財務責任者(CFO)が欲しいダッシュボードを考える

 2016.04.27  ひので監査法人 羽入 敏祐 氏

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CFOの役割を考えてみる

企業活動は、世の中に付加価値のある財・サービスの提供を行い、その対価として利益を生み出す、そこで得られた果実は、より多くの方に提供するために、あるいはより良い財・サービスの提供のための改善の取り組みのために活用されることで、持続的運営が実現可能となります。

このような企業活動を促進する上で、安定感のある財務管理は不可欠で、いかに優れたサービスであったとしても、企業活動が存続できるか否かは、そうしたサービス提供を資金的にバックアップできる資金供給が不可欠であり、そうした財務活動の巧拙がその後のサービスの実現可能性を決定するといっても過言ではありません。とりわけ事業規模に大きな変化がもたらされる成長企業においては、資金の動きは良くも悪くも活発となるなか、事業の変化に伴う資金ニーズの変化を的確に捉え、必要資金を必要なタイミングで調達する管理能力が企業経営者に求められることになります。

事業規模が一定程度に収まっている限りにおいては、CEO自らが資金管理責任を負い、自ら資金調達に奔走することになりましょう。しかしながら、事業そのものが好調に進めば進むほど新たなビジネスチャンスは生まれ、そうした新たなチャンスに対応するための施策を講じなければならない時期が到来します。

一定規模の事業拡大とその後の成長が期待される企業においては、そうした企業の成長サイクルの流れの中で、当然の帰結として事業拡大を支える財務管理機能を有するCFO(Chief Finance Officer)が登用されるようになる訳です。

(もちろん米国のように、法人・個人を問わずベンチャーキャピタルが広く経済界に浸透し、リスクマネーが新たなビジネス創造を支える環境が整っている環境では、スタートアップ当初からCFOが事業参画し、CEOと一体となって資金調達に奔走するケースも多いことでしょうし、そこから新たなビジネスが生まれますが、現在の日本ではようやくそうした動きはようやく始まったばかりでというところでしょう。)

事業運営の資金ニーズを充足する財務基盤の構築とその安定運用が求められるCFOではありますが、その機能を満たすためには、毎日の営業活動を正確に把握するための枠組みが必要です。

CFOといいながら、ファイナンスすなわち資金周りのことだけをしておけばよい企業であれば、それはある意味組織として一定レベルまで整備されている環境です。上場企業のCFOの方々はそうした役割にあたりましょう。

各部門から集計される経営情報は、これまで培われてきた社内ルール、長きにわたり適切なトレーニングを受けてきた各担当、そしてそうした役職員を適切に支えるITインフラによって、その正確性が一定程度担保されていることから、CFOは、集約された経営情報を様々な切り口から俯瞰し、今後のビジネスの動きを踏まえた損益見通しと、そうした事業活動の変化に耐えうる財務構造をイメージしながら、直接・間接金融機関に対し、適時適切な情報とメッセージとを発信しつづけ、経営方針を支えるバックオフィスの広告塔としての機能を担うことになります。

他方で、成長途上にある企業におけるCFOの役割はちょっと、というかかなり異なるものです。

コア事業をささえるフロントの人材は、事業成長とともに一定程度習熟度が高まっているものですが、その一方で、裏方の役割を担うバックオフィスについては、フロンとあってのバックですので、どうしても後手になりがちです。古参のスタッフに、日常の支払から請求書発行、入金管理、給与振込、入退社管理までバックにまつわるあらゆる雑務が手間に経理業務をしていることもあるものですから、情報の精度を求めるにしても限界がありましょう。社長も大変そうとは思いながらも、門外漢であり、また、おカネに直結しない業務でもあるから、ついつい、放置プレーが続きます。

いよいよどうにもならずにようやくCFOを登用してみる、そんなことが、成長企業の管理部門にはよくよくあることから、新CFOには事業そのものの習熟度とは裏腹に、正確な経営情報を得るという一見簡単に思える仕組みづくりからのスタートするもの、と思って頂いていたほうが、ギャップが少なくてすむかもしれません。

CFOの日常を考えてみる

仕組みづくりそのものいっても、具体的に何をするのでしょうか。

ベンチャー企業におけるCFOの役割は、基本的にバック全般、守備範囲は多岐に渡ります。

業種によってもれはあると思いますが、ざっと思いつくことを並べてみると以下のような感じでしょうか。

体制整備

  • 組織編制・見直し・社内通知
  • 社内ルール(含むマニュアル等)の整備・見直し・社内通知
  • 社内業務フロー(社内稟議・入退社・販売/購買/在庫管理/固定資産管理など)の構築・見直し
  • 社内管理インフラの構築・見直し

