KPI・KGIが形骸化する原因とは?データ主導で企業を成長させる目標管理の秘訣

 2025.11.04 

成功を左右する評価指標

企業の成長に不可欠なKPI・KGIですが、「目標を設定しただけで形骸化している」「データがバラバラで実態が見えない」といった課題を抱えていませんか。多くの企業で目標管理が失敗に終わる最大の原因は、信頼できるデータがタイムリーに集まる仕組み、すなわち「データ基盤」が整っていないことにあります。本記事では、その課題を解決し、データ主導で企業を成長させるための具体的な手法を解説します。

KPI・KGIが形骸化する原因とは?データ主導で企業を成長させる目標管理の秘訣

この記事でわかること

  • KPIとKGIの正しい意味と両者の関係性
  • 部門別でわかる成果に繋がるKPI設定の具体例
  • 多くの企業が陥るKPI管理の失敗原因と対策
  • PDCAサイクルを高速で回すためのデータ基盤の重要性
  • データに基づいた経営判断を実現する仕組みづくり

企業の羅針盤となる目標管理を「生きた仕組み」に変え、確かな成果に繋げる秘訣を解き明かします。

あなたの会社の目標管理、こんな課題はありませんか?

多くの企業が成長のために「KPI(重要業績評価指標)」や「KGI(重要目標達成指標)」といった目標管理手法を取り入れています。しかし、「導入したものの、うまく機能していない」「かえって現場の負担が増えた」といった声が聞かれるのも事実です。これらの指標が形骸化してしまう背景には、いくつかの共通した課題が存在します。

目標は立てたものの、進捗が追えていない

期初に綿密な計画を立てて設定したはずの目標が、日々の業務に追われるうち、いつの間にか忘れ去られていないでしょうか。週次や月次の報告会が、単なる数値の報告だけで終わり、「目標達成に向けた具体的なアクションの議論」に繋がっていないケースは少なくありません。進捗が可視化されていないため、問題の発見が遅れ、期末になって「なぜ達成できなかったのか」という原因不明の結果に頭を抱えることになります。

各部門の報告データがバラバラで実態が見えない

多くの企業では、部門ごとに異なるツールやフォーマットでデータを管理しています。例えば、営業部門はSFA(営業支援システム)やExcel、マーケティング部門はMA(マーケティングオートメーション)ツール、製造部門は生産管理システムといったように、それぞれが独自の指標で活動を報告します。これでは、全社横断で経営状況を正確に把握することが極めて困難になります。経営会議のために各部署からデータを集め、手作業で統合・分析するのに膨大な時間がかかり、ようやく資料が完成した頃には、市場の状況はすっかり変わってしまっているのです。

部門間のデータ分断による課題の例

部門 使用ツール・データ形式 発生しがちな課題
営業部門 SFA、Excelでの案件管理表 ・入力の属人化、更新漏れ
・リアルタイム性に欠ける
マーケティング部門 MAツール、Web解析ツール ・施策の費用対効果が売上と紐づかない
・営業部門との連携不足
製造・サプライチェーン部門 生産管理システム、需要予測データ ・販売計画とのデータ連携が不十分
・過剰在庫や機会損失の発生

経営判断が遅れ、機会損失を招いている

信頼できるデータがタイムリーに揃わなければ、経営層は過去の経験や勘に頼った意思決定をせざるを得ません。その結果、市場の急な変化に対応できず、競合他社に後れを取ってしまいます。例えば、ある商品の需要が急増している兆候をデータで早期に掴めていれば、増産や追加のマーケティング投資といった次の一手を迅速に打てたかもしれません。データに基づいた的確な現状把握と将来予測ができないことは、ビジネスチャンスを逃すだけでなく、経営資源の非効率な配分にも繋がり、企業の成長を大きく妨げる要因となるのです。

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課題解決の鍵となる「KPI・KGI」の正しい理解と実践

企業の目標管理において頻繁に耳にする「KPI」と「KGI」ですが、これらの指標を正しく理解し、連携させて活用することが、データに基づいた企業成長の原動力となります。どちらも目標達成度を定量的に測るための指標ですが、その役割は明確に異なります。この章では、それぞれの定義と関係性を深く掘り下げ、効果的な目標管理の土台となる知識を解説します。

KGIとは?企業の羅針盤となる最終目標

KGIは「Key Goal Indicator」の略称で、日本語では「重要目標達成指標」と訳されます。その名の通り、企業や事業が最終的に達成すべきゴールを定量的に示した指標です。KGIは、組織全体がどこに向かうべきかを示す「羅針盤」の役割を果たします。売上高や利益率、市場シェアといった、事業活動の最終的な成果がKGIとして設定されるのが一般的です。

