コーポレートガバナンスは基本方針が重要!不正行為に対する企業の取り組みと、これからの不正防止体制について

 2016.03.10 

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大企業から中堅・中小企業まで減らない企業不正

上場非上場にかかわらず企業不正が露呈し、その責務について取りざたされています。

不正発覚後の原因究明は以後の再発防止のために重要であり、経営者の責務を果たすためにも、昨今では多くの企業が第三者調査委員会を開催し、詳細調査が行なわれています。そうした取り組みの積み重ねもあり、再発防止にかかる具体策は徐々に広く認識されはじめているといえます。

このような不正防止に向けた不断の取り組みが世に浸透しつつある一方で、不正行為が減少しているかといえばそうともいえないようです。むしろこれまで性善説で組織構築をしてきた企業運営を見直す過程で、過去のウミが出始めているからなのかもしれません。

今回は、これまでの不正行為に対する企業の取り組みと、これからの不正防止体制について考えてみたいと思います。

企業不正の種類

不正には、

  1. 会社財産の横領、私的支出の会社への付け替えといった資産流用行為
  2. 架空売上、在庫水増しなどによる不正な財務報告行為
  3. 自己の職位・利権を悪用、キックバックの収受などの汚職行為

などがあげられます。

不正を働く以上、その実行には必ず理由があるもの。その理由は、大きく、私的横領といった個人的理由と、粉飾決算といった組織的理由とがあげられます。しかし、不正行為を働くには、実行者が不正を働く理由だけでは実現できるわけではありません。

不正行為の仕組み:不正のトライアングル

このヒトが不正行為を働く仕組みについては、米国の犯罪学者クレッシー氏の提唱した「不正のトライアングル」理論が広く知られています。
当該理論によれば、不正行為は、①動機・プレッシャー、②機会、③姿勢・正当化という3つの要素がすべてそろった時に生み出されるものととらえられています。

① 動機・プレッシャー

当人が、不正行為を実行するしかないと考えるに至る心理的きっかけのことです。例えば、「借金返済に追われて苦しんでいる」といった個人的理由、あるいは「あまりに非現実的な営業目標」といった組織的理由が、不正行為の動機付けの一端を担っていることでしょう。

② 機会

「不正行為の機会」とは、不正行為の実行を可能とする、あるいは容易に実行できそうな統制環境が放置されている状態のことで、現場担当者がやろうと思えばいつでも不正ができるような職場環境のことをさしています。例えば「管理の一切を一人の担当者に任せている」、「月次決算の締め処理をタイムリーに行わない」、「実印・銀行印の管理簿が存在せず、自由に印章の持ち出しができる」、そんな職場環境が不正行為の付け入る余地を与えていることになります。

③ 姿勢・正当化

「正当化」とは、不正行為が悪いものという倫理観が欠如あるいは希薄化し、むしろ積極的に受け入れる心理状態のことです。不正を働く際に生まれるであろう「良心の呵責」を、自己に都合の良い理由をこじつけ、精神的に乗り越えてしまう、そんな状態のことです。例えば、横領行為の場合、「私がいなければ、この会社はつぶれるのに、社長からは労いの言葉があるどころか、減俸を言い渡された。私がいなければ、つぶれるのだから、少しくらい会社のお金を持ち出しても罰は当たらないだろう」といった心理が、これにあたるでしょう。

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個人的理由の場合は、
① 生活が苦しい⇒②誰も気づかれずに金員を持ち出せる環境がある⇒③「あとで返せばよいから、ほんのちょっとだけ、少しの期間だけ」といった心理的サイクルが不正を誘発することになります。

組織的理由の場合は、
① 社長の利益必達の突き上げが厳しいが決算まで時間が無い⇒②監査人の目が届きにくい海外在庫があり、その計算方法を変えれば在庫は水増しできる⇒③「経営環境が改善すれば、あるべき計算方法に戻せばよい、そもそも社長からの無理なオーダーに応えるにはこれしかないのだから、やむを得まい、私のせいではないのだ」といった心理的サイクルが予想されるでしょう。

ちょっとした不正が、いつしか大胆な不正へと進化

しかし、一度、不正行為を働き、それがうまく機能してしまうと、その行為は「ほんのちょっと」のことではなく、往々にして大規模かつ大胆な行動を伴うケースが少なくないようです。

個人的理由であれば、最初はわずかな金額でも誰も見ていないことが分かれば、その不正行為が大胆になるのは当然のことです。自分にはチェックが機能していないことを自ら確認できたのですから。もっともこうした個人的理由による不正行為は、不正のチャンスを与えるような隙を減らすことで(全ての解消は不可能だとしても)一定程度に抑制することは可能であろうと思われます。

一方、組織的理由の場合は、組織的行為ゆえに、①動機、②機会、③正当化が整いやすいため、経営陣自らが不正を働こうとすれば、その実行は容易なもの。不正の端緒をある程度予想はできても証拠まで見つけ出すのはそう簡単なことではありません。