日常

  • 社内稟議のチェック・承認(含む契約書等の最終チェック・捺印)
  • 各種社内申請書(仮払・立替経費など)のチェック・承認
  • 仕訳情報と原始証憑との突合、承認

月次

  • 主要資産・債務残高一覧の作成・査閲・承認
  • 速報ベースの決算内容の作成・査閲・報告
  • (個別・連結)月次決算の作成・査閲・報告
  • 役員会報告(決算・予算実績比較・資金繰表・滞留債権ほか損益に影響を及ぼす事項の報告)
  • 支払処理対応(営業債務・人件費・その他経費の集計、支払予定の策定・査閲、・振込明細と会計帳簿との突合、関連帳票との突合)
  • 入金処理対応(営業債権の集計・入金予定の査閲と滞留債権の確認・担当部署への報告・回収進捗確認)
  • 資金繰り見通しの検証(将来3~6ヶ月程度の運転資金見通しと対策の要否検討)

年末

  • 人事考課・人事評価
  • 納税額の積算・税理士との協議
  • 計算書類・有価証券報告書等外部公表資料の作成・承認
  • 会計士監査対応
  • 株主総会関連資料の作成・承認
  • 年次計画の立案・取りまとめ(月次・年次損益・設備投資計画・人事計画・財務計画)
  • 中期事業計画の立案・取りまとめ(月次・年次損益・設備投資計画・人事計画・財務計画)

不定期

  • 定期決算報告(金融機関・外部株主など)
  • 資金調達に係る協議(金融機関・第三者割当増資)
  • 取引先あるいは契約見直しの検討・交渉(地代・通信費・リース・外部委託業者など)
  • 取引先の与信等調査(各種調査会社)
  • 税務調査対応(税理士)
  • 係争事件の対応(弁護士)
  • 組織再編対応(グループ内再編・M&Aのリスク分析・受入事務など)(弁護士・FAアドバイザー)
  • 役員改選ほか登記(司法書士)

赤字のハイライト箇所は財務基盤づくりを担うCFOが行なうべき役割の主だったところではありますが、資金見通しは、営業予算をはじめとして一定の仮定のうえで成り立つものに過ぎず、所与の想定が崩れた場合、資金見通しも大きく狂うことになるため、事業全体を広く俯瞰しておく視野の広さは重要です。

その一方で視野を広げようとしても、既存の管理体制ではそもそも必要な情報が手に入らない場合もあることから、そうした情報を一から作り上げなければならないケースも少なくないものです。それゆえ、資金あるいは決算にまつわるところだけを見ていればあとは大丈夫といった考えですと、たとえば、社長が心の中で既に決定済みの新規事業あるいは買収情報といった、資金に重要な影響を及ぼすような肝の情報を入手できず、後に冷や汗をかくことになりますので、ご注意いただきたいところです。

ルールなきところにルールを作り、書類なきところに書類を作る。

与えられたものをこなす、のではなく、必要なものを自ら考え、作り出し、その運用を地道に続けること。

そうした地道な業務の繰り返しから得られた裏づけの取れたデータの積み重ねが、経営情報全般の精度を引き上げることになります。

個別案件に首を突っ込みすぎると全体を見渡せないし、だからといってやるべきところに手を突っ込まず部下の仕事を待つばかりでは、ことは進まない。時には一作業者として自ら実務に手を突っ込み、業務が安定稼動するまで作業を進める。

新たな橋渡し役:デジタル業務を再構築するCFOと財務部門
CFOがビジネスを牽引すべき理由

ベンチャー企業の社内のルール作りとプロセス構築、途方にくれることと受け止める方もいらっしゃるかもしれませんが、バックオフィス目線で企業運営全体を掌握するための仕組みづくりをする役割と捉えれば、なかなか醍醐味のある業務ともいえるのではないでしょうか。

CFOが欲しい情報を考えてみる(ダッシュボード)

日常の情報の精度がCFOの意思決定の精度の要。しかしながら、欲しい情報であったとしても、時期を逃した情報はいかに正確であっても無意味なもの。営業情報も鮮度があると思いますが、将来の安定稼動を目指すCFOにとっても、タイムリーな情報を一定レベルの精度で入手する必要があります。

(資金ショートの前日に正確な資金繰り表が出てくることをイメージして頂ければ、直感的に理解いただけるかと思います。)

