ニューノーマル時代を見据えた経理・財務部門におけるDXの進め方
〜第5回 データドリブンによるレジリエンス(回復力)の獲得

 2021.07.19  株式会社クニエ

前回のコラムでは、「Agile Finance Reimagined」レポートの提言を参考に、企業が危機を脱却して事業拡大を実現するためにCFO組織がとるべき戦略を述べました。第5回コラムではCFO組織がとるべき戦略のうち、データの分析・データの利活用といった「データドリブン」を業務に取り入れることで、企業が環境変化を成長のチャンスに変えるレジリエンス(回復力)を強化できる点を解説します。

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オペレーショナルプロセスのデータ化がアジリティ(俊敏性)を強化する

第4回では、レジリエンスを高める戦略として「生産性の強化」を述べました。その「生産性の強化」には2つの側面があり、1つはオペレーションコストの削減です。第2回で解説した「取引のデジタル化」に取り組むことでP2P(Procure to Pay)やO2C(Order to Cash)といったオペレーショナルプロセスをData to Dataでマニュアル業務を廃止してオペレーションコストを削減し生産性の向上を獲得することにあります。

もう1つの側面がオペレーショナルプロセスのデータ化です。オペレーショナルプロセスのデータ化を進め、例外の発生やボトルネックを可視化し、現場マネージャーが適切なタイミングで自ら是正措置をとれるようにすることです。急激な市場変化に対応するために、企業の事業部門は、新たな製品・サービスの提供や従来と異なるビジネスモデルを日々構築し続けています。新製品・新サービスの提供は、受注・販売や発注・購買などのオペ―ショナルプロセスに影響を与えることがあります。読者の皆様も、新製品・新サービスの提供にあわせて、業務プロセスや会計処理など新たな業務設計を行った経験はないでしょうか。新製品・新サービスの提供により従来の業務プロセスに追加・変更が発生したり、業務量が大幅に増加したりすると、これまでの要員体制では対応しきれず、業務処理の停滞や業務品質の低下、潜在リスクが見過ごされることが懸念されます。新製品・新サービスの提供にあわせてオペレーショナルプロセスをタイムリーに変更することができれば、企業全体のアジリティを高めることになり、レジリエンスの強化につながります。

オペレーショナルプロセスを監督する現場マネージャーには自身が監督しているメンバーの作業状況を把握し、例外プロセスの発生頻度や停滞処理の有無を客観的な事実として認識し、その事実に基づいて適切に是正措置を講じていくことが求められます。そのためにはメンバーの業務処理の実施状況を、主観を排除した客観的な事実としてタイムリーかつ正確にモニタリングする必要があり、そのためのデータプラットホームが必要であると考えます。

オペレーショナルプロセスのデータプラットホームとしてのプロセスマイニング

オペレーショナルプロセスの可視化を実現するデータプラットホームとして「プロセスマイニング」ソリューションが有効ではないかと筆者は考えています。「プロセスマイニング」では、取引品目・取引日・取引先・取引金額などのトランザクションデータに、見積依頼や見積書の受領、見積書の変更依頼、請求書の受領、支払いの申請などの業務処理イベントと、処理イベントの実行日時を紐づけます。これにより業務の処理順および処理日時を可視化することができるようになります。また、業務処理の総量や平均的なリードタイム、見積依頼から見積書の受領までに要している期間、見積変更依頼が発生している割合、見積変更依頼が生じる取引先や取引品目の傾向、などを客観的なデータとして把握できます。現場マネージャーはこれらのデータを自ら活用することで、オペレーショナルプロセスの問題点を明確にし、具体的な改善策を立案できるようになります。経験や勘などの主観に依存しないため、上長やメンバーの納得感が得られやすくなります。また、データを継続的にモニタリングすることで改善策のフィードバックを得ることが可能になり、改善策を継続するか、改善策の見直しを行うかなど、継続的な業務改善を推進することが可能になります。これにより企業全体のアジリティが強化できると考えます。

