上場企業のコーポレートガバナンスの業務とは?

 2016.03.16 

  クラウドで予算業務・管理会計改革!

指名委員会等設置会社(旧委員会等設置会社)と監査等委員会設置会社とは?

2015年は、コーポレートガバナンスの優等生といわれてきた企業での大規模な不正会計が露呈し、日本の証券金融市場の社会的信頼性を毀損する一年となったように思います。

わが国においても、10年以上も前からパブリックカンパニー(公開企業)の社会的信頼性を高めるための法的インフラとして、企業運営に新たな枠組みが整備されるとともに、大手企業において徐々に導入・運用され、現在に至っています。

現在、会社法において定められる企業運営の枠組みには、従来から多くの企業で採用されてきた「監査役会設置会社」に加え、「指名委員会等設置会社(旧委員会等設置会社)」、そして、「監査等委員会設置会社」が整備されています。

「指名委員会等設置会社」は、2003年4月の商法改正による委員会等設置会社に端を発した組織形態で、取締役が指名委員会・監査委員会・報酬委員会という3つの委員会活動を通じて、執行役を選任するとともに、その業務執行の「監督(モニタリング)」を行なう形態です。

かたや、「監査等委員会設置会社」は、取締役3名以上(過半数は社外取締役)からなる監査等委員会が、取締役の業務執行を監査する組織形態で、従前、業務執行に偏りがちな取締役会の構成メンバーにモニタリング機能を有する人員を配置するという意味で、監査役会設置会社と指名委員会等設置会社の中間的組織運営と位置づけられます。監査等委員会設置会社では、監査等委員会に加え、会計監査人の設置も義務づけ、外部目線のチェック体制を充実させる一方で、業務執行の取締役に、一部の法定の事項を除く重要な業務執行の意思決定を委任できることとし、スピーディな業務執行をバックアップする、モニタリング型の組織運営が志向されています。

コーポレートガバナンスを堅持する組織について

(業務執行)マネジメント と (監督)モニタリング それぞれを、同一のものが担当すると、自己チェックに陥ることから、相互牽制が期待できません。そのため、マネジメントとモニタリングはそれぞれ別のものにより執行されるほうが、組織運営上、健全です。

従前の「監査役会設置会社」は、マネジメントは取締役会が、モニタリングは監査役会がという形態で、ある意味きれいに機能区分が果たされているのですが、取締役はもっぱら所管部門のマネジメントを行なうため、自己の業務への横やり、を懸念し、他の取締役の意思決定に遠慮が生まれてしまいがちですし、組織運営の根幹となる業務執行の責任者の選任権を有しておらず、監査役会としてのモニタリング機能にもおのずと限界があります。

対して、「指名委員会等設置会社」による組織運営であれば、取締役の役割はモニタリングと、その結果を踏まえた執行役の選定へと大きく変貌しますので、取締役に期待される役割も意識も大きく変わることが期待されています。

監査役会設置会社に比して、執行役の選任・解任の役割が、社外取締役を構成メンバーとする取締役会、あるいは指名委員会により決定される、すなわちこれからの企業運営のリーダーを決定するという極めて重要な役割が社外メンバーに託されたということになります。

あえて、社外メンバーに業務執行者の責任者の選任という重要な意思決定をゆだねる枠組みとしたのは、昨今のスピーディかつダイナミックな経営環境を乗り切るのは、既定路線の業務執行に陥りがちな社内メンバーによる意思決定では、企業運営をダイナミックに変えるきっかけが生まれない、そうした目に見えない機会ロスをするのであれば、(大規模であればあるほど陥りがちな)社内政治と一線を画する社外の目線で社内の意思決定を見てもらうほうがベターであろうという思考からもたらされたのかもしれません。

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ビジネスの軸足を、少しずつ、でも着実に変えていかない限り、事業存続は困難な今の経営環境であることは分かっていても、既定路線を変えることは想像以上に難しいもの。こうした社内で決めきれない大きな意思決定を後押しするための枠組みを新たに導入する、そうした視点から組織運営体制を取捨選択してみることも一案でしょう。

もちろん、いかに制度的枠組みとしての機能は高くとも、そもそも既定路線を変える必要が無いと思うメンバーだけから構成される組織であったとなれば、何も変わらない結果をもたらすことも少なくことでしょう。限られたメンバーしかいないなかで、無理に枠組みの変更を図るくらいなら、逆に、既存の枠組みで役割を明確にしたほうがよほど機能的な場合も当然にあることでしょう。

法的枠組みが変わったからといって、経営実態が急に変わるものではなく、当事者の意識変革があってはじめて、枠組みは機能することになるのですから。

コーポレートがバンンナンスの本質

マネジメント主体の企業経営が中心であった企業が、いきなりモニタリング型の経営に軸足を切ろうにも、取締役会において業務に対し深い知見を有する人材配置は必然であり、結果、過去に執行役として従事してきた方が取締役会の構成メンバーになりがちです。時に彼らが手がけてきた事業の意思決定を取締役会にゆだねられたとしても、果たして客観的かつ冷徹な意思決定ができるかとなれば、なかなか難しいものです。仮に、社外取締役が、事業の方向性に疑問を投じたところで、自ら業務執行をしてきた取締役との間にはビジネスに対する情報量と知見に大きな格差があり、当事者の意見を論破するのはそう簡単ではないであろうこと容易に想像されます。

