社内で分散化したシステムを統合する手段として、近年ERPを導入する企業が増えています。本記事では、ERPの概要や導入のメリット・デメリット、具体的な手順やポイントを詳しく解説します。また、よくある失敗原因や他社の成功事例も紹介しますので、導入を検討している担当者はぜひ参考にしてください。
ERP導入の目的
ERP(Enterprise Resource Planning)導入の主な目的は業務の効率化です。多くの企業は最新技術の利活用を重要事項に位置づけており、ERPの導入、特にクラウド型の導入事例が増えています。
その背景には、経済産業省がDXレポートの中で提示した「2025年の崖」があります。2025年の崖とは、老朽化したシステム(レガシーシステム)の更新が進まない場合、2025年以降に最大12兆円の年間経済損失が発生する可能性があるという予測を指します。こうした背景から、最新技術の利活用や情報の一元化が可能なERPへの注目が高まっています。
参照元:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」克服とDXの本格的な展開~(METI/経済産業省)
ERP導入にあたり、近年広まっているのが「Fit to Standard」です。従来は、自社の業務に合わせてERPの仕様を変更する「Fit & Gap」が主流でした。しかし、この方式は導入期間が長期化し、コストが膨らみやすい問題がありました。一方、Fit To Standardは、ERPの仕様に業務を合わせていく真逆のアプローチをとります。カスタマイズを最小限に抑えることで、ERP本来の効果を発揮しやすく、業務効率化にもつながりやすいのがFit To Standardのメリットです。
ERP導入のメリット
ERPは、企業経営に必要な基幹業務を一元的に管理・運用するためのソリューションです。リソース(資源)が分散している企業では、システムが分断化され、非効率な状況に陥りやすい傾向にあります。近年では、そうした課題に対応すべく、ERPの導入を進める企業が多く見られます。ERPの導入によってさまざまなメリットが生まれ、課題の改善につなげることが可能です。ここでは、ERP導入の主な3つのメリットについて詳しく解説します。
自社リソースやデータを一元管理できる
企業が経営を維持し成長させ続けるためには、ヒト・モノ・カネといった自社のリソースや、社内に散在しているさまざまなデータを一元管理することが重要です。
多くの企業では、顧客データを営業部門、販売管理を経理部門といった形で部門ごとに管理しているケースがあります。このような状況では、営業担当者が顧客にアプローチする際に、経理部門から販売履歴を取り寄せる必要があり、業務が煩雑化するだけでなく、情報漏洩のリスクも高まります。また、少子高齢化の影響により、多くの企業で人材不足が課題です。
ERP導入によって、自社にあるすべてのデータを一元管理し、部門を越えた情報共有もスムーズに行えるようになります。これにより、社内リソースやデータを正確に把握できる体制が整い、無駄な業務を削減するとともに、従業員が本来のコア業務に集中できる環境を構築できます。
セキュリティ対策・内部統制の強化に繋がる
従来は、部門ごとに独自のシステムやツールを導入する方法が主流でした。しかし、それではセキュリティの強度にバラつきがあるうえ、何か問題が起きたときにも対処が難しいデメリットがありました。ERPを導入すれば、各部門のシステムを統合することでセキュリティの強化ポイントが明確になります。問題が起きた際にも迅速に原因を究明し、次のアクションを打つことが可能です。
また、昨今はコンプライアンス意識の高まりを受け、内部統制を強化することが各企業に求められています。ERPを活用したリソースやデータの一元管理により、不正防止やコンプライアンス違反防止といった内部統制の強化にも大きく貢献します。
迅速かつ的確な経営判断に貢献する
昨今は世界的な自然災害や感染症の流行、国家間紛争などの影響で、先行きを見通しにくい「VUCA(ブーカ)の時代」に突入しています。これまでのように経験や勘に頼ったやり方では、正しい経営判断が困難になっているのが現状です。そこで、社内のリソースやデータを管理しやすい状態に整え、ビジネスに活かすERPが注目されるようになりました。ERPの導入・活用により、迅速かつ的確な意思決定ができるようになると大きな期待が寄せられています。ERP導入のデメリット
ERP導入にはメリットがある一方、以下のデメリットが挙げられます。- 導入と運用にコストがかかる
- 部門ごとに散らばったデータを正確に整理する必要がある
- 専門知識を持つ人材が必要になる
- 製品の選定に手間と時間がかかる
- 一時的に現場の負担が大きくなる可能性がある
ERPは企業活動全体に関わるシステムであるため、トップダウンで導入を進めるのが理想ですが、事前に現場の理解を得ることも大切です。経営層と現場が一丸となって導入に取り組むことで、効果を最大化できます。
