やリスクをそのまま引き継ぐため、システムにある問題の根本的な改善が難しく、コスト削減や工数削減にも直接的には寄与しません。多くの場合、特定の課題を解決するための手法として利用されます。

2. リライト

リライトは、現行システムのビジネスロジックはそのままで、既存環境の開発言語から新しい開発言語にプログラムを書き直す手法です。新しいOSや技術、プラットフォームに対応することが容易な点はメリットですが、プログラムの書き換えに工数とコストがかかる点がデメリットとして挙げられます。

3. リホスト

リホストとは、システム要件、開発言語は変えずに、プログラムやデータをクラウドなどの別の環境に移し替える手法です。この手法は、システムの修正範囲が少ないため難易度が低く、移行期間が短く済むほか、低リスク・低コストでマイグレーションができるというメリットがあります。デメリットは、アプリケーションが抱える課題の根本的な改善や改良が難しいという点です。

現行システムで使える機能やセキュリティの面で特に問題がない場合に適しており、オンプレミスからクラウドへの移行によく利用されます。

4. リビルド

リビルドとは、システムを完全に刷新・再構築し、新環境にデータを移す手法です。ほかの手法と異なり、現行システムの課題を根本的に解決可能な点が特長です。そのため、システムを抜本的に見直したい場合や、レガシーな問題を解消して現代的なシステムを構築したい場合に適しています。一方で、プロジェクト期間が長いことや多大なコストがかかる上に費用対効果を測りにくいこと、移行失敗のリスクがほかの手法より高いことがデメリットとして挙げられます。

5. リファクタリング

リファクタリングとは、「再設計」という意味の言葉です。この手法では、既存のアプリケーションを見直し、メンテナンスしやすい構造・設計となるようコードを書き換えて、可読性や保守性、拡張性を向上させます。可読性が高まることでトラブル発生時の原因も突き止めやすくなるため、システム運用の安定化にも貢献します。

リファクタリングでシステムの内部構造を整理すれば、メンテナンス時にコードが複雑化するのを防止可能です。ブラックボックス化や、知識・技術の属人化を回避できるメリットもあります。

3つのシステム移行方式

システムを移行する際に活用できる方式を3つ紹介します。メリットとデメリットを踏まえて、適した方式を選びましょう。

一括移行方式

一括移行方式は、現行システムを一時的に全停止し、新システムへと一気に切り替える方法です。休暇期間などを利用して機材やソフトウェアの交換を行い、移行を全面的に進め、新システムで業務を再開します。

メリットは、一度にすべてを移すため、低コストになる上に要する時間と手間もわずかで済む点です。さらに、現行システムを保持するため、失敗しても元のシステムで業務を再開できる安心感があります。従って、長期的なシステム停止が可能な企業やコスト削減を重視する企業に適しています。

一方、デメリットは、一回ですべてを移すにはシステムの停止時間が十分に必要であり、規模やデータ量次第で長時間かかることがある点です。また、移行後のトラブル発生率が高く、旧システムへ戻す場合には大きなコストがかかる可能性もあります。

段階的移行方式

段階的移行方式は、業務や機能を少しずつ新システムに移行する手法です。大規模な一括移行方式のリスクが気になる場合や移すデータ量が多い場合、短時間しかシステムを停止できない場合などに適している手法です。

この方式では、業務を続けたまま現行システムを一部だけ休止し、徐々に新システムに切り替えていきます。機能ごとに移行する場合は、ひとつの機能が新システムで稼働する一方で、ほかの機能は現行システムで稼働するため、システム同士の連携が重要になります。

メリットとして挙げられるのは、短期的なシステム停止で済むことと、トラブル発生のリスクを下げられることです。システムの停止時間が短いため利用者に与える影響が少なく、トラブルが発生しても影響を部分的に抑えられ、全体のリスクが低減します。

デメリットとしては、少しずつ移行するためプロジェクトが長期化し、コストが増加する可能性があります。移行のたびに連携のための設計や実装が必要となり、手間と時間がかかります。

