クラウドのメリット・デメリットとは?
経営視点で見る導入の価値と選び方

 2026.02.09 

クラウドERPで業務効率を向上

DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が加速する現代において、システム基盤を「クラウド」へ移行することは、企業の競争力を高めるための重要な経営判断となっています。しかし、具体的にどのような効果があり、従来のオンプレミス運用と比べて何が決定的に違うのか、導入に迷われている方も多いのではないでしょうか。クラウドの活用は、単なる初期費用の削減にとどまらず、場所を選ばない業務環境の構築やセキュリティの強化、そしてリアルタイムなデータ活用による経営スピードの向上を実現します。

本記事では、クラウド導入がもたらす価値と、失敗しないための選び方について丁寧に解説します。

クラウドのメリット・デメリットとは?経営視点で見る導入の価値と選び方

この記事でわかること

  • クラウドとオンプレミスの違いおよび基礎知識
  • コスト削減やBCP対策など、企業が得られる5つのメリット
  • デメリットへの対策と、クラウドERPを活用した経営改革の手法

クラウドサービスとは?オンプレミスとの違い

近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進に伴い、企業におけるITインフラの選択肢として「クラウド」が主流となりつつあります。しかし、具体的にクラウドがどのような仕組みで提供され、従来の運用方法と何が違うのかを正確に把握することは、経営判断において非常に重要です。

クラウドサービス(クラウドコンピューティング)とは、インターネット等のネットワークを経由して、サーバー、ストレージ、データベース、ソフトウェアなどのコンピューティングリソースを必要な時に必要な分だけ利用する仕組みのことを指します。手元のパソコンやスマートフォンにデータを保存するのではなく、ネットワークの向こう側にあるサービス提供者の設備を利用するため、「雲(クラウド)」の中にあるリソースを使うイメージからその名が付けられました。

クラウドコンピューティングの基本定義

クラウドコンピューティングの最大の特徴は、ハードウェアやソフトウェアを自社で「所有」するのではなく、サービスとして「利用」する点にあります。これにより、企業は物理的なサーバーの購入や設置場所の確保、メンテナンスといった物理的な管理業務から解放されます。

総務省の定義などでも触れられているように、クラウドは以下の特徴を持っています。

  • オンデマンド・セルフサービス:ユーザーが必要な時に、サーバーやストレージなどのリソースを自動的に確保できる。
  • 幅広いネットワークアクセス:PC、スマートフォン、タブレットなど、様々なデバイスからインターネット経由で利用できる。
  • リソースの共用:複数のユーザーが物理的なリソースを共有し、効率的に利用する(マルチテナント方式など)。
  • スピーディな拡張性:利用量の増減に合わせて、リソースを即座に拡張(スケールアウト)・縮小(スケールイン)できる。
  • 計測可能なサービス:利用状況が監視・計測され、それに基づいた従量課金が行われる。

これらの特徴により、企業はビジネスの変化に対して柔軟かつ迅速に対応可能なIT基盤を手に入れることができます。詳しくは、総務省の国民のためのサイバーセキュリティサイトなどでも解説されています。

SaaS・PaaS・IaaSの違いと特徴

クラウドサービスは、提供されるリソースの範囲や管理の責任分界点によって、主にSaaS・PaaS・IaaSの3つの形態に分類されます。これらは「サービスとしてどこまで提供されるか」という階層構造になっています。

分類 正式名称 提供される範囲 主な用途・代表例
SaaS Software as a Service アプリケーションまで全て提供。
ユーザーは設定とデータ入力のみ行う。
電子メール、CRM、Web会議など。
(例:Gmail, Salesforce, Microsoft 365)
PaaS Platform as a Service OSやミドルウェア、開発環境を提供。
アプリケーションは自社で開発する。
アプリ開発、テスト環境。
(例:Google App Engine, Microsoft Azure App Service)
IaaS Infrastructure as a Service サーバー、CPU、ストレージ、ネットワークなどのインフラのみ提供。
OS以上は自社で管理。
仮想サーバーの構築、自由度の高いシステム運用。
(例:Amazon EC2, Google Compute Engine)