とはいえ、内部統制プロセスの構築は多くの企業で取り入れられ、組織内部のけん制機能は高まってきた背景もあり、以前は、例えばバブル時代にもたらされた不良資産を様々な技術を駆使してオフバランス化あるいはあたかも価値ある資産のように見せかけるといった中核事業外の粉飾行為に限定されていたように思います。

しかし、近年の中核事業そのものでの粉飾行為が確認されたのは、社会的にも大きな驚きをもって受け止められたように思います。

優良会社であればあるほど、よほどのことが無い限り、その会社もしくはグループ会社で現役生活を終えるため、そこで働く方々のマインドが内向きになりがちなのは、ある意味やむを得ないのかもしれません。そうした事実は、企業経営者の職歴において日本の上場企業のCEO(グループ外での経験2~3割)が諸外国のCEO(グループ外での経験8~9割)と比較して突出してグループ外での業務経験のない方が占めているという某コンサル会社の調査結果も、内向き志向を裏づけられているように思います。

「まあだいじょうぶだろう」を前提にした監査アプローチは通用しない時代に

経営者自らの不正行為は、内部統制を無効化するものであり、監査手続き上も重要な論点として以前より論じされてきましたが、そうした不正行為が超優良企業において発覚したという意味で、もはや一部上場企業においても、「まあだいじょうぶだろう」を前提にした監査アプローチは内部監査・外部監査ともに通用しない時代になったということなのかもしれません。
近年では、社外取締役といった運営体制の変更だけでなく、国外からCEO候補を登用するなど外部の経営人材の積極的登用が進み始めていることから、こうした経営環境は徐々に改善されていくことが予想され、内部統制機能の充実が期待されるところです。

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不正の防止は端緒を小さいうちに発見することが重要

事件・事故として明らかとなった不正の原因調査は重要なテーマではありますが、このうち難易度が最も高いテーマは、不正の端緒をコトが小さなうちにどうすれば発見が可能で、不正の「芽」を摘み取ることができるかにあるかと思います。

後付けで不正の原因を理解することはできても、不正の端緒はささいなことの見逃しから始まることが少なくないものです。たとえ、不正行為であっても長きにわたり続いてしまうと、それがさも当たり前のようになってしまう点にも注意が必要です。

IPO準備会社になって初めてダブルチェックの管理体制づくりに着手する企業も少なくないでしょうし、仮に内部監査体制を構築したところで、その実施者の素養が早期発見の可否を大きく左右するため、こうすれば大丈夫とはいえないものです。

内部監査・外部監査にかかわらず、ゼッタイ合致しなければいけないものがわずかに不一致、あるべきものが見当たらないそうした細かな不備を容認する体制が、いつしか不一致が当たり前の体制へと変化し、最後にはそもそもチェックすらしない体制まで変貌することも。ルール作りは作ること以上に、維持し続けることが難しいものです。

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モニタリングの重要性とは?

会計監査、内部統制監査、不正検査などなど企業運営において様々なモニタリング活動が行なわれていることと思いますが、モニタリング活動がそもそもなんのためなのか、そこで想定するリスクとはなんなのか、すなわち「手続の目的」と「想定リスク」ならびに「リスクが顕在化した場合に想定される検出事項」を検討し、事業運営に変化に応じて3要素を定期的に見直していくことが重要といえます。

もちろん、モニタリング活動を通じて、不正の端緒をある程度予想はできても、証拠を見つけ出すのは容易なことではありませんが、もし各担当の抱える情報がいつでもどこでも手に入る、もしそんな経営管理体制ができていたら、どうでしょう?

担当者にすべてを任せていてもなお、常時、ナマの経営情報が手に入れることができれば、そうそう不正を働こうにも「機会」は限定されます。
ヒトは他人に見られていると思えば、そうそう悪いことに手をだしにくいもの、モニタリング機能向上の第一歩として、経営情報・会計情報の見える化を検討してみるのも一案でしょう。

ちまたでニュースで露出されるニュースでは、管理の一切を任された管理一筋ウン十年のベテランが横領に手を染めていたというニュースが忘れた頃に出てきています。まじめに見えるのは自分の不正をそうでなく見せるための業務かもしれません。一担当にお任せ状態の企業運営をたまには見直してみることをお勧めしたいですね。

著者紹介

hanyu-samaひので監査法人 羽入 敏祐 氏

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所、上場企業等監査業務に従事。会計事務所にて会計・税務全般およびM&A関連各種業務事業会社では経営管理実務、IPO準備全般に従事。
監査・経営実務経験を踏まえたITインフラ提案力に強み

ひので監査法人について

ひので監査法人は、2009年5月 設立、大手監査法人の監査経験者と事業会社のマネジメント経験者から構成され、上場準備、中堅国内上場企業向けの効率的監査サービス、バックオフィス支援サービスの提供をしております。信頼される会計プロフェッショナルとしていかに成長し続けていくかを日々模索し、監査ならびにバックオフィス構築サービスの品質維持・向上に取り組んで参ります。

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