並行移行方式

並行移行方式は、現行と新システムの両方を運用し、新システムが安定したことを確認できてから移行を完了する手法です。システムの停止が許されず、リスクを最小限に抑えたい場合や2つのシステムを稼働させるリソースがある場合に適しています。

この方式のメリットは、新システムに問題があっても現行システムを使い続けられる点です。システムを完全停止する必要がないため、短期間での移行が可能であり、移行後のトラブル発生リスクも下げられます。

一方で、システムの同時運用になるため、データの入力や同期などの手間がかかるデメリットもあります。また、システムの比較や検証作業にも時間とリソースが必要です。

マイグレーション実施で得られる4つのメリット

新システムに移行することで、セキュリティやリソースの効率化などのメリットがあります。以下ではマイグレーションを行う主なメリットを4つ紹介します。

生産性が向上する

マイグレーションを実施することで、生産性が向上します。レガシーシステムからの脱却により、業務効率化が期待できるからです。例えば、現行システムで動作の遅さや機能不足を感じている場合、新システムに切り替えることで業務時間を短縮し、生産性を高められます。また、クラウドやデータセンターを活用することで、管理作業の手間を減らし、より生産性の高いコア業務に集中できます。

さらに、マイグレーションによりシステムの利便性も向上します。例えば、オンプレミスのシステムをクラウドサービスに移行すると、場所の制限なく運営管理ができるようになるほか、リモートワークへの対応も可能です。

セキュリティが向上する

現行システムが古いと、セキュリティ上の不安要素があります。例えば、老朽化を放置していると、サーバーやストレージの故障や劣化によってデータを失う恐れがあります。ソフトウェアなどのサポートが終了しているのに古いシステムを使い続けていると、セキュリティリスクも高まります。

対処法として、新しい環境への移行によりセキュリティ機能を強化し、脆弱性を取り除くことが可能です。そうすることで、最新のセキュリティ対策を利用できるようになり、データ損失のリスクの軽減につながります。

コストを削減できる

エンジニア不足やシステムの複雑化により、レガシーシステムの運用・メンテナンスには、多額のコストがかかるようになります。さらに、メーカーのサポートが終了した後は、自社での保守・運用が必要になり、負担が増加します。

マイグレーションでシステムをオープン化し、学習しやすいオープン系開発言語を使用することで、保守・運用やメンテナンスコストを大幅に削減可能です。最新システムに変わることで生産性も向上するため、結果的にコスト削減につながります。

ほかにも開発面からは、新たにシステムを開発するよりも、マイグレーションを選択するほうが開発コストなどを抑えられます。

既存環境の有効活用

マイグレーションでは、既存システムのソースコードや構成、データを有効活用できます。これはゼロからの新規開発とは異なり、現行システムを活かすアプローチです。移行に伴う変更点が少ない場合は、業務への影響を最小限に抑えられます。

また、既存のノウハウや使い慣れたユーザーインターフェースを活かして運用するため、従業員の学習コストも軽減されます。新しいシステムを一から構築するよりコストも安く済み、手軽かつ低リスクな点がメリットです。

マイグレーション実施前に把握しておきたい3つの注意点

移行を成功させるには入念な計画を立てることが重要です。ここでは、システムの移行を実行する前の注意点について解説します。

1. 課題を解決できない

システムマイグレーションでは、事前調査を重要視し、現行システムの使い方や設計、運用方法を正確に把握することが必要です。これにより、移行時のリスクを最小限に抑えられます。

特にレガシーシステムからの移行においては、リホスト、リライトをした場合にトラブルになることがあります。レガシーマイグレーションの主な目的は、劣化した旧システムの刷新によって複雑化やブラックボックス化を防止し、生産性を向上させることです。しかし、リライトやリホストでは古いシステムをほぼ使い回して移行するため、根本的に課題は解決しません。