SaaS(サース/サーズ):ソフトウェアの利用

SaaSは、完成されたソフトウェア機能をインターネット経由で利用する形態です。ユーザーはインフラやアプリケーションの管理を行う必要がなく、IDとパスワードがあればすぐに業務を開始できます。一般的なビジネスツールの多くはこのSaaSに該当し、導入のハードルが最も低いのが特徴です。

PaaS(パース):プラットフォームの利用

PaaSは、アプリケーションを稼働させるための土台(プラットフォーム)を提供する形態です。OSやデータベース、プログラム実行環境があらかじめ用意されているため、開発者はインフラの構築に時間を割くことなく、アプリケーション開発(コーディング)に集中できます。

IaaS(イアース/アイアース):インフラの利用

IaaSは、仮想化されたサーバーやネットワークなどのインフラリソースを提供する形態です。OSの選定からミドルウェアのインストールまでをユーザー自身が自由に行えるため、最もカスタマイズ性が高い反面、セキュリティ対策や運用管理の専門知識が必要となります。

オンプレミス(自社運用)との決定的な違い

クラウドが登場する以前、企業のシステム構築は「オンプレミス」と呼ばれる形態が一般的でした。オンプレミスとは、自社の建物内(プレミス)にサーバー機器を設置し、自社で保有・運用する方式です。クラウドとオンプレミスの違いを理解することは、コスト構造や運用体制を見直す上で不可欠です。

比較項目 クラウド(利用モデル) オンプレミス(所有モデル)
初期コスト 安価(不要な場合も多い)。
サービス利用料として発生。
高額。
ハードウェア購入費、設置工事費などが必要。
構築期間 即日〜数週間。
アカウント作成後すぐに利用可能。
数ヶ月〜半年以上。
機器の調達から設置、設定まで時間が必要。
カスタマイズ性 サービス仕様に依存(IaaSは高い)。
標準機能に業務を合わせる必要がある場合も。
非常に高い。
自社要件に合わせて自由に構築可能。
拡張性 柔軟にスケーリング可能
クリック一つでリソース増減ができる。
困難。
物理的な機器の追加購入や設定変更が必要。
財務上の扱い 経費(OPEX)。
月額費用として処理。
資産(CAPEX)。
減価償却が必要な資産として計上。

決定的な違いは、「資産の保有リスク」と「変化への対応スピード」にあります。オンプレミスは一度構築すると構成変更が難しく、過剰投資やリソース不足のリスクを伴いますが、完全に自社のコントロール下に置けるため、極めて機密性の高いデータを扱う場合や、特殊なレガシーシステムとの連携が必要な場合には依然として有効な選択肢です。

一方、クラウドは「所有」しないため、ビジネスの成長に合わせて柔軟にコストとリソースを最適化できます。現代の経営環境において、このスピード感と柔軟性は大きな競争優位性となります。

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企業がクラウドを導入する5つのメリット

総務省の調査によると、国内企業の約7割がすでに何らかのクラウドサービスを利用しており、その普及率は年々上昇傾向にあります。多くの企業がオンプレミス(自社運用)からクラウドへ移行する背景には、経営効率や競争力を高めるための明確な理由が存在します。ここでは、企業がクラウドを導入することで得られる主要な5つのメリットについて、経営的な視点を交えて詳しく解説します。

初期投資の抑制とコストの最適化(TCO削減)

クラウド導入の最大のメリットの一つは、初期費用の大幅な削減とコスト構造の最適化です。従来のオンプレミス型では、サーバー機器やネットワーク機器、ソフトウェアライセンスの購入といった多額の初期投資(CAPEX:設備投資)が必要でした。これに対し、クラウドサービスは基本的に「利用した分だけ支払う」従量課金制や月額定額制(サブスクリプション)を採用しており、初期費用を抑えて運用費(OPEX)として処理することが可能です。