例えば、「売上を増やす」といった曖昧な目標ではなく、「年間売上高を10億円にする」「市場シェアを3年で5%向上させる」のように、「いつまでに・何を・どれくらい」を明確に数値で定義することが重要です。これにより、誰が見ても達成基準が明確になり、組織全体のベクトルを合わせることができます。

目的 KGIの具体例
事業成長 売上高100億円達成、営業利益率15%達成、新規市場シェア5%獲得
顧客基盤の強化 顧客単価(LTV)20%向上、解約率1%未満、NPS®(ネット・プロモーター・スコア)30ポイント改善
Webサイト/EC ECサイト経由の売上高1億円達成、有料会員登録者数1万人、資料請求数年間1,200件

KPIとは?目標達成への具体的な道筋を示すマイルストーン

KPIは「Key Performance Indicator」の略称で、「重要業績評価指標」と訳されます。KGIが最終的な「結果」を示す指標であるのに対し、KPIはKGI達成までの「プロセス」が適切に進んでいるかを計測するための中間指標です。KGIというゴールにたどり着くための、具体的な道筋に置かれた「マイルストーン」と考えると分かりやすいでしょう。

最も重要なのは、KPIとKGIが論理的に結びついていることです。設定されたKPIを一つひとつクリアしていくことで、最終的にKGIが達成されるという関係性が不可欠です。例えば、KGIが「Webサイト経由の売上1億円」であれば、その売上を構成する要素である「サイト訪問者数」「コンバージョン率(転換率)」「平均顧客単価」などがKPIの候補となります。これらのKPIの進捗を日々追うことで、目標達成に向けた軌道修正を迅速に行うことが可能になります。

KGI(最終目標) KPI(中間目標)の具体例
売上高10億円達成 アポイント獲得数、商談化率、受注件数、平均受注単価、顧客リピート率
ECサイト経由の売上高1億円達成 Webサイトセッション数、コンバージョン率(CVR)、平均注文単価(AOV)、カート放棄率
顧客満足度5%向上 問い合わせ対応時間、初回解決率、製品・サービスの平均評価スコア、お客様アンケート回答率

このように、最終ゴールであるKGIを頂点とし、それを達成するための具体的な行動指標であるKPIへ分解していくことで、日々の業務が経営目標にどう貢献しているかが明確になり、従業員のモチベーション向上にも繋がります。

成果に繋がるKPI・KGIの設定方法【部門別の具体例で解説】

企業の最終目標であるKGIと、それを達成するための中間指標であるKPIは、両者を正しく設定し、論理的に紐付けることで初めてその効果を発揮します。曖昧な目標設定は、現場の混乱を招き、結果として「絵に描いた餅」で終わってしまう可能性があります。本章では、成果に直結するKPI・KGI設定の具体的なアプローチと、部門別の設定例を詳しく解説します。

経営目標から落とし込むトップダウンアプローチ

効果的なKPI・KGI設定の基本は、全社的な経営目標(KGI)から各部門、チーム、そして個人のKPIへとブレークダウンしていくトップダウンアプローチです。このアプローチにより、組織全体の活動が最終目標達成という一つの方向に向かって連動し、一貫性のある目標管理が実現します。まずは企業の羅針盤となるKGIを明確に定義し、そこから逆算して各部門が何をすべきかを具体化していくことが重要です。

KGIを達成するための重要な成功要因を「KSF(Key Success Factor)」と呼びます。KGIを達成するために「何をすべきか」を特定したものがKSFであり、そのKSFが適切に実行されているかを定量的に測定する指標がKPIとなります。この「KGI→KSF→KPI」という論理的な連鎖を意識することで、日々の業務が最終的なゴールにどう結びついているのかが明確になります。

営業部門のKPI設定例

営業部門の目標は、多くの場合、企業の売上に直接的に結びつきます。ここでは、具体的なKGIからKPIへの落とし込み例を見ていきましょう。

KGI:年間売上高12億円(前年比120%)を達成する

上記のKGIを達成するためのKSFとして、「新規顧客の開拓強化」と「既存顧客からの売上拡大」が考えられます。これらを基に、具体的なKPIを設定します。

KSF(重要成功要因) KPI(重要業績評価指標) 具体的な数値目標(例)
新規顧客の開拓強化 新規商談創出数 月間40件
  新規受注件数 月間10件
  受注率 25%
  顧客獲得単価(CPA) 10万円以下
既存顧客からの売上拡大 アップセル/クロスセル提案件数 月間30件
  既存顧客からの受注額 月間3000万円
  顧客単価(ARPA) 年間120万円
  LTV(顧客生涯価値) 500万円

