激変する経営環境 ー 先読みのできない時代の経営管理
〜第1回 先読みのできない時代に必要な経営管理とは?〜

 2020.06.01  一般社団法人日本CFO協会主任研究委員 櫻田 修一 氏

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このコラムでは、激変する環境に直面している企業の経営管理のあり方について「業績のマネジメント」に焦点をあて7回に渡り論じていこうと思います。CFO組織である経営企画部門や経理財務部門で予算実績管理や管理会計などの業務に初めて就かれた方、経営管理や予算を含む管理会計システムの導入推進をご検討されようとお考えの方々のお役にたてればと思います。

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企業の成長と業績のマネジメントの基本~キャッシュフロー

IoT、ビックデータ、デジタルトランスフォーメーション、IT人材が大きく不足しレガシーシステムのメンテナンスが困難になる「2025年の崖」、そして社会・自然と調和しながら持続的な成長を目指すSDGs(持続的な開発目標)・・・・様々な言葉でテクノロジーの急激な進歩と社会・自然との共存、経済環境や価値観の変化への対応が語られてきました。しかし現実の世界では想像もしなかったような大変厳しい事態が起きており収束の出口がはっきりと見えてはいません。経済はもとより社会環境も大きく変化するかもしれません。そして企業の業績も先読みが困難となっています。このような状況だからこそあえて企業の経営管理について考えてみたいと思います。

経営者は常に業績、すなわち売上や利益を求められますし、経済メディアでも決算期が近づくと黒字、赤字と報道されます。しかし企業の長期的な成長の証は何でしょうか。それは事業活動の成果として手許に残る“現金“が継続的に増加すること=”キャッシュフローの増大“です。

  • 事業の成長のためには人材、店舗、工場、研究開発や知的財産などの無形資産を含む先行投資が必要であり、さらにこれらを調達するための資金が必要(経営資源=ヒト・モノ・カネ+知識)
  • 損益計算書ではこれらの投資は使用期間にわたり償却するので1期の負担は小さくなるが、投資は支出した時点で全額をキャッシュフローの減少として捉える
  • 投資タイミングで一時的にキャッシュフローは減少するが、先々その投資を越える大きな収益を産みキャッシュフローの増大に繋がる

これが企業の成長であり、多くの研究で将来のキャッシュフローの増加は上場企業の株価の上昇と連動することが判っています(注)。短期的には“利益=売上-費用”が重要視されることが多いですが、売上を獲得するためには、費用=経営資源を事業のために“効果的に投入“していく必要があります。長期の先行投資と時間の長短の差はありますが同様の考え方であり、これが「経営資源配分」の意思決定です。このような投資や費用をどのように事業に投入していくかの意思決定を支える活動が「経営管理」、特に「業績のマネジメント」の最も基本的な事柄と言えるでしょう。

(注)上場企業の企業価値は将来獲得できるFCF(Free Cash Flow)の現在価値の総和となります。実証研究で上場企業の株価はFCFに連動するということが明らかとなっています。
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経営者の意思決定と予算実績管理

では経営者は何を見、考えて「経営資源」の使い道を決めるのでしょうか。もちろん天性の嗅覚、カンも非常に重要な要素ですが、それは「管理」とは異なる世界の話しです。予算と実績を比較して予算を超えた売上・利益を出している事業や製品・サービスに投資・費用を投入するのでしょうか。実はこれは「過去(実績は過去のデータ)、売上や利益が超過しているので将来もそのようになるだろう」ということを考え意思決定しているのです。

顧客の好み、嗜好の変化スピードが早い、競業他社や全く予想もしなかった企業が革新的な製品やサービスを世の中に出してマーケットを席巻してしまうような現代においては過去の実績と同じ将来が待っているとは限りません。大事なのは過去の分析ではなく、このままいけば将来はどうなるかの「将来予測」に基づく意思決定です。

そうであれば伝統的な予算実績管理はどのような意味を持つのでしょうか。それは将来を予測するための基礎情報を提供するために実施すると理解すべきです。測定できるデータは過去のものであり、将来は過去から予測するしかないからです。予算と実績の差異そのものを説明することは現代の「業績のマネジメント」においては重要な目的ではありません(評価には必要ですが)。

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将来の複数シナリオによる「業績のマネジメント」

将来の予測に基づく「業績のマネジメント」は大まかには以下のステップに整理でき、これを継続的に“廻して”いく必要があります。

  • 成果としての財務会計データはもちろん、マーケット、顧客の情報や企業内部の各組織の業務目標の達成状況を表す指標など様々な情報を収集・蓄積
  • それらの情報から今の事業が将来どのようになるのか仮説をおいて予測する
  • 将来予測値と計画・予算に乖離があるなら、乖離を埋める打ち手を考え、複数のビジネスシナリオを描く
  • 複数のビジネスシナリオをベースに経営資源配分の意思決定を行う
  • 成果が期待したものと異なる、また環境の変化があれば仮説や収集する情報を見直す

このような仮説による将来予測と複数のビジネスシナリオにより、経営者の意思決定を支援・促進する活動が「業績のマネジメント」のあるべき姿と言えるでしょう。

今、将来が本当に予測できない事態に直面しています。このような局面では仮定に基づく将来シナリオから売上収入・費用支出を算定し、さらに貸借対照表に計上されている短期保有の有価証券、営業債権、在庫や事業と関係のない遊休資産など現金化可能な資産を把握し、複数の将来キャッシュフローの仮説を立てる必要があります。当面の支払資金が不足する場合は借入など財務的な施策を早期に打ち出す必要があります。現在のような環境下で最も重要なのはキャッシュであることは言うまでもありません。

次回は「業績のマネジメント」のもう1つの重要な側面である、計画・予算の目標達成のため事業に関わる企業の各部門の方々に効果的に仕事をしてもらうための仕組み=KPI (Key Performance Indicator)について説明したいと思います。その上で「業績のマネジメント=EPM:Enterprise Performance Management」の概念についてあらためて整理します。

<連載> 激変する経営環境~先読みのできない時代の経営管理

第1回 :先読みのできない時代に必要な経営管理とは?
第2回 :KPIとEPM -KPI(Key Performance Indicator)とは何か
第3回 :EPM領域の働き方改革と Agile Finance “ -CFO組織のニューノーマルとEPM
第4回 :ビジネス計画の統合と予算管理制度の変革
第5回 :求められる経営情報の拡張~非財務資本への取り組み
第6回 :エンタープライズシステムとしてのデータの収集・統合・蓄積
第7回:EPMのニューノーマル

著者紹介

櫻田修一氏株式会社アカウンティング アドバイザリー
マネージングディレクター/公認会計士
櫻田 修一氏
(一般社団法人日本CFO協会主任研究委員)

1985年にアーサーアンダーセン入所、元アーサーアンダーセン ナショナルパートナー。監査部門での8年間の会計監査業務および株式公開支援業務を経て、同ビジネスコンサルティング部門に転籍。経営・連結管理、会計分野を中心とした、経営・業務改革コンサルティングおよびERPシステム導入コンサルティング、プロジェクトマネジメントを手がける 。2010年に創業メンバーとしてアカウンティング・アドバイザリーを設立。現在はIFRS財務諸表作成・導入コンサルティング、過年度遡及修正支援、さらに連結会計システム導入など会計関連プロジェクト実行支援サービスを提供している。デジタル・テクノロジーの進歩により財務・経理人材は何処を目指すべきか、という視点からAI・ロボテックスに取り組んでいる。日本CFO協会主任研究委員
NetSuiteプロジェクト管理

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