また、ハードウェアの保守メンテナンスや老朽化に伴うリプレース作業、電気代や空調費、設置スペースの確保といった隠れたコストも削減できます。これらを総合した「TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)」の観点で見ると、クラウドは長期的なコスト削減に大きく寄与します。

項目 オンプレミス(自社運用) クラウドサービス
初期費用 サーバー購入費、構築費など多額の投資が必要 基本的に不要、または少額の初期設定費のみ
コスト種別 資産(CAPEX)として計上 経費(OPEX)として計上
運用・保守 自社で専門要員の確保と対応が必要 ベンダー側が管理するため自社負担は最小限
コストの柔軟性 一度購入すると変更が困難(固定費化) 利用量に応じて増減が可能(変動費化)

場所を選ばないアクセス性と業務スピードの向上

インターネット環境さえあれば、「いつでも」「どこでも」「どのデバイスからでも」システムにアクセスできる点は、クラウドならではの大きな強みです。オフィスに出社しなければ業務ができないという従来の制約から解放され、自宅やサテライトオフィスでのテレワーク、外出先や出張先からの業務遂行がスムーズに行えるようになります。

例えば、営業担当者が商談直後にスマートフォンから日報を入力したり、移動中に在庫状況を確認して見積もりを作成したりすることが可能です。このように時間と場所にとらわれない働き方を実現することで、業務のリードタイムが短縮され、意思決定のスピードや顧客対応の質が向上します。総務省の情報通信白書においても、クラウドサービスを利用する企業の多くが「場所を選ばず利用できる」点をメリットとして挙げています。

導入スピードの速さと拡張性(スケーラビリティ)

ビジネス環境の変化が激しい現代において、システムの導入スピードは競争力を左右します。オンプレミスの場合、サーバーの選定・発注から納品、構築、テストまでに数ヶ月を要することも珍しくありません。一方、クラウドサービスであれば、アカウントを作成し契約するだけで、早ければその日のうちに利用を開始できます。

また、スケーラビリティ(拡張性)の高さも重要です。事業の成長に合わせてユーザー数やデータ容量を即座に増やしたり、逆に繁忙期が過ぎればリソースを減らしてコストを抑えたりといった調整が柔軟に行えます。キャンペーンサイトへの急激なアクセス集中など、予測困難な負荷変動に対しても、クラウドならオートスケール機能などで自動的にリソースを拡張し、機会損失を防ぐことができます。

常に最新機能を利用できることによる陳腐化の防止

システムを自社で保有している場合、数年ごとにソフトウェアのバージョンアップやハードウェアの更新(リプレース)という大規模なプロジェクトが発生します。これには多大なコストと労力がかかり、更新を怠るとシステムが陳腐化し、セキュリティリスクや業務効率の低下を招く「塩漬け」状態になりがちです。

クラウドサービス(特にSaaS)では、サービス提供事業者が定期的に機能追加やアップデートを行います。ユーザーは面倒な更新作業をすることなく、常に最新の機能とセキュリティ環境を利用し続けることができます。インボイス制度や電子帳簿保存法といった法改正への対応も、ベンダー側で迅速に行われるため、企業は本業に集中しながらコンプライアンスを維持することが容易になります。

BCP(事業継続計画)対策とセキュリティの強化

「クラウドはセキュリティが不安」というのは過去の話になりつつあります。現在、主要なクラウド事業者は、一般企業が自社で構築するよりもはるかに高度なセキュリティ対策と堅牢な設備を有しています。データセンターは耐震・免震構造で設計され、電源や通信回線も多重化されており、24時間365日体制で専門家による監視が行われています。

また、データは自動的にバックアップされ、遠隔地のデータセンターに分散保管される仕組みを持つサービスも多くあります。万が一、自社のオフィスが自然災害や火災で使用不能になったとしても、データはクラウド上で安全に守られているため、インターネット経由で別拠点や自宅から業務を再開できます。このように、クラウド導入は強力なBCP(事業継続計画)対策としても機能するのです。