画像1-1(出典:クニエ, プロセスマイニング概念図)

「プロセスマイニング」は「取引のデジタル化」と同様に、P2PやO2CなどEnd to Endのプロセス単位に取り組むことが可能です。また、対象となる業務プロセスにシステム外のマニュアル作業が多いと「プロセスマイニング」による業務プロセスの可視化が困難となるため、「取引のデジタル化」でData to Dataをベースとした業務プロセスを構築しつつ「プロセスマイニング」に取り組むと相乗効果が高い、といえます。

デジタル時代におけるCFOと財務部門のあり方とは?
経験や勘からの脱却、データ主導の意思決定が 企業成長には不可欠

データドリブンがCFO組織をバリューマネージャーへ変革する

CFO組織は企業の中でさまざまな役割を担っています。会社決算は当然のこととして、事業戦略立案における財務視点のサポート、投資家に対する自社のサービスや企業活動の社会価値の伝達、業務プロセス全体におけるキープロセスのモニタリングを通した企業カバナンスの推進などがあります。これらの役割をCFO組織が単独で遂行することは難しく、営業・生産・物流などの機能組織とのコミュニケーションが欠かせません。そのため、部門間の「ヨコのつながり」やトップマネジメントから部・課レベルの「タテのつながり」を強化することが求められます。ヨコやタテの組織の連鎖性を高めるツールしてKPIマネジメントがあります。例えば、売上高のような財務情報を成果KPI、成果を達成するための顧客数や単価などの構成要素をプロセスKPIとして定義し、KPIを共通のモノサシとしてトップの上位目標と部・課レベルの下位目標を設定することで、トップの意思を全社の各組織に落とし込み、プロセスKPIの向上を図ることで成果KPIの達成を図る手法です。KPIツリーの頂点である成果KPIを事業部門が把握できる情報のみで定義していると、全社の経営管理として取り扱っている情報と差異が生じて事業運営と経営管理が乖離するリスクが生じます。これらのリスクを排除するために、トップマネジメントと共に投下投資の再配分を主導するCFO組織が各事業の成果KPIやプロセスKPIといったデータに基づいた問題提起やアドバイスを行うことで、CFO組織が企業のバリューマネージャーとして活躍できると考えます。

組織の連鎖性を高めるKPIマネジメントの例として、S&OP(Sales and Operations Planning)やIBP(Integrated Business Planning)があります。販売予測~生産計画~調達計画~在庫計画といった「モノ」を中心とした計画と「カネ」である利益計画を有機的に連動させることで、市場の変化つまり販売や生産の予測に対する実績の乖離が財務的な企業業績にどのように影響するかを可視化することを目指しています。「モノ」を対象とした需給調整の領域では統計アルゴリズムや機械学習によって予測値の自動作成を導入している企業が多く、データドリブンが進んでいる領域といえます。この自動作成した予測値に対して、事業戦略に基づいた販売促進など経営の意思を反映することで自動作成した予測値が経営計画へ発展し、営業・生産・物流などの各部門はこの共通の計画に沿って活動していきます。CFO組織が、自動作成した予測値に経営の意思を反映する調整作業を全社戦略と整合をとりつつ行うことで、事業運営と経営管理のハブになり、企業全体および事業部門にバリューマネージャーとして貢献できるようになると考えます。

