事業承継と事業譲渡の違いを解説

 2019.07.16  クラウドERP編集部

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“事業承継(じぎょうしょうけい)”と“事業譲渡(じぎょうじょうと)”は似ているようで違います。中小企業が事業承継について考えたとき、2つの意味の違いを明確に理解したうえで、適切な方法で次の世代へと経営をバトンタッチしていくことが大切です。本稿ではこの、事業承継と事業譲渡の違いについて解説しています。

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事業承継とは?

事業承継とは会社の株式を後継者の贈与または相続し、会社の経営を後継者が引き継ぐことを意味します。中小企業では経営者自身の経験・知識・技術などが会社としての強みになっているケースが多く、経営基盤そのものとなっています。そのため、「誰を後継者として選ぶか?」というのが重要な課題であり、多くの中小企業経営者にとって悩ましい問題になっています。

事業承継の方法

方法は大きく分けて3つあります。①親族の誰かに承継する、②親族ではない他の誰か(従業員等)に承継する、③M&Aによって会社を合併または吸収させる、です。近年では、親族内承継ではなく親族外承継(②か③)を選択する中小企業が多くなっています。親族内に事業を承継する意思がなかったり、そもそも子供がいなかったりといった理由や、事業承継を機に会社としての成長を考えてM&A等を検討していると考えられます。

事業譲渡とは?

一方、事業譲渡とは会社が持つ事業の一部または全部を引き渡すことを意味します。事業の範囲は明確に決まっておらず、その概念は会社法に定められているものの、個別具体的に譲受事業と契約を交わします。これと類似した手続きとして会社分割がありますが、会社分割はある事業に関する権利義務を丸ごと渡すのに対して、事業譲渡は残したい資産や人材がある場合は柔軟に切り分けることができます。

事業譲渡を行うには買い手企業を探し、事業範囲を決定します。それから株主総会にて重要事項の決定に必要な、2/3以上の賛成があると実現します。

事業譲渡の方法

前述のように、事業譲渡は買い手企業探しから始まります。相手が見つかったら事業の一部の上とか、あるは全部の上とかなど、事業譲渡の範囲や概要の条件を提示してもらいます。この時、買収価格や資産・負債の受け継ぎなどについても提示してもらい、意向表明書として相手から示されるのが一般的です。

国内クラウドERP利用実態調査レポート:矢野経済研究所
事例記事:リコー

話し合いを重ねて条件が合意に至ったならば、基本合意書が締結されます。そのためには取締役会の承認が必要であり、以降は買収調査(買収価格の算定をはじめとする諸々の調査)、事業譲渡契約書の締結、株主総会の実施(議決権を持つ過半数の株主の出席、および2/3以上の賛成が必要)を経て、移転や引継ぎの手続きを行います。

事業承継ではなく、事業譲渡を選ぶ理由

会社の収支が赤字の場合では、中小企業経営者が親族や従業員へ事業を継承するのをためらうことがよくあります。その場合、事業譲渡にメリットがあります。事業譲渡を行うと、売り手は資金を得ることができ、すべての事業を売却して会社という枠組みが無くなったとしても、会社が蓄積してきたノウハウを事業の中で継続的に継承していくこともできます。

収支が赤字なのに買い手が見つかるのか?と疑問を持つ方も多いでしょう。日本の中小企業の中には、内部からでは気づかない価値や魅力を持っている会社が少なくありません。「あの中小企業の技術が欲しい!」と考えている大企業・中堅企業や外資系企業は、意外と多いのです。事業譲渡においては、ノウハウの他に残したい従業員や契約の資産が残せたり、債権者への通知及び告知なしに手続きできたりするメリットがあります。

事業譲渡のリスク

ここまでの説明だけですと、事業譲渡はメリットばかりだと考えがちです。しかし、リスクも確かにあります。事業譲渡における大きなリスクは、取引先などとの契約が円滑に引き継げないという可能性です。特に、取引先が多い場合は引継ぎに多くの労力を消費しますし、事業譲渡に必要な株主総会の特別決議にコストがかかる上、株主の賛同を得られない可能性もあります。

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事業承継の課題とは?

会社としての理念や経営者のノウハウなどを次の世代へしっかりと伝えたい場合は、事業譲渡ではなく事業承継を選ぶケースが多いでしょう。経営者が信頼のおける後継者や企業へと事業を引き継ぐことで、その会社の精神を残しつつ、新しい事業を展開することも可能になります。しかし、昨今の事業承継にはさまざまな課題が残されています。

①経営者の高齢化

1995年当時は47歳だった中小企業経営者の平均年齢も、現在では60代後半まで引きあがっています。経営者の高齢化は加速するばかりで、早急な事業承継計画が必要だと考えられています。中小企業経営者の平均引退年齢は70歳前後なので、今後5年以内に事業承継を行う必要性がある企業が多数存在します。

②後継者の不在

中小企業のうち、事業承継をせずに廃業を決めている企業が半数存在します。その中には、適当な後継者が見つからない、子供がいない、子供に会社を継ぐ意思がないといった理由を挙げている経営者が多くなっています。ただし、廃業予定の中小企業の中には4割以上の企業が「事業継続は可能」だと考えています。

③事業承継計画の遅れ

中小企業経営者を対象にしたアンケート調査では、どの世代においても半数以上が事業承継計画を立てていない状態です。後継者育成など事業承継にかかる準備期間を考慮すれば、経営者が60代に達したところから事業承継の準備を始める必要があるでしょう。

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④M&Aに対する誤解

少し前にニュースや新聞で話題を集めていたのが、買収対象となる企業の取締役や親会社の事前の合意を得ずして、既存の株主から株式を買い集めて企業を買収する“敵対買収”です。強制的に会社の経営権を握ることで、M&Aを行います。敵対買収に関するニュースが多く取沙汰されたことによって、M&Aへあまり良い印象を持っていない経営者が多いようです。こうした誤解も、事業承継を躊躇させる原因の1つになっています。

参考資料

中小企業の事業承継に関するインターネット調査 - 日本政策金融公庫

事業承継に関する現状と課題 - 平成28年4月26日 中小企業庁 財務課

事業承継と事業譲渡を適切に使い分ける

以上のように、事業承継と事業譲渡には明確な違いがあり、それぞれにメリットとデメリットがあります。事業の承継または譲渡を検討している中小企業経営者は、2つの違いを明確に理解した上で、適切な方を選ぶことが大切です。そのために、事業を承継または譲渡する目的から決定していきましょう。

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