クラウド導入におけるデメリットと対策

クラウドサービスは、場所を選ばないアクセス性や導入スピードの速さといった多くのメリットを提供する一方で、特有のデメリットやリスクも存在します。導入後に「想定していた運用ができない」「コストが予想以上にかさんだ」といった事態を避けるためには、事前にデメリットを把握し、適切な対策を講じておくことが不可欠です。ここでは、主な課題とその解決策について解説します。

カスタマイズの制約と業務標準化の必要性

クラウドサービス、特にSaaS(Software as a Service)における最大の課題の一つは、カスタマイズの自由度が低いことです。オンプレミス型のシステムであれば、自社の独自業務に合わせて機能をゼロから開発・改修することが可能でしたが、クラウドサービスはベンダーが提供する標準機能をそのまま利用することが前提となります。そのため、独自の商習慣や特殊な業務フローを持つ企業では、機能不足や使い勝手の違いが障壁となる場合があります。

この課題に対する最も有効な対策は、システムを業務に合わせるのではなく、業務プロセスをシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)」という考え方を採用することです。業務の標準化を進めることで、カスタマイズに伴う開発コストを削減できるだけでなく、将来的なバージョンアップにもスムーズに対応できるようになります。

以下に、従来の手法(Fit & Gap)とFit to Standardの違いを整理しました。

比較項目 Fit & Gap(従来の開発) Fit to Standard(クラウド時代の主流)
アプローチ 業務に合わせてシステムを修正・追加開発する システムの標準機能に合わせて業務フローを変更する
導入コスト 開発工数がかかるため高額になりやすい 追加開発を抑制できるため低コスト
導入期間 要件定義や開発に時間を要し、長期化する 設定ベースで導入可能なため、短期間で完了する
保守・更新 バージョンアップ時に追加開発部分の検証が必要 自動アップデートの恩恵を即座に受けられる

既存システムとの連携における課題

企業がクラウドを導入する際、すべてのシステムを一斉に移行することは稀であり、多くの場合、既存のオンプレミスシステムや他のクラウドサービスと併用することになります。このとき問題となるのが、システム間のデータ連携と統合です。各システムが独立して稼働していると、同じデータ(顧客情報や在庫データなど)が分散して管理される「データのサイロ化」が発生し、経営判断に必要な情報の集約に手間取る可能性があります。

特に、オンプレミス環境とクラウド環境を接続するハイブリッドクラウド構成の場合、セキュリティポリシーの違いや通信プロトコルの制約により、連携の難易度が高まることがあります。導入前に、対象となるクラウドサービスがAPI(Application Programming Interface)を公開しているか、またCSVによる入出力が可能かといった仕様を十分に確認する必要があります。場合によっては、異なるシステムやアプリケーションをつなぐ連携ツール(EAIやiPaaS)の導入を検討することも有効な対策です。

サービス終了や障害時のリスク管理

クラウドサービスは事業者が提供するリソースを利用するため、自社でコントロールできないリスクが存在します。代表的なものが、サービス提供の終了やシステム障害です。事業者の経営方針によってサービスが廃止されたり、大規模な通信障害によって業務が停止したりするリスクはゼロではありません。

こうしたリスクへの対策として、契約前にSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証)の内容を精査し、稼働率の保証範囲や障害時の対応フローを確認しておくことが重要です。また、万が一のデータ消失に備えて、定期的に自社でバックアップデータを取得しておくことや、特定のベンダーに依存しすぎない「マルチクラウド」の構成を検討することもリスク分散につながります。

総務省が公表しているガイドラインなど、公的な指針を参考にしながら、セキュリティ対策や契約内容のチェックを行うことを推奨します。
参考:クラウドサービス利用・提供における適切な設定のためのガイドライン - 総務省

単なるデジタル化ではない「MX(マネジメント・トランスフォーメーション)」への活用

クラウドサービスの導入を検討する際、多くの企業はコスト削減や利便性の向上といった現場レベルのメリットに注目しがちです。しかし、クラウド導入の真価は、それだけに留まりません。デジタル技術を活用して、既存のビジネスモデルや組織のあり方そのものを変革する「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、さらにはその本質である経営視点での変革「MX(マネジメント・トランスフォーメーション)」を実現するための基盤となる点にこそ、最大の価値があります。