では、CFOがその職務を遂行するために必要とするであろう、経営情報にはどのようなものを求めるのか、少し整理してみましょう。

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月次決算推移

財務をつかさどる責任者として、説明責任を大いに求められ得るのは、何はともあれ、決算情報。少なくとも月次決算情報がタイムリーに入手できる環境づくりが第一歩でしょう。上場非上場の差はありますが、健全な経営を目指す企業であれば、毎月締め後5営業日程度には速報値、10営業日で確定値が提示できることを目指して頂きたいところです。

集計の手間を考えてか、単月の情報だけ、しかも時に損益報告だけのケースも散見されますが、事業運営の動向の変化が無いかを理解するためですので、PLは月次推移(前年同期比があれば尚可)が望ましい、加えて財務構造の変化を捉えるためにも、BSについても月次推移で管理いただきたいです。財務基盤のゆがみは結局のところ、企業運営の要となるキャッシュフローに大きな影響を及ぼします。財務構造の動きを把握せずして安定的事業運営は望めません。

手元資金の有り高は十分か、借入金残高は不必要に増加していないか、運転資本の動きに異変は無いか、滞留在庫あるいは滞留債権が資金繰りを圧迫しているおそれは無いか、投資資産に価値の劣化したものは無いか、劣化資産を除外した場合、債務超過になりはしないか、などなど気になる点は様々です。

事業規模の変化が財務基盤にどのような変化をもたらしていくのかを時系列で追いつづけることで、事業と決算情報との相関関係を理解するとともに、将来の事業の変化に対してCFOがとるべき手立てを一定の仮説と検証を交えながら検討を重ねることになりましょう。

連結決算

上場企業において連結決算は一般化しているものですが、未上場においては特段求められるものでもないことから、作成する企業はごくごくわずかかもしれません。

しなしながらグループ全体を係数で俯瞰するうえで連結決算情報、とりわけBSの実態把握は、グループ全体の真の財務構造を把握しておく上で有用です。未上場企業においてもM&Aが決してと特別なことではなくなった今、新たなビジネスチャンスを得るべく、M&Aを通じた事業拡大の選択肢におこうとする経営者はこれからも増えていくことが予想されます。

その一方で、M&Aの特性ゆえ、とかく十分な時間が与えられない事業再編において、多面的視点に立ちながらスピーディかつ的確な意思決定が、当事者相互に求められるもの。的確な判断のためには、相手方の精査はもちろんですが、自社グループ全体を把握しておくことが必要です。

損益構造とその損益を生み出すために必要とされる資金規模を連結ベースの決算情報をもって全体把握を常日頃からしておくことは、少なからずCFOに心の余裕をもたらし、限られた中でも財務最高責任者としての適切な情報提供と経営判断の一助となることと思います。

株式公開だから連結決算するとい意味ではなく、M&Aの日常化を踏まえた、つまりは、経営トップの機動的な経営判断に柔軟に対応できる体制作りの一環として、連結決算情報を定期的に生成できるグループ管理体制づくりも、これから成長企業を支えるCFOに求められる責務のひとつかもしれません。

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営業予算

決算情報は、なにはともあれ、CFOの主戦場、ある意味、管理周りの人材だけでその精度を向上させることができる情報です。しかしながら、決算情報は所詮、過去を振り返るための結果情報。持続的財務基盤づくりを構築するには、できる限り正確な先行指標を入手する必要があります。

その意味で、営業現場の総責任者が策定する営業予算は、CFOにとっても重要な社内情報です。

営業予算は、将来(一般的には年次でしょう)の売上高あるいは売上原価を含めた売上総利益など、事業損益を決定付ける最も重要な予算で、営業責任者により策定されます。

業種あるいは企業文化によって予算編成方法はまちまちですが、受注情報が見える業界では受注残を基礎に、その後の受注見通しを過去のトレンドおよび足元の引き合いの状況を踏まえ、決定します。

営業主体のビジネスの場合、営業の各担当者に営業目標が設定されますので、営業目標の積上げが営業予算となります。管理部主導型の予算編成であれば、達成可能性を重視し、比較的固めの予算になりがちですが、手堅い数値だけでは営業現場が停滞するリスクもありますので、努力目標を上積みした営業予算が編成されることが多いようです。

企業によっては売上高といったシンプルなベンチマークだけを営業予算にしてしまうところもあります。もちろんマーケットがいわゆるブルーオーシャンで、新たな取り組みをせずとも強い引き合いが見込まれる環境においては、こうしたシンプルな予算編成も機能しますが、あくまで努力目標の枠組みを超えない管理手法で、予算の策定根拠も不明確ゆえ、差異発生原因を把握することが、困難であるため、市況変化の予想される業界における管理手法としては不向きでしょう。