ERP導入手順とポイント
ERPは業務のプロセスを一新でき、より強固な組織づくりに役立ちます。一方で、ERPは大きな変革を伴うため、業務の延長上で行っていては、価値を最大化できない場合があります。ERP導入に際しては、さまざまな工程が不可欠であり、思い立ってすぐに導入することも困難です。そのため、自社で本格的にERP導入を検討するなら、あらかじめ手順や注意すべきポイントを押さえる必要があります。具体的には、以下の6つのステップが重要です。
1. 体制作りをする
ERPをスムーズに導入するには、導入目的の明確化・スケジュール管理・各部署との連携を進めていくために、導入体制の整備が欠かせません。
まず、責任の所在をはっきりさせるため、各部署からプロジェクト担当者を選任します。選定できれば、プロジェクト担当者を中心に、組織内で現状のヒアリングを実施します。ヒアリング結果を持ち寄り、ERPに組み込めるのか否か、全体の導入に向けて検討していくのがおすすめの方法です。併せて、ERP導入後に担当者がスキルを十分に発揮できるよう、社内外の研修などを行い、教育体制を整えることも重要です。
経営陣や関連部署には、前もってプロジェクトに関する説明を行い、現場も含めて社員が一丸となって協力する体制を構築しなければなりません。もし、現場と経営層との間で連携を取らずにERPを導入した場合、運用効率が上がらない、システムが使用されないといった事態になりかねず、業務に活かされないリスクが高まります。
2. 導入スケジュールを立てる
導入体制が整ったら、次はスケジュールを立てます。ERP導入は企業全体を巻き込む大規模なプロジェクトになるため、綿密な計画をもとに進めていくことが肝心です。
導入までの期間は、ERPの種類やカスタマイズの量によって変動します。ERPのプロジェクトチームを立ち上げてから、要件定義をするまでには1~2ヵ月程度かかるのが一般的です。また、クラウド型ERPはオンプレミス型に比べて、サーバー構築が不要な分、導入期間が短縮される傾向があります。
ERPの選定後は、業務改善案の作成や社内教育の実施が必要です。運用に至るまでには数ヵ月単位の時間が必要になるため、プロジェクトチームで全体スケジュールを明確にし、余裕を持った計画を立てることが求められます。
3. 課題確認と要件定義をする
課題確認と要件定義の段階では、プロジェクトの担当者が中心となり、ERPに必要な機能と不要な機能を洗い出します。必要な機能があまりに多すぎる場合、アドオン開発(追加での開発)が増え、コストが膨らんでしまいます。そのため、各部署の意見を汲み取りつつ、優先順位をつけて取捨選択するのがポイントです。
要件定義とコストの算出が完了したら、デモンストレーションの作成をベンダーに依頼します。実際に画面を見ながらテストすることで、ERPが自社の業務に適合しているかを確認できます。もし見積もりが予算を超えた場合は、要件定義を見直すか、ベンダーに代替案を提示してもらうことで、コストを調整することが可能です。
ERPは、業務プロセスを一新するための大がかりな変革ツールです。そのため、さまざまな角度からアプローチを繰り返して、ひとつずつ案件を定義していく必要があります。
4. ERPを選定する
ERPパッケージは、さまざまなベンダーから提供されています。要件定義後は、以下の4つのポイントを軸に、自社に合ったものを選定してください。
オンプレミスかクラウドか、慎重に導入形態を選択すること
ERPの導入は企業にとって大きな変革となるため、オンプレミス型とクラウド型のどちらを選ぶかを慎重に検討する必要があります。その際、自社のリソースをどこまで活用できるかがポイントです。
クラウド型は、運用の大部分をベンダーに任せられるメリットがあります。手間とコストを削減しつつERPを運用できるため、リソースに限りがある中小企業におすすめです。ただし、ネットワーク経由でサービスを利用することになるため、セキュリティ面に注意する必要があります。
オンプレミス型は、カスタマイズ性が高いというメリットがある一方で、インフラの整備や運用にコストがかかる点がデメリットです。クラウド型に比べて初期費用やランニングコストが負担になりやすいため、後々のコストパフォーマンスに問題が生じるおそれがあります。
クラウド型のメリットや選び方については、以下の記事で詳しく解説していますので、参考にしてください。
拡張性・カスタマイズ性があること
ERPが自社の業務に完璧にフィットするとは限らないため、カスタマイズの自由度をあらかじめ確認しておくことが重要です。特に、事業や組織体制の変化が想定される場合、新しい機能を柔軟に追加できるかどうかが重要なポイントです。