データドリブンはデータ標準化から始める

CFO組織が事業と経営のハブとして機能するには、経営判断に資するデータを収集・蓄積することがまず必要となると考えます。CFO組織が事業部門に対して財務的な観点から問題提起やアドバイスを行うには信頼性のあるデータ・根拠が必要になりますが、多くの企業はこの点に課題を抱えていると認識しています。収集・蓄積しているデータが欠落・不均質な状態では意思決定に活用することは難しく、データの欠落・不均衡な状態は、一企業単位ではなく、企業グループ全体で整形・統一することが重要です。企業グループ全体でのデータの整形・統一を達成するアプローチは大きく3つあります。1つ目はERPに代表される業務システムを、企業グループ全体で統一するアプローチです。2つ目は業務システムを統合せず、企業グループ内のデータ管理ルール、具体的には「データ責任の所在」「取り扱い権限」「データ収集・蓄積のプロセス」「データ構造」を定義し、管理ルールに則ってデータを収集・蓄積していくアプローチです。最後は、1つ目と2つ目のハイブリッド型であり、グループの中核会社は業務システムを統合し、他の子会社は業務システムを統合せず、データ管理ルールによるデータ整備を行うアプローチです。1つ目はデータの標準化だけでなく、業務プロセスの標準化による成果の獲得も一気に目指す場合に適しており、2つ目は企業グループ全体を同一のERPで統一するといった大規模なIT投資を伴わず、データ標準化を段階的に取り組む場合に選択されるアプローチです。3つ目はグループ各社の会社特性・事業特性を考慮しながら、ある程度のスピード感をもちつつ成果を出す折衷案になります。データの標準化を進める際には、経営の可視化を実現するためのグループ連結レベルでの情報分析軸とグループ連結レベルと各社レベルのそれぞれのデータ粒度の定義を行い、データの品質均質化を満たすために各社の業務プロセスの標準化を進めることになります。具体的には、データに関する用語定義や桁数や採番ルールなどのコード体系、コードメッシュの単位などを定義します。子会社や事業部門はこの定義を遵守しながら、事業の成長・拡大に応じてシステムを構築・拡張していきます。

画像2(出典:クニエ, データ標準化アプローチ)

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データドリブンの実現はデータアナリティクス・スキルの獲得が重要

データドリブンによる意思決定とは、可視化されたデータから仮説や気づきを引き出し、データを分解しながら問題点を掘り下げ、仮説検証を繰り返し、仮説検証のノウハウや繰り返しパターンから将来予測を見出していくことだと考えます。これらのステップはテクノロジーも必要ですが、テクノロジーだけで実現できるものではありません。つまり、事業・ビジネスモデルを理解し、インサイトを得るためにテクノロジーを活用してデータを分析するスキルが必要であり、仮説検証を繰り返しながら継続的な改善を果たすには部門間で改善を実行するためのコミュニケーションスキル・コーチングスキルが求められます。

これらのデータアナリティクス・スキルの獲得にはデータアナリティクスの専門家によるトレーニングが有益ですが、それだけで備わるものではありません。データの活用例やデータ活用のテクニックといった基本知識をCFO組織のメンバーが得た上でCFO組織が事業部門に対して財務的な観点からアドバイスを行う役割を企業として与えることが必要と考えます。事業部門とCFO組織が一体となって業績のデータ分析を行うOJTを通して、チームとしてデータアナリティクス・スキルを獲得していくことが重要と考えます。

画像3(「アナリティクスアソシエーション」をもとに作成)

今回のコラムではデータドリブンに焦点をあて、「プロセスマイニング」から得られるデータを活用した生産性の強化策、データドリブン経営に向けてCFO組織が果たす役割とデータドリブン実現に向けて重要となるデータの標準化とデータアナリティクス・スキルの重要性を解説しました。次回コラムでは、クラウドソリューションの活用に関して、筆者が関わってきたクライアント事例を交えながら活用事例や活用時の留意事項を紹介します。

<連載>ニューノーマル時代を見据えた経理・財務部門におけるDXの進め方

第1回 :コロナ対応をデジタル改革へ
第2回 :取引のデジタル化から始めるDX
第3回 :テレワークの推進とガバナンスの強化
第4回 :企業の回復と成長を支えるAgile Finance
第5回 :データドリブンによるレジリエンス(回復力)の獲得

著者紹介

株式会社クニエ
株式会社クニエはNTTデータグループのコンサルティング会社です。グローバルに活躍されるお客様へのコンサルティングはもとより様々な変革に挑戦されるお客様に経験豊富なコンサルタントが高品質なコンサルティングサービスを提供しています。

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