営業予算編成は、過去実績を一定程度加味するとともに、営業担当の皆さんにとって分かりやすいベンチマーク(受注残、件数、平均単価、受注割合、納品日数など)との組み合わせをもって策定することが望まれます。

商品別・取引先別月次推移

過去情報といえども、売上あるいは売上総利益のトレンドが今後の事業見通しを予測する上では依然として欲しい情報のひとつ(おおよそどの会計ソフトにも機能として入っていますが、それをいちいち経理担当に報告させるにも月締めを待たないと手に入らず、機を逸した感もありましたが、今は、ダッシュボードで見たいときにリアルタイムで見ることができるようになったのはうれしい限りです。)

既存顧客との取引のトレンドを見据えて、今後も伸びるのか、あるいは減るのか、販売商品の売れ筋に変化は無いか、営業担当者からの報告は先行指標として有用ですが、その精度を過去情報との突合せをもって確認するうえでも、商品別あるいは得意先別売上高等の情報を常日頃から目にしておきたいものです。

また、急伸する取引先があれば、その取引の合理性についてはウォッチしておくべきでしょう。適切な与信手続きを経ていない取引先との取引が、不良債権となって大きな痛手となりうること、決して特別なことではありません。

時に、事業規模が大きくなり始めると、そうしたトレンドを踏まえ、30%成長、50%成長といった大きなビジョンで描かれた事業計画が生まれやすい環境に陥りがちです。

もちろん、所属するマーケット全体が成長過程にある場合、あるいはマーケット全体は停滞していても他社を圧倒するなにかがあれば、そうしたビジョンは至極真っ当なものとして社内でも受け入れられることでしょう。

しかし、もし、そうした環境でない業界で同様の成長を維持するには、M&Aなど既存事業以外の新たな戦略なしには成り立ちえないものです。

そうしたおおくくりな情報だけでは見えない経営実態を取引先別・商品別に随時目を通し、事業環境の変化をバックオフィスなりの冷静かつ客観的目線で捉えておくことが変化の大きな今の経営環境においてCFOに求められているのではないでしょうか。

月次決算推移、連結決算情報、営業予算、以上に挙げた必要情報は、あくまで一例であり、企業のおかれた環境あるいは経営者の目指す管理体制に応じて変わるものですから、例えばソフトウェア開発会社であればプロジェクト別損益管理、メーカーであれば、商品別在庫・入出庫情報といったように各社の実情に応じてダッシュボードを順次策定していくことになりましょう。

的確な会社全体の意思決定のためにCFOが求める社内情報がなにかは各社様々でありましょうが、少なくとも、企業内部で共有する事業計画あるいは営業予算の精度がCFOの業務の巧拙を大きく左右することは間違いありません。

CFOが社内外に発信した経営情報に誤りがあった時点で、CFO自身、ひいては会社そのものへの信頼を大きく毀損するものです。

金融機関をはじめとする外部関係者はCFOとの対話あるいはそこかれえられる経営情報を通じて、経営情報の全般をつかさどるCFOが、どういった管理体制をめざし、どのような情報・ベンチマークで経営全体をウォッチし、企業運営をグリップしているかを見定めています。

財務会計に限ったことではありませんが、経営情報の正確性を高めるためには、中途半端に部門から報告を受けるよりもむしろ、情報ソースからダイレクトに入手・レポーティングできるにこしたことはありません。

BIツールを利用するのか、ERPをカスタマイズするのか、管理部門のおかれたITインフラ環境に応じて選択肢は各種各様ではありますが、いずれの手法を選択するにせよ、社会的信頼性の向上を実現する上で目指すべき現実的解決策のひとつとして基礎情報からダイレクトに生成・集約される経営情報の管理報告体制作りを一歩ずつでも進めていただきたいものです。

著者紹介

hanyu-samaひので監査法人 羽入 敏祐 氏

監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)入所、上場企業等監査業務に従事。会計事務所にて会計・税務全般およびM&A関連各種業務事業会社では経営管理実務、IPO準備全般に従事。
監査・経営実務経験を踏まえたITインフラ提案力に強み

ひので監査法人について

ひので監査法人は、2009年5月 設立、大手監査法人の監査経験者と事業会社のマネジメント経験者から構成され、上場準備、中堅国内上場企業向けの効率的監査サービス、バックオフィス支援サービスの提供をしております。信頼される会計プロフェッショナルとしていかに成長し続けていくかを日々模索し、監査ならびにバックオフィス構築サービスの品質維持・向上に取り組んで参ります。

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