このように、最終目標である売上から逆算し、達成に必要な行動量を具体的な数値でKPIとして設定することで、各営業担当者は日々の活動目標が明確になり、進捗管理も容易になります。

マーケティング部門のKPI設定例

マーケティング部門の活動は多岐にわたりますが、その最終的な目的は営業部門への貢献、ひいては企業の売上向上です。特にBtoBビジネスにおいては、質の高い見込み客(リード)をどれだけ創出できるかが重要なミッションとなります。

KGI:新規の有効リード数を年間1,200件創出する

このKGIを達成するため、Webサイトやセミナー、コンテンツマーケティングなど、様々なチャネルでの活動がKSFとなります。

KSF(重要成功要因) KPI(重要業績評価指標) 具体的な数値目標(例)
オウンドメディアからのリード創出 月間Webサイトセッション数 100,000回
  ホワイトペーパーダウンロード数 月間300件
  コンバージョン率(CVR) 3%
セミナー/イベントによるリード創出 セミナー申込者数 四半期で200名
  セミナーからの商談化率 15%
ナーチャリング(リード育成) メルマガ開封率 20%
  クリック率(CTR) 5%
  有効リード数(SQL数) 月間100件

マーケティング部門のKPIは、営業部門のKPIと密接に関連しています。例えば、マーケティング部門が創出した有効リード数が、営業部門の新規商談創出数の目標達成に不可欠である、というように部門間で連携したKPI設定が重要です。

製造・サプライチェーン部門のKPI設定例

製造業における本質的な価値は、「良いものを(Quality)、より安く(Cost)、より早く(Delivery)」提供することにあります。製造・サプライチェーン部門では、このQ・C・Dを軸にKPIを設定することが一般的です。

KGI:製品Aの製造原価を5%削減し、納期遵守率を99.5%以上に維持する

このKGIは、「コスト削減」と「納期遵守」という2つの大きな目標から成り立っています。これらを達成するためのKSFとKPIは以下のようになります。

KSF(重要成功要因) KPI(重要業績評価指標) 具体的な数値目標(例)
生産性の向上 設備総合効率(OEE) 85%以上
  従業員一人当たりの生産量 5%向上
  製造リードタイム 10%短縮
品質の維持・向上 不良品率 0.1%以下
  歩留まり率 99%以上
  顧客クレーム件数 月間1件以下
在庫・物流の最適化 在庫回転率 年間12回転
  欠品率 0.5%以下

製造部門のKPIは、日々の生産活動に直結する指標が多くなります。これらの数値を継続的にモニタリングし、改善を繰り返すことが、最終的なコスト削減や納期遵守といったKGI達成に繋がります。

失敗を防ぐためのフレームワーク「SMART」の活用

成果に繋がるKPIを設定するためには、その指標が具体的で、誰にとっても分かりやすいものである必要があります。そこで役立つのが「SMART」というフレームワークです。SMARTは、効果的な目標設定に必要な5つの要素の頭文字を取ったものです。

  • S (Specific):具体的であること
    誰が読んでも同じ解釈ができるように、目標は具体的で明確でなければなりません。「営業力を強化する」といった曖昧なものではなく、「新規顧客からの売上を月間500万円増やす」のように具体的に記述します。
  • M (Measurable):測定可能であること
    進捗状況や達成度を客観的に判断できるよう、目標は数値で測定可能である必要があります。定量的な指標を用いることで、達成状況の評価が容易になり、公平な人事評価にも繋がります。
  • A (Achievable):達成可能であること
    目標は、現実的で達成可能な範囲で設定することが重要です。挑戦的でありながらも、決して非現実的ではない目標は、従業員のモチベーション維持に繋がります。過去の実績やリソースを考慮して設定しましょう。
  • R (Relevant):関連性があること
    設定するKPIは、その上位にあるKGIや全社目標と論理的に関連している必要があります。個々のKPIを達成することが、組織全体の目標達成にどう貢献するのかを明確にすることが重要です。
  • T (Time-bound):期限が設定されていること
    「いつまでに」達成するのか、明確な期限を設けることで、計画的な行動を促し、進捗管理がしやすくなります。期限のない目標は、優先順位が低くなりがちです。

例えば、「顧客満足度を上げる」という目標はSMARTではありません。これをSMARTに当てはめて改善すると、「2025年度下期(10月〜3月)までに、製品BのユーザーアンケートにおけるNPS(ネット・プロモーター・スコア)を現在の15から25に向上させる」といった、具体的で実行可能なKPIとなります。このフレームワークを活用することで、目標が形骸化することを防ぎ、組織全体で着実に成果を積み上げていくことが可能になります。

なぜ多くの企業のKPI・KGIは失敗に終わるのか?