単に紙の書類をデジタル化したり、サーバーをクラウドへ移行したりするだけでは「デジタイゼーション(デジタル化)」に過ぎません。クラウドが持つ柔軟性と拡張性を活かし、市場の変化に即応できる経営体制を構築することこそが、これからの企業成長に不可欠なMXの視点です。

クラウドが支える「経営の見える化」とリアルタイム経営

従来のオンプレミス環境や、各拠点が個別に管理しているシステムでは、全社の経営数値が確定するまでに多くの時間を要していました。各部門からExcelで集計されたデータが送られ、経理部門がそれを統合し、修正を加えた後にようやく月次決算が締まるというプロセスでは、経営層の手元にレポートが届く頃には、すでにデータは「過去のもの」となってしまいます。

変化の激しい現代のビジネス環境において、1ヶ月前の情報に基づいた意思決定では、競合他社に後れを取るリスクが高まります。ここで重要となるのが、クラウドシステムによる「経営の見える化」と「リアルタイム経営」の実現です。

クラウド、特に統合型のクラウドERPなどを活用することで、世界中の拠点や店舗の売上データ、在庫状況、経費情報などがインターネットを通じて瞬時に一元管理されたデータベースへと集約されます。経営者は、PCやタブレット上のダッシュボードを通じて、「今、会社で何が起きているか」をリアルタイムに把握できるようになります。

これにより、例えば「ある地域の売上が急激に落ちている」といった予兆を即座に検知し、その日のうちに対策を指示するといったスピード感のある経営判断が可能となります。クラウドは単なるデータ保存場所ではなく、意思決定の速度を劇的に向上させるための「経営のコックピット」としての役割を果たすのです。

個別最適から全体最適へ:データ統合の重要性

クラウドサービスの普及に伴い、営業部門はSFA(営業支援システム)、マーケティング部門はMA(マーケティングオートメーション)、人事部門はHRテックといったように、部門ごとに最適なSaaS(Software as a Service)を個別に導入するケースが増えています。これは各部門の業務効率化には寄与しますが、企業全体で見るとデータが分断される「サイロ化」という新たな課題を引き起こします。

データがサイロ化すると、例えば「営業が入れた受注データ」と「経理が管理する請求データ」を手作業で突き合わせる必要が生じたり、顧客情報が複数のシステムで重複・矛盾したりといった非効率が発生します。MXの観点では、こうした「個別最適」の状態から脱却し、企業全体でデータを統合する「全体最適」へのシフトが求められます。

以下の表は、システムが個別最適でバラバラな状態と、クラウドによって全体最適化された状態の違いを整理したものです。

比較項目 個別最適(サイロ化された状態) 全体最適(クラウド統合管理)
データ管理 部門ごとにデータが散在し、整合性を取るための転記や加工作業が発生する。 単一のデータベースで管理され、入力したデータが全社で即座に共有される。
業務プロセス システム間の連携が弱く、Excelによる「バケツリレー」や手作業が介在する。 受注から請求、会計までデータがシームレスに連携し、自動化が進む。
経営判断 各部門のデータを集計するのに時間がかかり、タイムラグが発生する。 リアルタイムなデータを基に、迅速かつ正確な意思決定が可能になる。
システム保守 システムごとにベンダーや契約が異なり、管理コストや手間が肥大化する。 プラットフォームが統一され、セキュリティ対策やバージョンアップも一括で対応可能。

このように、クラウドを活用してデータを統合することは、単なる業務効率化を超えて、企業全体のパフォーマンスを最大化するための重要な経営戦略となります。

Excel管理やレガシーシステムからの脱却

多くの日本企業では、長年にわたり改修を重ねて複雑化したオンプレミスの基幹システム(レガシーシステム)や、現場担当者の個人的なスキルに依存したExcelファイルによる管理が根強く残っています。これらは、DXやMXを推進する上での大きな足かせとなっています。