一般的にERPは幅広い機能要件に対応可能ですが、製品によっては細かな制約もあります。また、不必要な機能やサービスが含まれている製品を選んでしまうと、余計なコストが発生することもあります。コストを抑えながら自社のニーズに合うERPを選定するには、「どこまで対応可能か」をベンダーに詳細に確認することが不可欠です。
セキュリティ機能が十分であること
ERPは会社の基幹を担うシステムなので、ウイルスの感染やハッキングなどによる被害を受けると致命的なダメージにつながりかねません。情報を集約できるというメリットがあるものの、裏を返せば情報漏えいなどのセキュリティリスクも高くなっています。そのことを踏まえ、慎重に判断する必要があります。アクセス権限やセキュリティ認証など、セキュリティが万全なものを選ぶようにしましょう。
サポート体制が充実していること
さまざまな工程を経て導入ができると、ひとつの区切りを迎えるものの、運用するとどうしても不具合や改善点が出てくるものです。想定していたものと違う不具合が起こることも考えられるので、業務時間中に対応可能なヘルプデスクや導入前トレーニングの有無などを確認し、サポート体制が充実しているものを選ぶようにしましょう。
5. ERPを導入する
適切なERPを選定したら、導入前の準備段階です。まずはERPを運用するにあたって、基本的なルールを整備し、アクセス権限やフロー、注意点など、あらゆる角度から不具合を生じさせないようにマニュアルを作成します。
マニュアル作成と導入までのトレーニングや研修など、実施すべき具体的な事項とスケジュールが定まれば、全従業員に通達して情報を開示します。ERPへの移行は大がかりなため、相当の準備期間が必要です。ぎりぎりになって慌てないよう、余裕を持ったスケジュールで周知するようにします。また、実際の使用方法や、不具合が出たときの対処法・注意事項なども含め、担当者向けの研修なども段階的に実施する旨をアナウンスすることを推奨します。
導入にあたっては、使い勝手の検証や不具合の事例を共有し、ベンダーと連携しながら検証を重ねていくことも大切なステップです。最初はどんなに小さなことでもリーダーへの報告を義務づけ、運用が安定するまでトライアンドエラーを繰り返す必要があります。
6. ERP導入後の対応
ERPは、導入すれば終わりではありません。効果測定を行い、導入後も問題なく運用できているかを確認する必要があります。また、担当者がトラブルなく使えるスキルを持っていなければ、ERPの導入効果を最大化できず業務改善にもつなげられないため、教育体制も重要です。
ERPの運用ルールや使い方などを具体的に策定しておくことで、わかりやすく、より浸透しやすくなり、社内情報を適切に管理できるようになります。ERP導入における効果測定も定期的に行いやすくなります。
ERPの導入直後は業務体系が変わるため、現場でのトラブルや、使い方に関する質問などが増えがちです。社内でのサポートが追いつかない場合はベンダーへ相談し、ERP導入支援サービスなどを利用することも一案です。
[RELATED_POSTS]ERP導入の失敗原因を把握しておこう
業務改善のためにERPを導入しても、100%想定通りに進むとは限りません。さまざまなハードルをクリアするには、よくある失敗原因を事前に把握し、同じ失敗を繰り返さないよう心がけることが重要です。ここでは、ERP導入時に注意すべき代表的な失敗原因を3つ厳選し、それぞれ解説します。
ERPを利用する現場の理解が足りていなかった
バラバラに管理されていたデータを一元化することで、部署間の連携をスムーズにできるのがERPの強みです。しかし、これは各部署がERPについて正しく理解していることが大前提です。現場の理解が不足していると、部署間の連携が不十分になり、導入が失敗する原因となります。
特に、ERP導入の目的やメリットが現場に十分に伝わっていない場合、「使い慣れた既存のシステムのほうが便利」と考えられ、現場での活用が進まない可能性があります。その結果、従業員の不満が高まり、ERPが形だけの存在となってしまい、十分な効果を発揮できないケースが多く見られるので注意してください。
要件定義が不十分でアドオン開発が増えた
早く製品を選定して効果を出したいと焦るあまり、要件定義が不十分なままERPの導入を進めてしまうケースがあります。近年では、さまざまな機能を備えたERPが登場しており、好みの製品を企業が自由に選べる環境になっています。しかし、選択肢が増えたことで、要件定義を疎かにして安易に製品を選んでしまうのがよくある失敗例です。
冒頭でも触れたように、自社の業務に合わせてERPの仕様を変更するFit & Gapでは、どうしてもコストが膨らみます。そのため、無駄なコストを抑えて導入を成功させるには、事前に入念な要件定義を行い、ERPの標準仕様に業務を合わせていくFit to Standardの方式が重要です。
ERP導入が目的化してしまった
ERPは、あくまで目的達成の手段に過ぎません。しかし、導入には時間も労力も相当かかるため、時間経過とともにERPの導入が目的化してしまうこともよくある失敗例です。