多くの企業が目標管理の手法としてKPI(重要業績評価指標)とKGI(重要目標達成指標)を導入しています。しかし、その運用が形骸化し、期待した成果に繋がっていないケースは少なくありません。ここでは、多くの企業が陥りがちな失敗の原因を3つのポイントに絞って解説します。

原因1:KGIとKPIの論理的な繋がりが弱い

最も多い失敗が、最終目標であるKGIと、その達成に向けたプロセス指標であるKPIの間に、明確な因果関係が設計されていないケースです。KPIを一つひとつ達成していけば、自然とKGIが達成されるという論理的な構造になっていなければ、日々の努力が最終的な成果に結びつきません。

例えば、「売上3億円(KGI)」という目標に対して、KPIを「WebサイトのPV数10万回」だけに設定したとします。広告費を投下してPV数を達成しても、それが質の低いアクセスばかりであれば、売上には繋がりません。この場合、PV数だけでなく、「問い合わせ件数」「商談化率」「受注率」といった、より売上に直結する指標を連動させてKPIツリーとして構造化する必要があります。

表1: KGIとKPIの連動性の例(Webマーケティング)

  悪い例 良い例
KGI 年間売上1億円 年間売上1億円
KPI
  • WebサイトのPV数:月間10万PV
  • Webサイト経由の有効リード数:月間100件
  • リードからの商談化率:20%
  • 商談からの受注率:25%
  • 平均顧客単価:200万円
問題点 PV数を達成しても、売上に繋がるかどうかが不明確。 各KPIを達成すると、KGIである売上1億円(100件×0.2×0.25×200万円×12ヶ月)が達成される計算になる。

KGI達成との関連性が低いKPIを設定してしまうと、現場は本来の目的を見失い、KPIを達成すること自体が目的となってしまう「目的と手段の逆転」に陥る危険性があります。

原因2:測定不可能な指標を設定している

次に多いのが、「顧客満足度を向上させる」「従業員のモチベーションを高める」といった定性的で曖昧な目標をKPIとして設定してしまうケースです。このような指標は、達成度を客観的に判断することが難しく、評価者によって解釈が変わってしまうため、目標管理には不向きです。

KPIは必ず「誰がいつ見ても同じように判断できる」定量的な指標でなければなりません。定性的な目標をKPIに落とし込む際は、それを測定可能な代理の指標に変換する工夫が必要です。

表2: 定性目標の定量KPIへの変換例

定性的な目標 測定可能なKPI(例)
顧客満足度を向上させる
  • NPS®(ネット・プロモーター・スコア)を10ポイント改善
  • 既存顧客のリピート率を5%向上
  • 解約率を1%未満に抑制
ブランド認知度を高める
  • 指名検索数を前年比150%にする
  • 業界専門メディアへの掲載回数を年間12回にする
  • SNSのエンゲージメント率を2%向上
従業員のエンゲージメントを高める
  • 従業員エンゲージメントサーベイのスコアを5%改善
  • 離職率を3%低下させる
  • 社内公募制度への応募者数を2倍にする

このように具体的な数値に落とし込むことで、初めて進捗の測定や評価が可能になり、具体的なアクションプランへと繋げることができます。

原因3:信頼できるデータがタイムリーに集まらない【最重要】

そして、最も根本的かつ深刻な原因が、KPIの進捗を測定・評価するために必要なデータを、信頼できる形でタイムリーに収集・分析する仕組みが存在しないことです。どんなに論理的で測定可能なKPIを設定しても、その元となるデータが不正確であったり、収集に膨大な時間がかかっていては意味がありません。