経済産業省のレポートでも指摘されている通り、老朽化したシステムを放置することは、維持管理費の高騰やセキュリティリスクの増大、さらには新しいデジタル技術の導入を阻害する要因となり、いわゆる「2025年の崖」として最大で年間12兆円の経済損失を生む可能性が示唆されています。

また、Excelによる管理は手軽である反面、計算式の誤りやファイルの先祖返りといったミスが起きやすく、作成した本人しか内容が分からない「属人化」の温床となりがちです。担当者が退職した途端に業務が回らなくなるといったリスクは、経営の継続性(BCP)の観点からも看過できません。

クラウドサービスへの移行は、こうしたレガシーシステムやExcel管理からの脱却を強力に後押しします。クラウドシステムは常にベンダーによって最新の状態に保たれるため、法改正への対応やセキュリティパッチの適用といった保守業務から自社のIT部門を解放できます。さらに、業務プロセスをクラウドシステムの標準機能に合わせる「Fit to Standard(フィット・トゥ・スタンダード)」のアプローチを採ることで、業務の標準化と属人化の排除を同時に実現し、攻めのIT投資へとリソースを振り向けることが可能になるのです。

経営基盤としてのクラウドERPという選択肢

これまでの章で、クラウドサービスの一般的なメリットや、DX(デジタルトランスフォーメーション)における重要性について解説してきました。しかし、企業が本格的に「攻めの経営」へと転換するためには、単なるツール導入に留まらず、経営の根幹を支える基幹システムの刷新が不可欠です。

そこで有力な選択肢となるのが、クラウドERP(Enterprise Resource Planning)です。従来、大企業がオンプレミス環境で莫大なコストをかけて構築していたERPが、クラウド技術の進化により、中堅・中小企業や成長企業でも導入しやすいSaaS型として普及しています。

ここでは、なぜ今、経営基盤としてクラウドERPが選ばれているのか、その具体的な価値を深掘りします。

会計・販売・在庫を統合管理するメリット

多くの企業では、創業期から成長期にかけて導入された「会計ソフト」「販売管理システム」「在庫管理ソフト」が、それぞれ独立して稼働しているケースが少なくありません。このようにシステムが分断された状態を「サイロ化」と呼びますが、これは経営スピードを鈍化させる大きな要因となります。

クラウドERPを導入する最大のメリットは、これらバラバラだった業務データを単一のデータベースで統合管理できることにあります。

例えば、販売管理システムで受注を入力すれば、在庫データが即座に引き落とされ、会計データ上の売掛金にも自動で反映されます。これにより、データの二重入力の手間がなくなるだけでなく、部門間でのデータ不整合やタイムラグも解消されます。

個別最適されたシステムと、全体最適を実現するクラウドERPの違いを整理すると以下のようになります。

比較項目 従来の個別システム(サイロ化) クラウドERP(統合型)
データ管理 システムごとに分散
(Excelでのバケツリレーが発生)
単一データベースで一元管理
(常に整合性が保たれる)
経営判断の速度 月次決算を待たないと正確な数値が見えない リアルタイムに全社の数値を可視化可能
システム連携 CSV連携や手動入力が必要
(転記ミスのリスク)
シームレスに自動連携
(業務プロセスの自動化)
メンテナンス システムごとに保守・更新が必要 一括で自動アップデート

このように、クラウドERPは単なる業務効率化ツールではなく、経営者が「今、会社で何が起きているか」を瞬時に把握し、迅速な意思決定を行うための「経営のコックピット」としての役割を果たします。

成長企業がクラウドERPを選ぶ理由

スタートアップやIPO(新規上場)を目指す成長企業において、クラウドERPの採用が急増しています。その背景には、変化の激しいビジネス環境に対応できる「柔軟性」と「スピード」があります。

1. 高い拡張性(スケーラビリティ)