つまるところ、マネジメントとモニタリングの役割を明確に区分して、その役割を演じることが、企業運営の持続に貢献しうるものであり、そうした思想を共有する取締役により企業運営の重要な意思決定を下す企業文化の育成が、パブリックカンパニー(公開企業)を目指す企業に求められるコーポレートガバナンスの本質なのかもしれません。

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金融庁のコーポレートガバナンスコード原案における取締役会の果たす役割

企業経営のリーダーには、変化の激しい経営環境の中でリスクをとりながらも、新たな価値創造を実現するという難しい役割を担っていることは今も昔も何ら変わるものではありませんが、リーダーを支える他の経営陣の果たすべき役割は、法制度改革を経てずいぶんとクリアになりました。企業がどの組織運営の枠組みを選択するかで、その目指す組織運営の方針と各役員の機能と責任の範囲を明確にされたといえるでしょう。

パブリックカンパニー(公開企業)が遵守すべきルールとして2015年3月金融庁により開示された「コーポレートガバナンスコード原案」には次のような項目が記載されています。

第4章 取締役会等の責務

基本原則4

上場会社の取締役会は、株主に対する受託者責任・説明責任を踏まえ、会社の持続的成長と中長期的な企業価値の向上を促し、収益力・資本効率等の改善を図るべく、

(1)  企業戦略等の大きな方向性を示すこと

(2)  経営陣幹部による適切なリスクテイクを支える環境整備を行うこと

(3)  独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと

をはじめとする役割・責務を適切に果たすべきである。

こうした役割・責務は、監査役会設置会社(その役割・責務の一部は監査役及び監査役会が担うこととなる)、指名委員会等設置会社、監査等委員会設置会社など、いずれの機関設計を採用する場合にも、等しく適切に果たされるべきである。

どの運営形態を選択するにせよ、モニタリング機能の充実は求めながらも、果断にリスクにチャレンジできる環境を提供することが「取締役会」の果たすべき役割という記述は、注目すべき点といえます。

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これからの企業統治の流れと基幹システムの重要性

かくいう私も、どちらかといえば、職業柄、モニタリングの役割を期待されるケースが多いこともあってか、新規事業に対する視点はどうしても将来損失リスクだけに目が向きがちで、リスクテイクを支える環境整備については見落としがちです。

しかし、企業経営において変わるチャンスを逸失することが持続的企業運営における本当のリスクであることを考えれば、むしろ失敗をおそれずチャレンジする企業家精神あふれた事業提案を歓迎し、その実施結果に対する説明責任については経営陣に全うしてもらう。

あとはその説明結果を、社外取締役等が冷静にチェックしていくというのがこれからの企業統治の流れなのでしょう。

新たな事業を行なう以上、必ずついて回るリスクに対し、如何に実効性の高い監督を行なうかですが、同原案の原則4-3にて「取締役会は、独立した客観的な立場から、経営陣・取締役に対する実効性の高い監督を行うことを主要な役割・責務の一つと捉え、適切に会社の業績等の評価を行い、その評価を経営陣幹部の人事に適切に反映すべきである」と論じ、業績等の評価をいかに人事評価に適切に反映させるかをポイントとしています。

モニタリング機能を充実させる制度を構築するにせよ、その実効性を保つ意味では、企業運営に係る様々な経営情報をいかに正確かつ効率的に集約していくかが結局のところ重要になる訳です。

組織運営の仕組みもクリアになる中、経営の成果を客観的かつ正確に提供する経営情報の管理能力もますます求められることになるのではないでしょうか。

このようなモニタリング機能を働かせるには、そもそも客観評価できず、偏った監督において不正の温床になりがちな従来の経営基盤やシステムそのものが問題であり、そのようなことが起こりにくい仕組みや基盤をシステム面から実装するいうことも一つの有効な手段なのではないでしょうか。

著者紹介

hanyu-samaひので監査法人 羽入 敏祐 氏

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所、上場企業等監査業務に従事。会計事務所にて会計・税務全般およびM&A関連各種業務事業会社では経営管理実務、IPO準備全般に従事。
監査・経営実務経験を踏まえたITインフラ提案力に強み

ひので監査法人について

ひので監査法人は、2009年5月 設立、大手監査法人の監査経験者と事業会社のマネジメント経験者から構成され、上場準備、中堅国内上場企業向けの効率的監査サービス、バックオフィス支援サービスの提供をしております。信頼される会計プロフェッショナルとしていかに成長し続けていくかを日々模索し、監査ならびにバックオフィス構築サービスの品質維持・向上に取り組んで参ります。

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