多くの企業では、以下のような課題を抱えています。

  • データの散在:営業、マーケティング、製造など部門ごとに異なるシステムやExcelでデータを管理しており、全社横断での状況把握が困難。

  • 手作業による集計:各部門から集めたデータを手作業で集計・加工しているため、レポート作成に数日かかり、経営判断が遅れる。

  • データの不整合:部門ごとに指標の定義が異なっていたり、入力ミスがあったりと、データの信頼性が担保されていない。

このような状態では、KPIの進捗確認は月に一度の会議の場で行われる「報告のための作業」となり、問題の早期発見や迅速な軌道修正といった、本来の目的を果たすことができません。経験や勘に頼ったKKD経営から脱却し、データに基づいた意思決定(データドリブン経営)を実現するためには、信頼できるデータを一元的に管理し、誰もが必要な時にアクセスできるデータ基盤の整備が不可欠なのです。

「生きたKPI」を運用し続けるための仕組みづくり

KPI・KGIを設定しただけで満足し、いつの間にか誰も見なくなる「形骸化」は、多くの企業が陥りがちな課題です。重要なのは、設定した指標を日々の業務に組み込み、継続的に活用してこそ企業の成長に繋がるという点です。そのためには、KPIを「生きた」状態に保ち、組織全体で運用し続けるための「仕組み」が不可欠となります。

PDCAサイクルを高速で回すためのデータ基盤

「生きたKPI」を運用する核心は、PDCAサイクル(Plan-Do-Check-Action)をいかに速く、そして正確に回せるかにかかっています。このサイクルを円滑に動かすエンジンとなるのが、信頼性の高い「データ基盤」です。データに基づかないPDCAは、勘や経験に頼った不確かなものとなり、サイクルの各段階で停滞や手戻りを生んでしまいます。

Plan:データに基づいた現実的な目標設定

PDCAの出発点である「Plan(計画)」では、データに基づいた現実的かつ挑戦的な目標設定が求められます。過去の実績データや市場のトレンド、自社のリソース状況を分析することで、「頑張れば達成可能」な数値をKPIとして設定できます。勘や希望的観測で立てた高すぎる目標は、現場のモチベーション低下を招き、KPIが形骸化する第一歩となります。

Do:活動のリアルタイムな実績把握

「Do(実行)」の段階で重要なのは、活動実績をリアルタイムかつ正確にデータとして把握することです。例えば、営業部門であればSFA(営業支援システム)から商談の進捗状況を、マーケティング部門であればMA(マーケティングオートメーション)ツールからリードの獲得状況を自動で収集する仕組みが理想です。手作業でのExcel集計などは、入力ミスや報告の遅れを生み、PDCAサイクルを遅滞させる大きな原因となります。

Check:予実差異の迅速な分析と原因特定

「Check(評価)」では、計画(Plan)と実績(Do)の差異を迅速に分析し、その原因を特定します。BI(ビジネスインテリジェンス)ツールなどを活用してKPIの進捗をダッシュボードで可視化することで、誰もが進捗状況を一目で把握できます。重要なのは、単に「達成/未達成」を確認するだけでなく、「なぜその差異が生まれたのか?」を深掘りすることです。例えば、「受注件数」というKPIが未達の場合、その原因が「アポイント数の不足」なのか、「受注率の低下」なのかをデータで切り分けることで、次の具体的なアクションが見えてきます。

Action:データに基づく次の打ち手の決定

「Action(改善)」は、分析結果に基づいて次の打ち手を決定する段階です。データという客観的な事実に基づいて議論することで、より効果的で納得感のある改善策を導き出すことができます。例えば、「受注率の低下」が原因だと特定されれば、「営業トークの見直し」や「提案資料の改善」といった具体的なアクションに繋げられます。このサイクルを繰り返すことで、組織は継続的に学び、成長していくことが可能になります。

ERPによるデータ一元化がもたらす経営の見える化

高速なPDCAサイクルを実現するデータ基盤の構築において、最も強力な解決策の一つがERP(Enterprise Resource Planning/統合基幹業務システム)の導入です。ERPは、従来、営業・会計・生産・人事など部門ごとにバラバラに管理されていた基幹情報を一つのシステムに統合し、一元管理することを可能にします。

データの分断は、KPI運用における最大の障壁です。ERPによってデータが一元化されることで、以下のような変革がもたらされます。

課題 ERP導入前の状況(データが分断) ERP導入後の状況(データが一元化)
データ収集 各部門が手作業でExcelなどにデータを入力・集計。時間がかかり、ミスも発生しやすい。 各業務プロセスで発生したデータが自動的にERPに蓄積され、リアルタイムで把握可能。
データ信頼性 部門ごとにデータの定義や集計ルールが異なり、会議で数字の正しさを議論するところから始まる。 全社で統一された「単一の真実(Single Source of Truth)」が担保され、議論が本質的な分析に集中できる。
分析・意思決定 月次など、限られたタイミングでしか全体の状況を把握できず、経営判断が遅れがちになる。 BIツールとの連携で、経営層から現場まで、必要な情報をいつでも可視化・分析でき、迅速な意思決定が可能になる。
KPI連動性 マーケティングの活動が最終的に売上や利益にどう繋がったのか、部門間のデータを跨いだ分析が困難。 各部門のKPIが最終目標であるKGI(売上・利益など)にどう貢献しているかをデータで明確に追跡できる。