このように、課題解決に結び付かない方法もあるため、複数の方法を組み合わせるなどして実施することが大切です。自社の課題を明確化することでどの方法が最適かわかります。

2. 要件定義の失敗により要望とは異なるシステム移行となる

特にリビルドを手段とするマイグレーションでは、クライアントの意図が伝わらず、要件定義が上手く行われないことが問題となります。

要件定義の失敗によるトラブルを避けるためには、現行システムの設計図・仕様書を用意しておくことが重要です。これがないと移行先の新システムが正確に構築されない可能性があります。クライアントの要望が実現可能かどうかを的確に指摘することも大切です。無理な要件が含まれている場合、後々トラブルの原因になります。

また、エンジニア同士や関係者間で正確な仕様書が共有されているかを確認することが重要です。情報の不足や不一致がトラブルを招く原因になります。

要件定義を成功させるポイントは、担当者が新・旧システムの仕様を把握することです。要件定義の曖昧さやコミュニケーション不足は、マイグレーションの最終的な成果物に影響を及ぼすため、クライアントとエンジニア間での正確な情報共有も求められます。

3. 作業工数を読み間違えて計画が進まない

作業工数の適切な試算ができていないと計画が滞りかねません。トラブル例としては、データの選択やクレンジングに時間がかかったり、必要な機材が揃っていなかったりするケースが考えられます。計画を立てる際には、作業工数の試算に注意を払いましょう。見積もりを誤ると、想定よりも長い時間がかかり、システムの移行を中止せざるを得なくなることがあります。

トラブルを避けるためには、データの選択やクレンジングなどの作業を事前に計画しておくこと、必要な機材やリソースを事前に準備しておくことが大事です。加えて、想定外の不具合が生じたときのリカバリー対策を考えておくことも重要です。

事前の調査と計画をきちんと行うことで、トラブルを未然に防げます。現在の課題や予算、人員の状況などを考慮し、適切な選択を行いましょう。

マイグレーションを成功させる6つのポイント

課題解決や要件定義、作業工数といった注意点を踏まえて、システムの移行を成功させるために押さえておきたいポイントを6つ解説します。

現状の課題を正確に把握する

現行システムを詳しく調査し、システムの利用方法、運用方法を可視化することで、何が課題なのか、どこに問題があるかが見えてきます。現状の課題や業務で抱える問題を正確に把握できれば、どのシステムを移行すべきか、適切な方法は何かが明確になります。それをもとにして適切な新システムの構築と移行を計画していきましょう。

現行システムを正確に理解・把握する

課題や問題点の洗い出しをする際は、システム・アプリケーションやデータ、ファイルなどを細かくチェックすることが大切です。現行システムの正確な理解がないと、新システムが動作しなかったり、データの不一致でエラーが発生したりするリスクがあります。丁寧な事前準備が移行漏れや移行の失敗を防ぐことにつながります。

スケジュールを策定し入念な準備を行う

当日の作業が最小限になるように、事前にできることは進めておきましょう。特に現行のIT資産の詳細な可視化が重要です。計画書の不備や曖昧さは移行に悪影響を及ぼしかねないため、細かく作成することが大切です。

準備によって、早い段階でシステムの移行に関する課題に気づけたり、トラブルが発生しても本番前に対処できたりします。また、スケジュールを丁寧に組むことでシステム停止時間が短くなり、機会損失を減らす効果もあります。

当日の作業量を減らすための効果的な方法として、移行ツールの速度改善や計画段階から移行当日まで、更新が確実にないデータを先に移行しておくこと、移行対象になるデータ量を減らしておくことなどが挙げられます。トラブル対応策のシミュレーションも行いましょう。

検証は本番環境に近づける

本番前の移行リハーサルを本番環境に近い状況で行うことが、成功のためには重要です。本番環境と異なるテスト環境でリハーサルを行うと、本番で予期せぬ不具合が生じるリスクが高まります。

