近年普及している「IFRS(アイファース、イファース)」。よく聞く経理用語ですが、IFRSとは一体何なのか?その正体は国際的な財務報告基準であり、日本でも徐々に適用企業が増えています。本稿ではそんなIFRSについて紹介します。
IFRSとは?
IFRS(International Financial Reporting Standards)は国際財務報告基準といって、世界共通の会計基準のことです。英国ロンドンを拠点とする民間団体であるIASB(International Accounting Standards Board:国際会計基準審議会)によって策定されています。
IASBの前身となるIASC(International Accounting Standards Committee:国際会計基準委員会)の時代に作られた会計基準の一部が継承されており、IFRSはIFRIC(International Financial Reporting Interpretations Committee:IFRS解釈指針委員会)の前身となる、SIC(Standing Interpretations Committee:解釈指針)の総称にもなっています。
細かく説明すると少々難解に思えますが「要は、IFRSは国際的に標準化された会計基準であり、それを策定しているのがIASBという組織なのだな」と認識していただくのがよいでしょう。
なぜIFRSが策定されたのか?
貿易など国境を越えたビジネスであっても、国や地域ごとに異なった会計基準を運用するのがこれまでの常識でした。しかし、経済活動のグローバル化に伴い、一定の会計基準で統一する必要性が高まっています。特に財務諸表においては、会計基準が異なっていると比較可能性を確保できないことも多く、やはり国境を越えた会計基準が必要だと提唱されたことから、IFRSが策定されることになりました。
IASC(IASBの前身)がIAS(International Accounting Standards:国際会計基準)の作成に着手したのは昭和48年(1978年)であり、平成5年(1993年)にはIASの改訂作業がすべて完了しています。平成13年(2001年)にはIASCより強固な組織になるためIASBに改組され、それ以降はIFRSの改訂が進められています。
IFRSにとって大きな転機になったのが平成17年(2005年)であり、EU(欧州連合)において、連結財務諸表などを比較しやすくする目的で上場企業でのIFRが強制的に適用されています。さらにEU域外の情報企業にも「IFRSまたはこれと同等の会計基準」を適用することが義務付けられ、それを機に世界中の国々でIFRSを自国の会計基準として使用する動きが活発になりました。平成29年時点では、世界130ヵ国以上でIFRSが採用されています。
日本のIFRSへの対応状況
世界中でIFRSが適用されていく中、日本ではASBJ(Accounting Standards Board of Japan:企業会計基準委員会)がIASBと共同で「コンバージェンスプロジェクト」を進めてきました。コンバージェンスとは、自国の会計機運とIFRSの差異を縮小することによって、IFRSと同様な会計基準を採用しようという取り組みです。
しかし、米国の動向を受けてIFRS採用に向けた議論が活発になり、ASBJ企画調整部会は平成21年(2009年)6月に「我が国における国際会計基準の取扱いについて(中間報告)」を発表しました。その内容は、IFRSの任意適用については平成22年(2010年)3月期の年度財務諸表から、一定の上場企業の連結財務諸表に認め、強制適用について平成24年(2012年)を判断の目安とする、というものでした。この中間報告により、連結行先の考え方が示されたものの、会計基準のコンバージェンスをどのように進めていくかという議論になり、平成22年8月のASBJでその検討を行っています。
さらに、単体財務諸表のコンバージェンスを当面はどのように取り扱うべきなのかについて、同年9月に公益財団法人財務会計基準機構の中に、検討会議が設置されました。その後、検討会議では個々の会計基準ごとに関係者の意見を徴収検討の上、対応の方向性について関係者の考え方を集約し、平成23年(2011年)4月に報告書が公表されています。
同年6月には当時の金融担当大臣が、「少なくとも平成27年(2015年)3月期の強制適用は検討しておらず、仮に強制適用する場合でもその決定から5年ないし7年程度の十分な準備期間を設定する」という旨の発言をしています。
平成24年(2012年)7月には「国際会計基準(IFRS)への対応の在り方についてのこれまでの議論(中間的論点整理)」が公表されました。その内容は、連単分離、IFRSの影響を受けないようにする中小企業等への対応を前提に、日本の会計基準の在り方を住まえた主体的コンバージェンスと任意適用の積み上げを図りつつ、IFRS適用の在り方についてその目的や日本の経済や制度などにもたらす影響を考慮し、最適な対応を検討すべきであるというものです。
IFRSが日本企業の会計にもたらす影響とは?
では、日本企業がIFRSを導入した場合、どういった影響があるのか?
1.細則主義から原則主義
IFRSは原則主義ですので、解釈の仕方に自由度が高く、他の会計基準にありがちな細かい規定や数値化された基準等は定められていません。さらに、会社の根拠を外部に明確に示す必要性があり、注記が多く必要になります。日本の会計基準は、それとは真逆の細則主義なので、IFRS導入によって会計基準や解釈指針、実務指針等は180度変化します。
2.公正価値測定方法の新基準
平成23年(2011年)にIASBが公表した「公正価値測定」にて、IFRSにおける公正価値の測定方法が新基準へ統一されており、これは公正価値測定の時点で変更するものではなく、IFRSが公正価値測定を要求または容認する場合における基準がポイントになります。
3.財務状態計算書(賃借対照表)重視
IFRSでは包括利益の算定が求められます。さらに、投資家や債権者が必要としている資産価値を評価する情報として、賃借対照表が用いられますが、その際は含み損益まで含めた賃借対照表を重視する考え方があります。
4.会計方針の統一
日本基準では、同一環境下で行われた同一の取引などについては、原則として統一する方針が採られています。しかしながら、IFRSでは類似する状況における同様の取引および、事象について統一することになります。
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IFRS導入のメリット
IFRSを導入することで企業は財務諸表の透明性など多くのメリットを得ることができます。IFRSはグローバルレベルで財務会計の世界共通言語的な意味合いをもち、IFRS導入により投資家やアナリストといったステークホルダーに対して信頼性および有用性の高い財務情報を提供することが可能になります。
また、共通の言語を使うことによる海外子会社などを含む企業全体の統一された会計基準で企業を運営することが可能になるだけでなく、業績管理や評価などもしやすくなるメリットがあります。さらにこれらは財務報告プロセスの効率化および透明性確保にも繋がります。
IFRSの適用に備えよう
日本でのIFRS強制適用は義務ではありませんが、グローバル市場に展開する企業にとっては対応は必須と言っても過言ではありません。これら前提知識を踏まえた上で経営管理を行うようにすると良いでしょう。
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