成長企業では、事業の拡大に伴い、従業員数や拠点数、取引量が急激に増加します。オンプレミス型の場合、サーバーの増強やライセンスの追加に数ヶ月単位の時間がかかることがありますが、クラウドERPであれば、管理画面からの設定変更だけで即座にリソースを拡張できます。海外進出の際も、多言語・多通貨対応のクラウドERPであれば、スムーズにグローバル経営基盤を構築可能です。

2. 常に最新の法規制に対応

インボイス制度や電子帳簿保存法など、企業を取り巻く法規制は頻繁に改正されます。自社運用の場合、法改正のたびにシステムの改修コストが発生しますが、SaaS型のクラウドERPであれば、ベンダー側で自動的にアップデートが行われます。これにより、企業はシステム対応に追われることなく、本業の成長にリソースを集中させることができます。

3. IPO準備に耐えうる内部統制の強化

上場審査においては、財務報告の信頼性を担保するための「内部統制」が厳しく問われます。クラウドERPには、承認ワークフローの徹底や、詳細な操作ログ(監査証跡)の記録、職務分掌に応じた細かい権限設定といった機能が標準で備わっています。Excel管理や個別のシステムでは困難だったガバナンスの強化を、システム導入と同時に実現できる点も、成長企業に選ばれる大きな理由です。

総務省の通信利用動向調査を見ても、企業のクラウドサービス利用率は年々上昇しており、特に「給与・財務会計・人事」といったバックオフィス分野での活用が進んでいます。これは、多くの企業が守りのITから、経営を支える攻めのITへとシフトしている証左と言えるでしょう。

クラウド導入に関するよくある質問(FAQ)

Q. クラウドとオンプレミス、結局どちらがコスト削減になりますか?

短期的な導入費用の安さはもちろん、長期的にはサーバーの保守管理費や電気代、人件費を含めたTCO(総保有コスト)の観点で、クラウドの方がコストを適正化しやすい傾向にあります。必要な機能や容量に合わせて柔軟にプランを変更できるため、無駄な投資を抑えられます。

Q. クラウドのセキュリティは本当に安全ですか?

現在、主要なクラウドベンダーは世界最高水準のセキュリティ対策を講じており、一般的な企業が自社でサーバーを守るよりも安全性が高いケースが大半です。ただし、アクセス権限の管理やパスワード設定など、利用者側での適切な運用ルールも重要になります。

Q. 既存のシステムからの移行は難しいですか?

システムの規模や複雑さによりますが、段階的な移行や、一部をクラウド化するハイブリッドな構成も可能です。特にSaaS型のサービスであれば、データ移行のみでスムーズに乗り換えられる場合も多く、ベンダー側の移行支援ツールも充実してきています。

Q. インターネットがつながらない時はどうなりますか?

クラウドサービスはインターネット接続が必須となるため、オフラインでは利用できません。そのため、業務停止を防ぐために通信回線を二重化したり、バックアップ用のモバイルWi-Fiを準備したりするなど、通信インフラのBCP対策を併せて行うことが推奨されます。

Q. 中小企業でもクラウドERPのような統合システムは必要ですか?

企業規模に関わらず、成長を目指す企業には非常に有効です。Excel管理やバラバラのシステムではデータの整合性を取るのに時間がかかりますが、クラウドERPで情報を一元化すれば、リアルタイムな経営数値の把握が可能になり、素早い意思決定につながります。

まとめ

本記事では、クラウドのメリット・デメリットから、経営視点での導入価値について解説しました。
クラウドへの移行は、単なるシステムの置き換えやコスト削減にとどまらず、場所を選ばない働き方の実現や、データを活用した迅速な意思決定を可能にする「MX(マネジメント・トランスフォーメーション)」の基盤となります。
特に、会計や在庫管理などを統合するクラウドERPは、全体最適を実現し、企業の成長を加速させる強力なツールです。変化の激しい現代において、クラウドを戦略的に活用することは、企業の競争力を高めるための最適な選択肢と言えるでしょう。

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