移行のリハーサルは、本番で予定通りに進行する以外に、当日の不安要素を解消するためにも重要なことです。事前のテスト段階で不具合や問題点を発見し、対処することで安心してシステム移行日の当日を迎えられます。

リハーサルを行う際には、サーバーやハードウェアのスペック、データ量、ネットワーク環境といった条件が変わらないように注意しましょう。

移行本番日の作業は極力減らす

システム移行の当日の作業工数が最低限になるように準備段階から計画しておきましょう。工程や工数を最低限に減らしておくことで、万が一トラブルが発生した場合でも余裕を持って対応できます。また、必要最低限の作業で終われば、システムの停止時間も短く済みます。すべての作業を手作業で行うのは大変なため、マイグレーションツールの活用も検討してみてください。

ハードウェアのリリース時期にマイグレーションを行う

リホスト、リビルドで移行を進める場合、ハードウェアのリース更新時期が移行時期を検討するひとつの目安になります。古いハードウェアを使っている場合、サポートが終了している可能性もあります。古いものを使い続けていると故障などの原因になるため、事前に更新作業を進めることで、トラブルのリスクを減らすことが可能です。

マイグレーションを実施する手順

実施手順を6つのステップに分けて解説します。計画書の作成からリハーサル、本番環境での実行と改善など、順番にこなすべきことがあります。

STEP1:現行システムの把握・企画立案

マイグレーションの成功には、まず現行システムを正確に把握し、その仕様を理解することが不可欠です。現行システムの把握には、OS、データ形式、データ量、月間のデータ増加量、運用状況、メンテナンス、トラブル発生状況などの調査が必要です。これらの情報をもとに、新システムとの互換性やマイグレーション方法を検討します。

データマイグレーションを行う際には、データの整理も行いましょう。不要なデータの削除などを行い、円滑に移行できる体制を整えておきます。

次に、目的や課題を整理し、基本的な方針を決定します。マイグレーションは、企業の将来を見据えた大規模なプロジェクトです。全体の方向性を一致させるためにも、初めに方針を策定することが重要です。

STEP2:移行計画書を作成する

移行計画書を丁寧に作成することで、システムの移行を円滑に進められます。この計画書は、詳細設計の前段階でいつ・誰が・何をするかを定めるものであり、作業を成功させるカギを握っています。

移行計画書には以下の7つのポイントを記載します。

  1. 移行の方針や方式、影響
  2. 移行する対象物の明確化と具体的な移行方法
  3. 一括移行方式や段階的移行方式などの選択
  4. 移行期間中にシステムや業務へ与える影響とその対処法
  5. データ移行や使用するツールのテスト、リハーサル内容の詳細
  6. 全工程とタスク、スケジュールの洗い出しと依存関係の明確化
  7. 新システムの開発体制と移行専任チーム、教育体制に関する役割分担の記載

システムの移行で業務の流れが変わる可能性があるため、計業務の流れや影響を洗い出し、業務担当者が理解できるようにしておきましょう。

計画書の完成度がマイグレーションの成否に影響するため、内容だけでなく全体スケジュールや工数なども詳細に記載することが大切です。

STEP3:検証環境でリハーサルを実施する

計画書を書き終わったら、検証環境で本番と同じ手順のリハーサルを実施します。そのときに以下のポイントを確認します。

  1. 移行作業の正確性
  2. 使用するツール、プログラムの処理時間
  3. 移行手順と正確性
  4. リカバリー策の機能確認

リハーサルの目的は、本番当日に予定通り移行作業を行えるよう準備をすることです。可能な限り懸念点を洗い出し、本番でのスムーズな移行を確保しましょう。本番で円滑に実行できると確信が持てるまで、リハーサルを複数回行うことをおすすめします。

例えば、初回は全体的な作業を行い、不具合や課題を洗い出します。次に、これらの課題が解決されたかを確認するために2回目のリハーサルを行います。本番でトラブルが発生することも考慮し、リカバリー策の有効性も確認しておくのが望ましいところです。リハーサルをしながら移行当日のタイムスケジュールも確定し、予定通りに作業を進めるための準備を整えましょう。