こうなると、導入したことで満足し、適切に運用していくためのリソース不足に陥ってしまいます。結局、コストをかけて大がかりなERPを導入しただけで、業務改善やビジネスに結びつかないといった事態になりかねません。
このように、ERP導入はなかなか一筋縄ではいかず、多くのハードルをクリアする必要があります。しかし、あらかじめこうした課題を認識しておけば、よりスムーズな導入を実現できるはずです。
ERPの導入事例
ここからは、大手ベンダーであるOracle社が、長年の経験と実績を活かして導入してきたERPの事例について4つご紹介します。ERPを導入した他社の成功事例を知ることで、導入前後のイメージが湧きやすくなります。ぜひ参考にしてみてください。
本田技研工業株式会社(Honda)
これまでHondaグループでは、それぞれの調達部門が異なるプロセスやシステムを用いて業務を行っていました。しかし、グループ全体で経営資源を有効活用するためには、コストの最適化や業務効率向上に向けた、間接材調達業務の変革などが不可欠です。
そこで、間接材の調達プロセスを標準化し、システムを統合させたいとの思いから、「Oracle Cloud Procurement」を採用する運びとなりました。このERPパッケージは、まず調達戦略の立案に必要なデータを一元的に蓄積・分析できるのが特徴です。外部環境の変化にあわせて最新のベストプラクティスを選びながら、追加コストが最小限に抑えられるよう調達できるのも評価のポイントとなっています。
また同社では、取引先の選定理由や過去の取引実績などをシステム上に蓄積して、予実管理や最適な取引先選定に向け、データドリブンな分析も強化されています。
株式会社三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)
金融業界大手のSMBCグループでは、これまで各社で独自にシステムを運用していました。しかし、グループ全体で業務プロセスを標準化し、ひとつの会計基盤へ集約するために「Oracle Fusion Cloud ERP」の採用を決めました。
その結果、グループ全社での会計業務や購買・経費管理業務の効率化や、コスト削減、ガバナンス強化が実現しました。これにより、経営戦略の策定へ向けて素早い意思決定が可能になっています。また、日本オラクルのサポートを受け、段階的にグループ各社へ導入されました。
株式会社みんなの銀行
株式会社みんなの銀行は、2021年5月28日にサービスを開始した新しいデジタル銀行で、口座開設から入出金、振込までを、スマートフォン上で完結できるのが強みです。
同行は刻々と変わる外部環境に対応するため、「Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning (ERP)」で次世代のデジタル会計基盤を構築しました。結果として、新たな金融サービスを提供する際に開発コストを抑えたり、顧客の取引にまつわるデータを一元管理・分析したりできるようになったとのことです。
運用や保守コストを低減させながら、90日ごとの機能アップデートによって常に最新のテクノロジーを使えることで、外部環境変化に対応できる点にも魅力を感じています。
パーソルテンプスタッフ株式会社
パーソルテンプスタッフ株式会社は、既存の人材派遣事業に加え、BPO事業を第2の柱として、人と組織にかかわる幅広い事業を展開している企業です。
同社は事業拡大にあたり、経営情報の見える化や、BPOにおける煩雑なサービス契約、スタッフ管理業務の効率化と最適化などを目的に、「Oracle Fusion Cloud Enterprise Resource Planning (ERP)」を採用しました。その結果、プロジェクトの一元管理によって属人化を防ぎ、業務効率化を図れるようになりました。また、可視化による分析が可能になり、スピーディな意思決定で戦略的な事業経営を実現しています。
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まとめ
ERPは、社内のリソースやデータを一元管理することで、正確かつ迅速な経営判断に寄与するソリューションです。業務効率化を図れるうえ、本来のコア業務に専念できたり、セキュリティ強化につながったりするメリットも期待できます。
ただし、導入にあたっては長い期間をかけて慎重に検討を進め、確実にステップを踏んでいくことが大切です。今回ご紹介したプロセスはあくまで一例のため、自社の課題や目的を明確化したうえで、導入前、開発段階、導入後の運用までの全体像をイメージし、全社で共有しながらプロジェクトを進めていくとよいでしょう。その際は、よくある失敗の原因や他社の導入事例などもぜひ参考にしてみてください。
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