事業承継税制とは?メリット・デメリットを解説

 2019.07.10  クラウドERP編集部

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最近では、中小企業における事業継承問題が多方面で取り上げられています。数十年前に比べて中小企業経営者の平均年齢は10歳程度引き上げられ、60代後半に達しています。中小企業経営者平均引退年齢が70歳前後ですので、多くの経営者は向こう5年以内に引退を迎え、事業継承の必要性が生じるということになります。

しかしながら、事業継承にはさまざまな問題が残されており、最も広く認識されている問題が「事業継承の後継者」です。適当な後継者が見つからない、子供に会社を継ぐ意思がないといった理由から、約半数の中小企業経営者が廃業を決めています。

その一方で、事業継承を決めた中小企業の中にもさまざまな問題が残されています。その1つが「贈与税・相続税にかかわる問題」です。事業継承をするということは会社の株式を譲渡することになり、そこには財産価値があるため、贈与税および相続税がかかります。

本稿では、事業継承における「贈与税・相続税にかかわる問題」を解決するための、“事業継承税制”について、その基礎とメリット・デメリットについて解説しています。

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参考資料:平成27年度中小企業の成長と投資行動に関する調査 報告書 - 経済産業省

参考資料:中小企業の事業承継に関するインターネット調査 - 日本政策金融公庫

事業継承税制とは何か?

この税制度は、円滑化法(中小企業における経営の継承の円滑化に関する法律)による都道府県知事認定を受けている非上場会社の株式等を、会社の後継者が贈与税または相続等により取得した場合において、その非上場株式等にかかわる贈与税・相続税について、一定の要件のもとその納税を猶予し、後継者の死亡等により納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される、という制度です。

噛み砕いて説明すると、後継者が非上場株式を先代の経営者より取得し、その会社の経営を引き続き行っていく場合では、承継する非上場株式の贈与税・相続税の納税が100%猶予されるという税制度です。事業継承時に「贈与税・相続税の負担額が0円になる」という非常にインパクトの大きい税制度となっています。

ちなみに本制度は、平成30年の税制改正によって大幅な改正が施行されています。

<事業継承税制、改正前・改正後の違い>

 

改正前

改正後

対象となる株式

猶予される税額

対象となる株式数

猶予される税額

贈与税

発行済み株式総数の2/3まで

全額

取得したすべての株式

全額

相続性

発行済み株式総数の2/3まで

80%

取得したすべての株式

全額

後継者が先代の経営者より株式を相続した場合は、これまで自社株にかかる相続税が最高で53%(発行済み株式総数の2/3×税額80%)しか猶予されませんでした。しかし改正後は、贈与税・相続税ともに全株式に対して100%猶予されることになります。

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事業継続税制の理解ポイント

さらに、平成30年の改正では贈与税及び相続税が全額猶予されるだけでなく、いくつかの制度が改正されています。その理解ポイントをここでご紹介します。

1.後継者が複数いても税制度の適用が可能になった

これまでの事業継承税制は、先代の経営者と後継者1名の1対1の関係の場合のみ、適用されるものでした。これが改正後は、先代の経営者以外からの贈与・遺贈、または複数の後継者への贈与・相続も納税猶予の対象になります。

このように、適用の対象が広がることにより、さまざまなパターンで事業継承税制が活用されるようになります。たとえば、複数の株主から1人の後継者の自社株を集約した場合、後継者を1人に絞り切れない場合においても、事業継承税制が活用できるようになっています。

ただし注意点もあります。先代経営者以外からの自社株の贈与・遺贈においては、特例承継機関(5年)内に、贈与税・相続税の申告期限を迎える場合に限り納税猶予の対象になります。もう1つの注意点が、自社株を引き継ぐ後継者が最大3人まで納税猶予の対象になります。ただし、それぞれ議決権数の10%以上を保有し、議決権数の上位2名または上位3名であることが条件です。

2.雇用確保要件が緩和された

これまでの事業継承税制は、5年間の平均で雇用の80%以上を確保することが求められていました。雇用が確保できなければ猶予が打ち切られ、贈与税・相続税に利子税を加えて納税しなければいけない、という条件があったのです。