STEP4:本番環境でのマイグレーションを実施する

前ステップで決定したタイムスケジュールに従い、本番環境でマイグレーションを実施します。移行作業の主な内容は、構築済みの新システムに旧システムのデータを移すことです。移行が完了したら、システムの切り替えを行い、移行プロジェクトチームは管理権限を運用担当者へ移管します。

また、本番の移行作業の影響が現行システムにまで及ぶ可能性がある場合は、事前に関係者に移行の実行スケジュールとシステムの停止時間、業務への影響を連絡しておいたほうが無難です。

運用開始前にほかのシステムやネットワークと接続する際は、旧・新システムを切り替えるタイミングや他社との接続など、トラブルがないように確認しながら作業を進めましょう。

STEP5:新システムの運用テストと改善を実施する

新システムへの移行が完了したら、運用テストと改善を行います。運用テストでは、主に以下の点を確認しましょう。

  • 新システムの稼働中にエラーが発生しないか
  • エラーが発生した場合にすぐ対応できるか
  • バグや不具合はないか
  • 新機能を正常に利用できるか
  • 移行したデータに問題がないか
  • 正常にインターネット接続できるか など

万が一、問題が発生した場合は、迅速に調査し対応しなければなりません。また、稼働している新システムのデータを収集・分析すれば改善活動に活かせます。運用テスト中に得られたデータと分析結果に基づいて修正点を見つけ、設計内容の改善を行いましょう。マイグレーションが成功した後も、改善を続けることでシステムの持続的な発展を支えられます。

STEP6:運用担当者への引き継ぎを行う

システム移行が成功し、問題なく動作することを確認したら、運用担当者への引き継ぎを行います。もし移行前と後でシステムに変更点がある場合は、業務担当者やサポート担当者への教育も行いましょう。

変更点の教育を忘れると、移行後の円滑な運用が難しくなります。トレーニングセッションやマニュアルの提供などを通じて、操作方法や運用ルールを教育することで、運用担当者が疑問や不安を持つことなく安心して業務を進められます。これはトラブルを未然に防ぐポイントでもあります。担当者以外にも現場社員や管理職など、システムを利用する関係者全員に周知をすることで、すべての人に変更点や変更後のシステムの利用方法が伝わります。

準備からアフターケアまでを含めた綿密な計画を立て、周到な準備をすることが、システム移行を成功させる秘訣です。

マイグレーションにおすすめなのはクラウドERP

マイグレーションを行う際に、優先的に取り組みたいのがクラウドシステムの活用です。既存のクラウドサービスを活用することで、オンプレミス環境の構築や自社でのメンテナンスを行う必要がなくなります。同時に、サーバーの維持管理コストやメンテナンスコストも不要となります。クラウド利用料は発生しますが、自社運用よりもコストの削減が可能です。また、事業や経営状況に応じてシステムの導入と運用を柔軟に行えるメリットもあります。

クラウドシステムの中でも導入をおすすめしたいのが「クラウドERP」です。オンプレミスでもERP(統合基幹業務システム)は提供されていましたが、クラウド上でも利用できます。オンプレミスと異なり、サービス選定さえ終われば迅速な導入が可能です。セキュリティもベンダー側で厳格に対策しているため、高いセキュリティ環境のもとで利用できます。マイグレーションの機会に利用を検討してみてください。

まとめ

マイグレーションとは、移転や移動を意味する英語であり、IT用語では既存システムを新システムに移行することを指します。古いシステムから新システムに移行することで、システム内部のブラックボックス化やカスタマイズの複雑化を防止できるほか、生産性やセキュリティの向上、コスト削減などのメリットが得られます。マイグレーションには複数の手法や方式があるため、自社の状況に適したやり方を選ぶことが大切です。実行する際は計画的に行いましょう。

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