このように、ERPは単なる業務効率化ツールではありません。信頼できるデータを組織の隅々まで行き渡らせ、データに基づいた文化を醸成し、経営全体を「見える化」するための経営基盤です。Oracle NetSuiteのようなクラウドERPは、迅速な導入と柔軟な拡張性を両立し、企業の成長に合わせてKPI管理の仕組みを支え続けます。データ主導で企業を成長させるためには、このような統合されたデータ基盤の構築が、形骸化しないKPI運用の鍵を握っているのです。

よくある質問(FAQ)

Q1. KPIとKGIの違いを簡単に教えてください。

A. KGI(Key Goal Indicator/重要目標達成指標)が「最終的なゴール」を指すのに対し、KPI(Key Performance Indicator/重要業績評価指標)は「ゴールに至るまでの中間目標」を指します。例えば、KGIが「年間売上10億円達成」なら、KPIは「月間新規契約数50件」「顧客単価20万円」といった具体的な指標になります。

Q2. KPIはいくつくらい設定するのが適切ですか?

A. 多すぎると管理が煩雑になり、重要な指標が埋もれてしまいます。一般的には、1つのKGIに対して、特に重要なKPIを3〜5個程度に絞り込むのが良いとされています。多すぎる場合は、指標の優先順位を見直しましょう。

Q3. 設定してはいけない「悪いKPI」の例を教えてください。

A. 「顧客満足度を向上させる」のように測定方法が曖昧なものや、「資料請求数を増やす」のように最終的なKGI(例:売上向上)との繋がりが弱いものは、悪いKPIの典型例です。また、担当者の努力だけではコントロール不可能な指標も避けるべきです。

Q4. KPIツリーとは何ですか?なぜ重要なのでしょうか?

A. KGIを頂点に置き、それを達成するために必要な要素(KPI)を樹木のように枝分かれさせ、構造的に分解した図のことです。KPIツリーを作成することで、KGIと各KPIの論理的な因果関係が可視化され、組織全体で目標達成への道筋を共有しやすくなります。

Q5. KPIを設定しても、現場のモチベーションが上がりません。どうすれば良いですか?

A. 現場が「自分ごと」として捉えられていない可能性があります。トップダウンで決定するだけでなく、KPIを設定するプロセスに現場のメンバーを参加させることが重要です。また、KPI達成が個人の評価や業務改善にどう繋がるかを明確に伝え、納得感を得ることも有効です。

Q6. KPIの進捗はどのくらいの頻度で確認すべきですか?

A. 指標の性質によって異なりますが、行動の改善に繋げられる頻度で見直すことが重要です。例えば、Webサイトのアクセス数のような指標は日次や週次で、プロジェクト全体の進捗などは月次で確認するなど、適切なサイクルを設定します。理想は、リアルタイムでいつでも状況を確認できるデータ基盤を整えることです。

まとめ

本記事では、多くの企業が直面するKPI・KGIの形骸化という課題について、その原因と具体的な解決策を解説しました。目標を設定したものの進捗が追えなかったり、部門間のデータがバラバラで経営判断が遅れたりする問題は、正しい目標管理手法を導入することで解決できます。

KPI・KGIが失敗に終わる原因は、KGIとの論理的な繋がりの欠如や、測定不可能な指標の設定など複数ありますが、最も根深く、かつ重要な原因は「信頼できるデータがタイムリーに集まらない」という点にあります。

企業の成長をデータ主導で加速させるためには、KGIからKPIへと目標を分解するだけでなく、それらの進捗をリアルタイムで正確に把握し、高速でPDCAサイクルを回すための「データ基盤」が不可欠です。ERP(統合基幹業務システム)などを活用して社内のデータを一元化し、経営状況をいつでも「見える化」できる仕組みを構築することが、形骸化を防ぎ「生きたKPI管理」を実現する秘訣と言えるでしょう。

まずは自社のデータ管理体制を見直し、目標達成への確かな一歩を踏出してみてはいかがでしょうか。

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