平成30年の改正後は、たとえ雇用が確保できなくても都道府県に理由書を提出すれば猶予が継続されます。理由書は、認定経営革新等支援機関の意見を記載し、場合によっては支援機関の指導・助言を受ける必要があります。

3.業績悪化による自社株の譲渡等は納税が一部免除される

業績悪化などの理由により、特例承継機関の経過後に自社株を譲渡する場合、または会社の合併・解散をする場合には、一定の条件のもとに納税が一部免除されます。

このように、従来の事業継承税制にくらべて適用条件が緩和されており、中小企業経営者とその後継者はもっと気軽に本制度を利用し、事業継承にかかる贈与税及び相続税を節税できるようになっています。今までとは違い本制度を利用するメリットがたくさんあるので、事業継承を検討している中小企業経営者とその後継者は、本制度を頼りにより具体的な継承計画を立てていくことができます。

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事業継承税制の適用要件

事業継承税制の適用を受けるための主な要件について解説します。

会社にかんする要件

以下に明示する会社のいずれかに該当することが、会社として事業継承税制の適用を受けるための要件です。

業種分類

中小企業に該当する者

製造業その他

資本金の額または出資の総額が3億円以下の会社、または常時使用する従業員の数が300人以下の会社および個人

卸売業

資本金の額または出資の総額が1億円以下の会社、または常時使用する従業員の数が100人以下の会社および個人

小売業

資本金の額または出資の総額が5,000万円以下の会社、または常時使用する従業員の数が50人以下の会社および個人

サービス業

資本金の額または出資の総額が5,000万円以下の会社、または常時使用する従業員の数が50人以下の会社および個人

後継者にかんする要件

後継者にかんする要件は贈与と相続とで異なり、それぞれの要件をすべて満たさなければいけません。

<贈与の場合>

  • 会社の代表権を有していること
  • 20歳以上であること
  • 役員の就任から3年以上を経過していること
  • 後継者および後継者と特別の関係がある者(後継者の親族等)で、総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
  • 後継者と特別の関係がある者の中で、後継者が最も多くの議決権数を保有することとなること(後継者が1人の場合)
  • 総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者の中で、最も多くの議決権数を保有することとなること(後継者が2~3人の場合)

<相続の場合>

  • 相続開始の日の翌日から5か月を経過する日において会社の代表権を有していること
  • 相続開始の時において、後継者および後継者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有することとなること
  • 相続開始の時において、後継者と特別の関係がある者の中で、後継者が最も多くの議決権数を保有することとなること(後継者が1人の場合)
  • 相続開始の時において、総議決権数の10%以上の議決権数を保有し、かつ、後継者と特別の関係がある者の中で、最も多くの議決権数を保有することとなること(後継者が2人または3人の場合)
  • 相続開始の直前において、会社の役員であること(被相続人が60歳未満で死亡した場合を除く)

先代の経営者に関する要件

先代の経営者に関する要件は贈与と相続とで異なり、それぞれの要件をすべて満たさなければいけません。

<贈与の場合>

  • 会社の代表権を有していたこと
  • 贈与の直前において、贈与者(先代経営者)および贈与者と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと
  • 贈与時において、会社の代表権を有していないこと

<相続の場合>

  • 会社の代表権を有していたこと
  • 相続開始の直前において、被相続人(先代経営者)および被相続人と特別の関係がある者で総議決権数の50%超の議決権数を保有し、かつ、後継者を除いたこれらの者の中で最も多くの議決権数を保有していたこと

担保にかんする要件

納税が猶予される税額および利子税の額に見合う担保を税務署に提供しなければいけません。

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事業継承税制のデメリット

いかがでしょうか?事業継承税制を利用することで贈与税及び相続税が全額猶予されるため、事業継承を検討している中小企業経営者とその後継者にとっては、ぜひとも利用していただきたい税制度となっています。ただし、デメリットもあります。

たとえば贈与税の納税猶予が取り消された場合は、相続税よりも税率が割高になってしまうケースが多く、贈与税の納税義務が生じます。となると、事業継承税制の適用を受けずに相続した方が、が安く済む、というケースもあるのです。また、猶予されていた税額に対する利子税が課せられるというのもデメリットだと言えます。

こうしたデメリットにも注意しつつ、事業継承税制の適用を検討してみましょう。

未来のための事業承継戦略

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